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実母からの虐待 ※流血表現あり
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駐車場に着くと、彼はフラフラの身体で車を降り病院に走っていった。
あの身体のどこにそんな力が残っていたのだろうと驚くほどのスピードで走っていく彼を追いかけ、一緒に病院の受付に向かった。
「あ、あの、あの……」
だが、いざ息子に会うと思うと不安になってしまったのか、パニックを起こして話せなくなった彼の代わりに私は、緊急搬送された彼の息子の所在を尋ねた。
案内されたのはPICU(小児集中治療室)
大きなガラス越しに、たくさんのベッドや保育器が並べられ医師たちが忙しなく動いている様子が見える。
彼の息子はどこにいるのか、ここからでは判断はつかない。
私たちの姿をガラス越しに見つけた看護師がすぐに私たちの元に駆けつけた。
「迫田直純くんのご家族の方ですね」
「はい。私は弁護士として付き添っています」
話をしている私の隣で項垂れていた彼が突然顔をあげ、
「息子に……早く息子に、会わせてください!」
大声で騒ぎ出した。
「落ち着いてください。その前に先生からのお話がありますので、面会はその後でお願いします」
「うわぁーーっ!!」
大声で泣きながらその場に頽れる彼を支えている間に看護師はその場から去っていった。
看護師と入れ替わるようにPICUから出てきたのは、榎木医師。
この聖ラグエル病院の院長夫人で優秀な小児科医で一人息子が現在桜城大学の医学生になっている。
もちろん面識はあるが、この場合はお互いに初対面のフリをする。それは暗黙のルールだ。
「迫田保さんですね。こちらにどうぞ」
「私も同席して構いませんか?」
「ご本人の了承があればこちらは構いません」
「迫田さん、どうですか?」
「あ、えっ、お願いします」
まだ気が動転している様子の彼と一緒に部屋に入り、席についた。
「あ、あの……息子は?」
「結論から申し上げますと、とりあえず命の危機は脱出しましたがまだ予断は許さない状況です」
「そんな……っ」
「お父さまはこの一週間はどちらに? 連絡はどちらで受けましたか?」
「は、はい。出張で県外に出ておりました。今朝早くに帰ってきそのまま会社に行き、仕事先で連絡を受けました」
「そうですか……なるほど。あなたがいない時を狙って行ったようですね」
「でも信じられません! 僕が見ていた息子には傷跡なんてどこにも……」
榎木医師は驚きの表情を見せる彼にタブレットの画面を見せながら、彼の息子の状況を説明し始めた。
「最近、おむつ替えをしたことはありますか? お風呂に入れたことは?」
「えっ? いや、ないです。いつも夜遅く帰っていたので眠っている姿しか……」
「なるほど。搬送された際の息子さんの裸を見ますか? かなり衝撃が強いので見たくなければ無理強いはしませんが」
「み、見せてください……妻が本当に、ぎゃ、虐待をしていたというのなら……」
彼は身体を震わせながらも必死にこの現実と向き合おうとしている。
「わかりました。これです」
「ゔっ――!!」
見せられたタブレットには、腕に縛られた跡があり、下半身が血まみれになって青白い顔で横たわる小さな子どもの姿があった。あまりにも衝撃的な姿に彼はもう言葉もないようだ。私が代わりに何をされたのか尋ねることにした。
「これは?」
「おそらく、息子さんに割礼を施そうとしたと考えられます」
割礼とは男の子の場合はペニスを包んでいる皮を切除することだ。
日本では馴染みがないが、海外では宗教上必要だとされることがある。
「母親が、自宅で、ということですか?」
「はい。何度もしようとした痕跡がありました。今回は確実に成功させるために嫌がる息子さんの手を縛り、手術用のメスを手に入れ施そうとしたようです。ですが、結果として皮だけでなく、ペニスも傷つけ血が溢れることになったんです。それでもすぐに病院に連れていくなり、救急車で搬送すればまだ命の危険が及ぶことはなかったのですが、あろうことかそれを放置したんですよ」
「放置? なんてことだ……」
「近所の人からの通報で救急隊員が駆けつけた時には、息子さんは出血性ショックで意識を失っていて、もう少し発見が遅ければ間に合わなかったでしょう」
医師の言葉に、彼はもう返事すらもできない。
自分が知らないところで息子が命の危険に晒され、しかもその犯人が妻だったんだ。
自分がどれだけ家庭を顧みていなかったかと責め続けているだろう。
「お父さん、ショックなのはわかりますが息子さんは必死に生きようとしているんです。息子さんのためにも今の状況を受け止めて自分がどうするべきか考えてください」
「ぼ、僕は……」
「危ないっ!!」
榎木医師の言葉に彼は必死で言葉を出そうとしたが、そのまま意識を失って椅子から倒れてしまった。
「すみません、ベッドをお願いします」
「わかりました」
榎木医師はすぐに看護師を呼び、ストレッチャーを持って来させた。
彼をそれに乗せるのを手伝うと、彼は空いている病室に連れて行かれた。
あの身体のどこにそんな力が残っていたのだろうと驚くほどのスピードで走っていく彼を追いかけ、一緒に病院の受付に向かった。
「あ、あの、あの……」
だが、いざ息子に会うと思うと不安になってしまったのか、パニックを起こして話せなくなった彼の代わりに私は、緊急搬送された彼の息子の所在を尋ねた。
案内されたのはPICU(小児集中治療室)
大きなガラス越しに、たくさんのベッドや保育器が並べられ医師たちが忙しなく動いている様子が見える。
彼の息子はどこにいるのか、ここからでは判断はつかない。
私たちの姿をガラス越しに見つけた看護師がすぐに私たちの元に駆けつけた。
「迫田直純くんのご家族の方ですね」
「はい。私は弁護士として付き添っています」
話をしている私の隣で項垂れていた彼が突然顔をあげ、
「息子に……早く息子に、会わせてください!」
大声で騒ぎ出した。
「落ち着いてください。その前に先生からのお話がありますので、面会はその後でお願いします」
「うわぁーーっ!!」
大声で泣きながらその場に頽れる彼を支えている間に看護師はその場から去っていった。
看護師と入れ替わるようにPICUから出てきたのは、榎木医師。
この聖ラグエル病院の院長夫人で優秀な小児科医で一人息子が現在桜城大学の医学生になっている。
もちろん面識はあるが、この場合はお互いに初対面のフリをする。それは暗黙のルールだ。
「迫田保さんですね。こちらにどうぞ」
「私も同席して構いませんか?」
「ご本人の了承があればこちらは構いません」
「迫田さん、どうですか?」
「あ、えっ、お願いします」
まだ気が動転している様子の彼と一緒に部屋に入り、席についた。
「あ、あの……息子は?」
「結論から申し上げますと、とりあえず命の危機は脱出しましたがまだ予断は許さない状況です」
「そんな……っ」
「お父さまはこの一週間はどちらに? 連絡はどちらで受けましたか?」
「は、はい。出張で県外に出ておりました。今朝早くに帰ってきそのまま会社に行き、仕事先で連絡を受けました」
「そうですか……なるほど。あなたがいない時を狙って行ったようですね」
「でも信じられません! 僕が見ていた息子には傷跡なんてどこにも……」
榎木医師は驚きの表情を見せる彼にタブレットの画面を見せながら、彼の息子の状況を説明し始めた。
「最近、おむつ替えをしたことはありますか? お風呂に入れたことは?」
「えっ? いや、ないです。いつも夜遅く帰っていたので眠っている姿しか……」
「なるほど。搬送された際の息子さんの裸を見ますか? かなり衝撃が強いので見たくなければ無理強いはしませんが」
「み、見せてください……妻が本当に、ぎゃ、虐待をしていたというのなら……」
彼は身体を震わせながらも必死にこの現実と向き合おうとしている。
「わかりました。これです」
「ゔっ――!!」
見せられたタブレットには、腕に縛られた跡があり、下半身が血まみれになって青白い顔で横たわる小さな子どもの姿があった。あまりにも衝撃的な姿に彼はもう言葉もないようだ。私が代わりに何をされたのか尋ねることにした。
「これは?」
「おそらく、息子さんに割礼を施そうとしたと考えられます」
割礼とは男の子の場合はペニスを包んでいる皮を切除することだ。
日本では馴染みがないが、海外では宗教上必要だとされることがある。
「母親が、自宅で、ということですか?」
「はい。何度もしようとした痕跡がありました。今回は確実に成功させるために嫌がる息子さんの手を縛り、手術用のメスを手に入れ施そうとしたようです。ですが、結果として皮だけでなく、ペニスも傷つけ血が溢れることになったんです。それでもすぐに病院に連れていくなり、救急車で搬送すればまだ命の危険が及ぶことはなかったのですが、あろうことかそれを放置したんですよ」
「放置? なんてことだ……」
「近所の人からの通報で救急隊員が駆けつけた時には、息子さんは出血性ショックで意識を失っていて、もう少し発見が遅ければ間に合わなかったでしょう」
医師の言葉に、彼はもう返事すらもできない。
自分が知らないところで息子が命の危険に晒され、しかもその犯人が妻だったんだ。
自分がどれだけ家庭を顧みていなかったかと責め続けているだろう。
「お父さん、ショックなのはわかりますが息子さんは必死に生きようとしているんです。息子さんのためにも今の状況を受け止めて自分がどうするべきか考えてください」
「ぼ、僕は……」
「危ないっ!!」
榎木医師の言葉に彼は必死で言葉を出そうとしたが、そのまま意識を失って椅子から倒れてしまった。
「すみません、ベッドをお願いします」
「わかりました」
榎木医師はすぐに看護師を呼び、ストレッチャーを持って来させた。
彼をそれに乗せるのを手伝うと、彼は空いている病室に連れて行かれた。
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