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主治医からの連絡
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「さぁ、好きなものを頼みなさい」
そうは言ったがここの料金なら高が知れている。
しかも彼らなら自分たちのお金でも余裕で払えるだろう。
だが、二人は嬉しそうに目を輝かせて、メニューを選んでくれた。
私の顔を立ててくれたのかもしれない。いい子たちだ。
榎木くんはミックスフライランチ、有原くんはハンバーグランチ、絢斗はラザニア、私はカツサンドをそれぞれ注文した。
「卓さんは、ここのカツサンドが好きだよね」
「ああ。学生時代よく食べていたから、ここに来るとついつい頼んでしまうんだよ」
今のカツサンドの値段を見ると、贅沢な学生時代を過ごしているように思われるかもしれない。
だが私が学生時代は今よりも薄かったせいもあるが値段もリーズナブルでパンと肉を一度に、しかも勉強をしながらでも食べられる最高の食事だった。
「それはそうと、榎木くん。実は今、君の病院にお世話になっていてね」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ、詳しい話はここではできないから、後から有原くんや絢斗から話を聞いて欲しいんだが、その話は全て他言無用で頼む」
「はい。それはきちんとお約束します」
さすが将来医師を志す学生だ。ちゃんとわかってくれていてほっとする。
「とりあえずここで話をしておけるのは、君には有原くんと共に、絢斗と病院に付き添って欲しいということだけなんだ。もちろん毎日ではないし、無理な時は断ってくれていい。どうだろう?」
「大丈夫です。お任せください」
「おお、ありがとう。助かるよ」
「そんなっ、緑川教授にはお世話になっていますし、そもそもほとんど毎日病院に行って勉強をさせてもらっているので負担でもなんでもないんです」
「そうなのか。しっかりと将来のことを見据えて勉強しているわけだな。素晴らしい考えだよ」
「いえ。自分が病院長の息子という恵まれた環境に生まれたことを理解しているので、少なからず妬みや嫉みを受けることは覚悟の上ですが、それを払拭できるような実力を手に入れたいと思っているだけです」
確かに医師免許さえ取れれば院長の座が自動的に彼のものになると思って嫉妬する奴もいるだろう。
だが実際にはそんな院長がいる病院には人は寄りつかない。
あれほどの大きな病院の後継になるには実力はもちろん、ついていきたいと思わせる人間力が必要になってくる。
弛まぬ努力をする彼ならきっといい後継になるに違いない。
そんな彼を有原くんはそばで見守るわけだな。
弁護士としての能力はもちろん彼の大きな力になるだろうが、有原くんの存在こそが原動力なのだろう。
このカップルは決して離れることはないな。私たちのように。
楽しそうに、そして幸せそうに食事をする二人を見守りつつ、私たちも食事を終えた。
「今日の講義のあと、早速会いに行ってもいいかな?」
「ああ。大丈夫だよ。話は通ってるから」
「まだ何も食べられたりはしないんだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、ぬいぐるみとかはどうかな?」
「ぬいぐるみ、どうだろう……」
持っていっていいものに入っているのか、考えたこともなかったから聞いてみないと……
「金属が付いているものやちぎれやすいものが付いていない、布だけでできているようなものなら持ち込んでも大丈夫ですよ。病院の近くにそういうものを揃えた店がありますから紹介しますよ」
私たちの会話を聞いていたらしい榎木くんがすぐに教えてくれた。
「そうか、教えてくれて助かるよ。なぁ、絢斗」
「うん。榎木くん、ありがとう。ぜひ連れていって」
「じゃあ、絢斗。私は事務所に戻るから」
「わかった。気をつけてね」
絢斗たちと別れて事務所に戻るために車を走らせていた時に、病院から連絡をもらった。
「先生、保さんが先生とお話がしたいと仰ってます。お時間のある時にでもお越しいただけませんか?」
保さんの主治医である脳神経系外科の先生からの電話に、私は事務所に戻るのをやめて病院に向かった。
脳神経外科の病棟に向かい、スタッフステーションで声をかけるとすぐに主治医の先生が現れた。
「磯山先生。お忙しいところ、わざわざお呼び立てして申し訳ございません」
「いえ。それよりも保さんが私に話とは、一体どのようなお話でしょう?」
「保さんに会われる前にあちらの部屋で少しお話ししたいことがあります。どうぞ」
私は先生に案内されるがままに、談話室に足を運んだ。
そうは言ったがここの料金なら高が知れている。
しかも彼らなら自分たちのお金でも余裕で払えるだろう。
だが、二人は嬉しそうに目を輝かせて、メニューを選んでくれた。
私の顔を立ててくれたのかもしれない。いい子たちだ。
榎木くんはミックスフライランチ、有原くんはハンバーグランチ、絢斗はラザニア、私はカツサンドをそれぞれ注文した。
「卓さんは、ここのカツサンドが好きだよね」
「ああ。学生時代よく食べていたから、ここに来るとついつい頼んでしまうんだよ」
今のカツサンドの値段を見ると、贅沢な学生時代を過ごしているように思われるかもしれない。
だが私が学生時代は今よりも薄かったせいもあるが値段もリーズナブルでパンと肉を一度に、しかも勉強をしながらでも食べられる最高の食事だった。
「それはそうと、榎木くん。実は今、君の病院にお世話になっていてね」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ、詳しい話はここではできないから、後から有原くんや絢斗から話を聞いて欲しいんだが、その話は全て他言無用で頼む」
「はい。それはきちんとお約束します」
さすが将来医師を志す学生だ。ちゃんとわかってくれていてほっとする。
「とりあえずここで話をしておけるのは、君には有原くんと共に、絢斗と病院に付き添って欲しいということだけなんだ。もちろん毎日ではないし、無理な時は断ってくれていい。どうだろう?」
「大丈夫です。お任せください」
「おお、ありがとう。助かるよ」
「そんなっ、緑川教授にはお世話になっていますし、そもそもほとんど毎日病院に行って勉強をさせてもらっているので負担でもなんでもないんです」
「そうなのか。しっかりと将来のことを見据えて勉強しているわけだな。素晴らしい考えだよ」
「いえ。自分が病院長の息子という恵まれた環境に生まれたことを理解しているので、少なからず妬みや嫉みを受けることは覚悟の上ですが、それを払拭できるような実力を手に入れたいと思っているだけです」
確かに医師免許さえ取れれば院長の座が自動的に彼のものになると思って嫉妬する奴もいるだろう。
だが実際にはそんな院長がいる病院には人は寄りつかない。
あれほどの大きな病院の後継になるには実力はもちろん、ついていきたいと思わせる人間力が必要になってくる。
弛まぬ努力をする彼ならきっといい後継になるに違いない。
そんな彼を有原くんはそばで見守るわけだな。
弁護士としての能力はもちろん彼の大きな力になるだろうが、有原くんの存在こそが原動力なのだろう。
このカップルは決して離れることはないな。私たちのように。
楽しそうに、そして幸せそうに食事をする二人を見守りつつ、私たちも食事を終えた。
「今日の講義のあと、早速会いに行ってもいいかな?」
「ああ。大丈夫だよ。話は通ってるから」
「まだ何も食べられたりはしないんだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、ぬいぐるみとかはどうかな?」
「ぬいぐるみ、どうだろう……」
持っていっていいものに入っているのか、考えたこともなかったから聞いてみないと……
「金属が付いているものやちぎれやすいものが付いていない、布だけでできているようなものなら持ち込んでも大丈夫ですよ。病院の近くにそういうものを揃えた店がありますから紹介しますよ」
私たちの会話を聞いていたらしい榎木くんがすぐに教えてくれた。
「そうか、教えてくれて助かるよ。なぁ、絢斗」
「うん。榎木くん、ありがとう。ぜひ連れていって」
「じゃあ、絢斗。私は事務所に戻るから」
「わかった。気をつけてね」
絢斗たちと別れて事務所に戻るために車を走らせていた時に、病院から連絡をもらった。
「先生、保さんが先生とお話がしたいと仰ってます。お時間のある時にでもお越しいただけませんか?」
保さんの主治医である脳神経系外科の先生からの電話に、私は事務所に戻るのをやめて病院に向かった。
脳神経外科の病棟に向かい、スタッフステーションで声をかけるとすぐに主治医の先生が現れた。
「磯山先生。お忙しいところ、わざわざお呼び立てして申し訳ございません」
「いえ。それよりも保さんが私に話とは、一体どのようなお話でしょう?」
「保さんに会われる前にあちらの部屋で少しお話ししたいことがあります。どうぞ」
私は先生に案内されるがままに、談話室に足を運んだ。
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