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みたことのない姿
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「ちゅぐぅちゃ。あいるたん、かーいー」
「気に入ったかな?」
「? なーにー?」
「ははっ。難しかったか」
コテンと首を傾げる可愛い直くんに癒される。
浴室に私の笑い声が響くと、直くんも嬉しそうに
「きゃっ、きゃっ」
と笑い始めた。
「二人でご機嫌だね」
すっかり着替えを終えた絢斗が扉から顔をだしてくる。その表情はとても嬉しそうだ。
「着替えが終わったか。じゃあ、私たちも出よう」
直くんを抱っこしたまま湯船から出ると絢斗が大きなバスタオルを持って待ち構えてくれている。
きっと自分もそうやって秋穂さんや賢将さんにしてもらっていたのだろう。
風呂に入る時に怯えていた姿とは明らかに違う、楽しげな直くんを抱きかかえてベビーベッドに運ぶ。
ふわふわのバスタオルで包み込んだ姿はまるでてるてる坊主のようで可愛い。
私はその間に、身体を拭きパジャマに着替えた。
「卓さん、お薬つけないと」
「ああ、そうだったな」
ベッドに置いていた黄色い蓋の薬を開けると中には透明な軟膏が入っている。
これを薄く塗るんだったな。
ソファーに置いていた紙袋から絵本を取り出して絢斗たちの元に戻った。
「絢斗、私が直くんの気を引いておくからその間に薬をつけてやってくれ」
「わかった」
絢斗に薬を手渡し、私は直くんの顔がよく見える位置に移動した。
「ほら、直くん。絵本だよ」
なんの本がいいかと考えて選んだのは赤ずきん。
「かーいーね」
読んであげると、赤ずきんを指差して楽しそうにしている。
その間に絢斗は傷口に薬を塗り終えた。
そして、母が部屋に届けておいてくれた可愛いクマの着ぐるみパジャマを早速着せてくれたようだ。
「わぁ、見て! 卓さん! すっごく可愛い!!」
絢斗が小さなクマ、いや、直くんを優しく抱き上げる。
その姿があまりにも可愛くて写真を撮って両親に送ってやろうと思ったが、パジャマ姿の絢斗が一緒に映っているのを見ていいのは私だけだ。後でベッドに座っている直くんを撮って送ってやればいいか。
絵本に夢中な直くんと一緒にベッドに戻り、直くんを膝に乗せて後ろから覆うように抱きしめる。
そんな格好で赤ずきんを読み聞かせしているとぱしゃっとシャッター音が聞こえた。
「んっ?」
「卓さんと直くん、撮っちゃった。これ、うちの両親と磯山のご両親にも送っておくね」
「私なんて撮っても仕方ないだろう。直くんだけでよかったのに」
「ううん、卓さんと一緒だからいいの。直くんだって嬉しいよねー」
「ちゅぐぅちゃ、うれちー」
可愛い直くんにそんなことを言われてはもう笑顔しか出ない。
その表情も絢斗に撮られて送られたようだ。
きっと父たちは驚いただろうな。
<side毅>
昇が動画の直くんを見て可愛いと言ったことに驚いた。
その後もずっと昇からは直くんの話題で持ちきりだ。
それどころか、絢斗さんから母に送られてきた直くんの動画をずっと見せてもらっている。
それほど昇が気に入ったことに二葉と一緒に驚きを隠せなかった。
今までどんなものも器用になんでもこなしていただけに、何かに執着するなんてことはなかった。
その昇の変化に親として驚きしかない。
「毅、せっかく来たんだ。夕食を食べていくだろう?」
「ああ、えっと……二葉、どうする?」
父からの誘いに二葉の意見を聞こうかと思っただけだったが、
「ちょっと、毅。二葉さんに選ばせるなんて気を遣うに決まっているでしょう?」
すぐ近くにいた母に叱られてしまった。
「ごめんなさいね、毅ったら気が利かなくて……」
「いえ、大丈夫です。昇もまだいたいようですし、一緒に夕食をいただいてもいいですか?」
「ええ。ちょうどいいお肉をたくさんもらったところなの。二葉さんのところに送ろうと思っていたからうちでいっぱいステーキを食べていって」
「じゃあ、お手伝いします」
二葉は嬉しそうに母とキッチンに向かった。
あの二人は本当の親子みたいに仲がいい。
しかも、絢斗さんと三人になるとさらにパワーアップするんだよな。
まぁ、嫁姑の仲がいいのはいいことだけどな。
「毅、今日はステーキにするようだから、準備をするぞ」
「あ、はい。わかりました」
「じいちゃん、おれもてつだうー!」
ずっと動画を見ていた昇が突然やってきて驚いたが、昇はいつもそうだ。
周りを見ていない感じでもしっかりと周りの様子を見ている。
二葉が困ることは絶対にしないし、直くんにとってはいいお兄ちゃんになってくれるだろうな。
自分の息子の逞しさに安心しながら、俺は夕食の準備を手伝った。
夕食の肉は絶品だった。
昇も小学一年生とは思えないほどの食欲で、大人一人分くらいは余裕で食べていたと思う。
その間もずっと、
――この柔らかいお肉なら直くんも食べられるかなー
と直くんの話題しか口にしていなかったことには少し笑ってしまった。
父と二人で片付けを済ませていると、まだスマホで動画を見ていた昇が突然母のところに歩き出した。
「ばあちゃん、なんか来たよ」
「あら、何かしら?」
どうやら着信か、メッセージでも届いたようだ。
「ああ、絢斗くんからよ。あら、まぁっ! ふふっ、よく似合うわー!!」」
メッセージを開いた瞬間、母の表情が見たこともないほど綻んでいるのが見える。
「見て、二葉さん」
「あら、可愛い! お義兄さんも素敵!」
兄さん?
なんだ? 一体何が送られてきたんだ?
気になるが片付けを放置して見にいくわけにもいかない。
「おかーさん! おれにもみせてーー!」
昇が二葉に声をかけると、二葉は嬉しそうに画面を見せた。
「わぁー、かわいい! くまだー!!」
どういうことだ?
兄さんが、くま?
頭の中がはてなでいっぱいになっていると、
「おとーさん、みてみてー!」
昇が画面を見せながらこっちにやってきた。
そうして見せてくれた画面には、可愛いくまの着ぐるみパジャマを着た赤ちゃんを抱っこしている、笑顔の兄さんの姿があった。
「気に入ったかな?」
「? なーにー?」
「ははっ。難しかったか」
コテンと首を傾げる可愛い直くんに癒される。
浴室に私の笑い声が響くと、直くんも嬉しそうに
「きゃっ、きゃっ」
と笑い始めた。
「二人でご機嫌だね」
すっかり着替えを終えた絢斗が扉から顔をだしてくる。その表情はとても嬉しそうだ。
「着替えが終わったか。じゃあ、私たちも出よう」
直くんを抱っこしたまま湯船から出ると絢斗が大きなバスタオルを持って待ち構えてくれている。
きっと自分もそうやって秋穂さんや賢将さんにしてもらっていたのだろう。
風呂に入る時に怯えていた姿とは明らかに違う、楽しげな直くんを抱きかかえてベビーベッドに運ぶ。
ふわふわのバスタオルで包み込んだ姿はまるでてるてる坊主のようで可愛い。
私はその間に、身体を拭きパジャマに着替えた。
「卓さん、お薬つけないと」
「ああ、そうだったな」
ベッドに置いていた黄色い蓋の薬を開けると中には透明な軟膏が入っている。
これを薄く塗るんだったな。
ソファーに置いていた紙袋から絵本を取り出して絢斗たちの元に戻った。
「絢斗、私が直くんの気を引いておくからその間に薬をつけてやってくれ」
「わかった」
絢斗に薬を手渡し、私は直くんの顔がよく見える位置に移動した。
「ほら、直くん。絵本だよ」
なんの本がいいかと考えて選んだのは赤ずきん。
「かーいーね」
読んであげると、赤ずきんを指差して楽しそうにしている。
その間に絢斗は傷口に薬を塗り終えた。
そして、母が部屋に届けておいてくれた可愛いクマの着ぐるみパジャマを早速着せてくれたようだ。
「わぁ、見て! 卓さん! すっごく可愛い!!」
絢斗が小さなクマ、いや、直くんを優しく抱き上げる。
その姿があまりにも可愛くて写真を撮って両親に送ってやろうと思ったが、パジャマ姿の絢斗が一緒に映っているのを見ていいのは私だけだ。後でベッドに座っている直くんを撮って送ってやればいいか。
絵本に夢中な直くんと一緒にベッドに戻り、直くんを膝に乗せて後ろから覆うように抱きしめる。
そんな格好で赤ずきんを読み聞かせしているとぱしゃっとシャッター音が聞こえた。
「んっ?」
「卓さんと直くん、撮っちゃった。これ、うちの両親と磯山のご両親にも送っておくね」
「私なんて撮っても仕方ないだろう。直くんだけでよかったのに」
「ううん、卓さんと一緒だからいいの。直くんだって嬉しいよねー」
「ちゅぐぅちゃ、うれちー」
可愛い直くんにそんなことを言われてはもう笑顔しか出ない。
その表情も絢斗に撮られて送られたようだ。
きっと父たちは驚いただろうな。
<side毅>
昇が動画の直くんを見て可愛いと言ったことに驚いた。
その後もずっと昇からは直くんの話題で持ちきりだ。
それどころか、絢斗さんから母に送られてきた直くんの動画をずっと見せてもらっている。
それほど昇が気に入ったことに二葉と一緒に驚きを隠せなかった。
今までどんなものも器用になんでもこなしていただけに、何かに執着するなんてことはなかった。
その昇の変化に親として驚きしかない。
「毅、せっかく来たんだ。夕食を食べていくだろう?」
「ああ、えっと……二葉、どうする?」
父からの誘いに二葉の意見を聞こうかと思っただけだったが、
「ちょっと、毅。二葉さんに選ばせるなんて気を遣うに決まっているでしょう?」
すぐ近くにいた母に叱られてしまった。
「ごめんなさいね、毅ったら気が利かなくて……」
「いえ、大丈夫です。昇もまだいたいようですし、一緒に夕食をいただいてもいいですか?」
「ええ。ちょうどいいお肉をたくさんもらったところなの。二葉さんのところに送ろうと思っていたからうちでいっぱいステーキを食べていって」
「じゃあ、お手伝いします」
二葉は嬉しそうに母とキッチンに向かった。
あの二人は本当の親子みたいに仲がいい。
しかも、絢斗さんと三人になるとさらにパワーアップするんだよな。
まぁ、嫁姑の仲がいいのはいいことだけどな。
「毅、今日はステーキにするようだから、準備をするぞ」
「あ、はい。わかりました」
「じいちゃん、おれもてつだうー!」
ずっと動画を見ていた昇が突然やってきて驚いたが、昇はいつもそうだ。
周りを見ていない感じでもしっかりと周りの様子を見ている。
二葉が困ることは絶対にしないし、直くんにとってはいいお兄ちゃんになってくれるだろうな。
自分の息子の逞しさに安心しながら、俺は夕食の準備を手伝った。
夕食の肉は絶品だった。
昇も小学一年生とは思えないほどの食欲で、大人一人分くらいは余裕で食べていたと思う。
その間もずっと、
――この柔らかいお肉なら直くんも食べられるかなー
と直くんの話題しか口にしていなかったことには少し笑ってしまった。
父と二人で片付けを済ませていると、まだスマホで動画を見ていた昇が突然母のところに歩き出した。
「ばあちゃん、なんか来たよ」
「あら、何かしら?」
どうやら着信か、メッセージでも届いたようだ。
「ああ、絢斗くんからよ。あら、まぁっ! ふふっ、よく似合うわー!!」」
メッセージを開いた瞬間、母の表情が見たこともないほど綻んでいるのが見える。
「見て、二葉さん」
「あら、可愛い! お義兄さんも素敵!」
兄さん?
なんだ? 一体何が送られてきたんだ?
気になるが片付けを放置して見にいくわけにもいかない。
「おかーさん! おれにもみせてーー!」
昇が二葉に声をかけると、二葉は嬉しそうに画面を見せた。
「わぁー、かわいい! くまだー!!」
どういうことだ?
兄さんが、くま?
頭の中がはてなでいっぱいになっていると、
「おとーさん、みてみてー!」
昇が画面を見せながらこっちにやってきた。
そうして見せてくれた画面には、可愛いくまの着ぐるみパジャマを着た赤ちゃんを抱っこしている、笑顔の兄さんの姿があった。
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