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大きな一歩

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「卓さん。直くんのこと、お互いの両親に認めてもらえてよかったね」

「ああ。もし反対されても考えを変えるつもりはなかったが、やはり家族に賛成してもらえるのは嬉しいよ。直くんと保さんにとっても反対している家族がいるというのは不安に感じるだろうからね」

「うん。そうだね。私、直くんを預かれるのが待ち遠しいよ。お父さんたちも今頃そう思ってるはず」

「ははっ。そうだな」

絢斗の実家からの帰り道、久しぶりの助手席に乗って、絢斗との楽しい時間を過ごしていると、それを阻むように私のスマホが振動を告げた。

「何か忘れ物でもしたのかな?」

「いや、毅からだ。きっと母さんから話を聞いたんだろう」

別に口止めをするような話ではなかったから、何も言わなかったがまさかこんなにも早く母が毅に伝えるとは思っていなかった。それほど、母にとっては重要な出来事だったのかもしれない。

「悪い、取らなかったらうるさいから取るよ」

一応絢斗に了承を取って電話を取ると、スピーカーにしていないにも関わらず電話口から毅の大きな声が漏れ聞こえてきた。

ーもしもし、兄さん!

ーなんだ、電話口で叫ぶな。絢斗が驚いてるぞ。

ーえっ、あっごめん。でも、驚いて……母さんが言ってたこと、本当なのか?

ー何のことだ?

そう言いつつ、私はスピーカーボタンを押した。絢斗にも毅の気持ちを聞いていてほしいからな。

ー里子を預かるって話だよ。

ーああ、それなら本当だ。これから手続きを始めるところだからすぐではないが、近いうちに正式に里子として預かるよ。

ーで、でも、兄さんはずっと絢斗さんと二人でいいって言ってただろう? 絢斗さんに無理させてるんじゃないのか?

ーそれなら気にしないでいい。絢斗もその子に会って絢斗自身が里親になりたいと言ってくれた。

ーで、でも!

ーなんだ、毅。お前は反対なのか?

ーえっ? いや。そういうわけじゃないけど……心配なんだ。自分の子を育てるのも大変なのに、血のつながりもない子を育てるなんて……。

ーそれは確かにそうだろう。実際に毅は昇の親として育ててきて、育児の面では先輩だから毅の言いたいことはよくわかる。

ーだろう? それなら……

ーだが、血のつながりだけでは言い表せない縁もあるんだよ。私は初めて直くんと会った時に、この子は絶対に守ると誓ったんだ。絢斗も私と同じ気持ちだよ。だから、毅がどんなに反対しても意見を変えるつもりはない。お前がそれで私たちとの縁を切りたいというのなら寂しいが受け入れるしかない。それくらいの覚悟は持っている。

ー兄さん……。わかったよ。もう何も言わない。父さんも母さんももうすでにその子を孫として受け入れているようだったからわかってはいたんだ。でも、兄さんの覚悟をはっきりと聞けてよかった。俺たちもちゃんと家族だと思って接するよ。昇にもちゃんと話をしておく。あの子は歳の割にちゃんと判断ができる子だから、兄さんたちの子どもというか、従兄弟? として認識すると思うよ。

ー直くんには昇のような兄的存在ができるのはいいことだから、昇が仲良くしてくれたら嬉しいよ。今はまだ入院中だから実家に連れて行く時には連絡するから。

ーわかった。兄さん、騒いでごめん。

ーいや、毅の気持ちが聞けて嬉しかったよ。心配してくれてありがとう。

電話を切ると、絢斗が嬉しそうに笑顔を向けた。

ー毅さん。卓さんを心配したんだね。

ーああ、こんな機会でもないと毅とこんな話をすることはなかっただろうからよかったと思うよ。

ーそうだね。それに昇くんだけど、きっと直くんのこと可愛がると思うな。

ーそうか?

ーうん。そんな気がする。

絢斗の意味深な笑顔が気になったものの、一人っ子の昇には直くんが可愛い弟のような存在になることは間違いない。
こうして私たちは家族全員の賛成をもらい、里親になる決意を固めた。


里親になるには特別な資格はないが、子どもの安全を守るため通常は児童相談所の職員の調査を受け、子どもの養育に必要な研修などを経て、里親としての適格性を審査された上で都道府県の知事の認可を受け里親になることが認められる。つまり手続きにかなりの時間がかかるのだ。

だが今回の場合は、事件の被害者である幼子の養育者をすぐに決定しなければいけない状況で両親ともに養育できない状況にあり父親が他に養育してくれる人を探したいと希望を出しているという特別な要因もある。
私たちは不特定多数の里親になるのではなく、直くんの養育を実父である保さんから頼まれて行うということになるため、通常の手続きを行わずに直くんを引き取ろうと考えている。
そのために私は同じ法曹界の友人、また警察関係者など他にもあらゆる人脈を使って直くんの里親となる手続きを進めてもらった。

彼らの力のおかげで一両日中にも許可が下りるという知らせを受け、私はすぐに保さんの元に向かった。
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