虐待されていた天使を息子として迎え入れたらみんなが幸せになりました

波木真帆

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「ねぇ、保さん。こっちのカーディガンだけでもいいから羽織ってみて」

「えっ、あ、はい」

パジャマと一緒に入っていたカーディガンを取り出すと、彼はゆっくりとそれを病院着の上に羽織った。

「わっ、すごく着心地がいいです。それにあったかい」

少し長い袖で頬をすりすりと撫でる。そんな仕草をする彼がなんだか可愛らしく思えるのは、なんとなく絢斗くんに似ているからだろうか。

「よかったわ、気に入ってもらえて」

沙都は自分の選んだ服を喜んでもらえて嬉しそうだ。

「ありがとうございます。パジャマもあとで着させてもらいますね」

「今度は私も選んでくるわ」

「そんなっ、いいんですか?」

「パジャマなんて何枚あってもいいんだから。ねぇ、絢斗」

嬉しそうな保さんの表情を見て、秋穂さんも選びたくなったようだ。絢斗くんにも賛同を求めると絢斗くんも笑顔を見せた。

「うん。保さんのも直くんのも選びにいこう」

「あら、それはいいわ。じゃあ三人で買いに行きましょう」

沙都はすっかり乗り気になって二人を誘う。
これは私もお供でついていかなければいけないな。
あとで賢将さんと卓にも話をしておこう。

「さぁ、そろそろ保さんを休ませてあげよう」

「ええ、そうね。保さん、また来るわ」

「はい。今日はありがとうございます」

沙都と秋穂さん、そして絢斗くんの三人はどんなタイプでも物怖じせずかなりグイグイいくタイプだから少し心配だったが、今の保さんは、初対面の時の保さんとは打って変わったような穏やかな表情をしていてホッとした。
意外といい組み合わせなのかもしれないな。きっと毅の妻の二葉さんともうまくやっていけそうだ。

<side卓>

「卓さん!」

笑顔でこちらにやってきた絢斗の様子で、保さんが母の選んだものを気に入ったというのがよくわかった。

「保さん、喜んでいたよ」

「そうか、それはよかった」

母と秋穂さんの表情も和らいでいる。これで私の失態も忘れてくれたらいい。

「絢斗を直くんの部屋に送ったら、私は一度事務所に戻るよ。用事を済ませてから戻ってくるからそれまで一人で待っていてくれるか?」

「うん。もしかして、今日は泊まり?」

「ああ。私と絢斗で直くんの部屋に泊まろう。明日からは母さんたちや、秋穂さんたちにも交代で泊まっていただきたいですがいいですか?」

ようやく元気になってきた直くんをあの広い部屋に一人で泊まらせるのは忍びない。
そのために宿泊もできる部屋に入っているのだし、交代で泊まればその間に直くんとも仲良くなれるだろう。

「ええ、もちろんよ。ねぇ、秋穂さん」

「ええ。直くんと一緒に過ごせるなんて嬉しいわ」

母と秋穂さんが了承してくれれば父も賢将さんも断ることはない。

「あの部屋にはお風呂もトイレもついていますから安心してください」

「それじゃあ。うちは明日泊まるわ」

「それじゃあうちは明後日ね」

時間帯については絢斗も含めてそれぞれで話し合って貰えばいい。

「絢斗、じゃあ直くんのところに行こうか」

父たちとはその場で別れ、私たちは直くんの部屋に戻った。

「まだ寝ていますよ。もうすぐ起きる頃だと思います」

「ありがとうございます。助かりました」

「保さんとご両親の様子はいかがでしたか?」

「それがうちの両親も絢斗の両親もどちらも保さんを気に入ったようで、退院後にどちらの家で暮らすか悩みそうです」

父が絢斗たちと一緒に保さんの部屋に向かった後、賢将さんと二人で残された私は、保さんを家に住まわせたいという賢将さんの熱い思いをずっと聞いていた。

確かに、我が家には弟家族もいてすでに昇という孫もいる。
普段は父と母の二人暮らしの家だが、弟の妻である二葉さんは時折昇を連れて実家を訪問してくれて、家族で泊まることもある。だから緑川家に比べれば楽しい時間を過ごしていると言える。

絢斗の実家は絢斗以外の子どもがいないからな。
私たちが訪問しない限りはほぼ毎日二人きりの生活だ。
保さんが暮らすようになれば、楽しい時間も増えるだろう。

だが意外にも父が乗り気だったからな……。

さて、どうしようか。本当に悩むところだ。

「あら、保さん。そんなに気に入られたんですね。それはそれで嬉しいことだと思いますよ。弱っている時に自分を求められるのは自信につながりますから」

「確かにそうですね」

何よりも保さん自身の気持ちが大切だな。
もう少し時間をかけてゆっくりと考えてみるか。

「あ、今日は私たちがここに泊まります」

「わかりました。それではベッドをお持ちしますね」

「いえ。ベッドは大丈夫です。ここで三人寝られそうですから」

広々としたベッドは三人でも余裕で眠れる。
このうえで直くんが遊ぶことも見越しての広いベッドだったが、家族で寝るには十分だ。

「その方が直くんも喜びそうですね。では夕食だけお持ちしますね」

榎木先生が部屋を出て行って、直くんが寝ているベッドに絢斗が横たわる。
すると、直くんがすぐにそちらに身体の向きを変えた。絢斗は直くんを優しく抱きしめて笑顔を見せる。

私はそんな二人を優しく抱きしめ頬にキスをして、名残惜しく思いながらも部屋を出た。
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