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番外編

私の願い

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番外編第1弾は執事フレディ視点のお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです♡


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<sideフレディ>


おかしい……。
ここのところ、ヴィクトルさまがやけにソワソワしていらっしゃる。
そうかと思えば、公務の合間にも何やら思い詰めた様子でため息をついていらっしゃることもしばしば。

普段のヴィクトルさまとはあまりにも違いすぎて明らかにおかしい。
けれど、ヴィクトルさまは余程のことでない限り、ご自分から私に相談など持ちかけてきたりはされないだろう。


ヴィクトルさまは早くにご逝去された前国王陛下の後を継がれ、若くしてこのアールベルデ王国の国王陛下となられた。
成人となってすぐの国王就任に、急いで王妃さまとなられる女性を国内外からお探ししようとしたのだがヴィクトルさまはそれを全て断られ、今もまだ結婚はなされていない。

ヴィクトルさまはどうやら誰にも感情を左右されないようだ。
それは生まれてからずっと。

宰相殿がせめて御子だけでもと国内外から美しい女性たちを集め、城内に後宮を作ろうとしたがそのようなことには一切興味がないと仰られ、その計画もあっという間に霧散した。

ヴィクトルさまには色事には興味がない……それが浸透してからはヴィクトルさまに誰かをあてがおうとするものはいなくなった。

が、ここのところのヴィクトルさまはどう見ても誰かに思いを寄せているとしか思えない。
あのヴィクトルさまが誰かに心を奪われている?
それだけで私の心は天にも昇る心地だった。

ヴィクトルさまがお幸せになることこそが私の幸せ。
一体、ヴィクトルさまはどこのどなたに恋焦がれていらっしゃるのだろう。

気になっていた矢先、


――今、私の心を強く掴んで離さない者がいる。

ヴィクトルさまの口からそうはっきり聞かされた時、私はやはり! と思いつつも、何もわからないふりをして、どこのどなたなのですか? と尋ねてみた。


――彼は夜の間だけ私の寝室に現れる、妖精のような者なのだ。いつも突然私のベッドに現れる。そして夜明けを待たずに去っていくのだ。しかも彼はずっと眠り続けたままだ。


その言葉に私は身体が震えた。

――フレディ。この世にはな。神の悪戯という現象が度々起こる。神によって間違えられた場所に生まれた者は、心傷つき、その心が限界を迎えた時、ようやく正しい場所に戻ることができる。そして、戻るべき場所には必ずそのものを慈しみ守る存在がいるのだ。

幼い頃、祖父から夢物語のように聞かされていた話を思い出したからだ。
あれはてっきり祖父の作った御伽噺だとばかり思っていた。

それがまさか現実となって、しかもヴィクトルさまの元に現れようとは……。

ヴィクトルさまが今までどなたにも興味を持たれなかったのも、その彼がヴィクトルさまにとってかけがえのない存在であったからこそだ。
ということは、彼こそがヴィクトルさまの伴侶となるべきお方。

今はまだ魂だけが行ったり来たりしている状態だろうが、いつか、彼はこの地に降り立つはずだ。
その時は精一杯お助けをして差し上げなければ。

私はようやくヴィクトルさまの心からお幸せそうなお顔を拝見できるのだ。


あの日からヴィクトルさまの様子を注視していた、数日目の夜。
いや、もう明け方に近かったか……。

突然、ヴィクトルさまの部屋からベルが鳴り響いた。

慌てて部屋へ向かった私の前に、途轍もない色香を纏ったヴィクトルさまが

「寝室を整えておけ!」

と指示を出し、急いで寝室に戻っていかれた。

一瞬何が起こったのかわからずに、少し遅れて寝室へ入ると、ヴィクトルさまは風呂場にいかれた様子。
いつもきれいに整えられたベッドは大量の蜜に塗れ寝室中に甘やかな匂いが漂っていた。

まさか……ヴィクトルさまの仰っていたあのお方がここに来られたのか。

これほどの量を出されたということは奥方さまもずいぶん満足なさったということだ。
さすが神が引き合わせてくださったお方だ。

私は急いでベッドを整えたが、隣にあるお風呂場からはヴィクトルさまの激しい交わりの音が聞こえる。
奥方さまのお声が聞こえないのは、おそらく部屋を片付けている私に聞かせぬように口づけでもなさっておいでなのだろう。

あれほどまでにヴィクトルさまが激しいお方だとは知らなかった。
やはり運命の御相手を前には箍が外れるようだ。

とはいえ、祖父の話が正しければ、奥方さまはあちらの世界で身も心も疲弊しておられるはず。
もうそろそろ休ませて差し上げなければ、お身体を崩されるかもしれない。

私は水と共にメモ書きを残し、部屋から出た。


それから数時間ほど経って、またヴィクトルさまのお部屋からベルが鳴った。
どうやら奥方さまが御目覚めになられた様子だ。

栄養のある食べやすい食事を用意すると、ヴィクトルさま自ら寝室に運ばれた。
硬く閉ざされた寝室の向こうからは楽しげな声が聞こえる。

まだ一向に奥方さまのお話は聞かせてもらえずにいるが、あれほど甲斐甲斐しくお世話をなさるお相手だ。
よほど素晴らしいお方なのだろう。

早く奥方さまのお姿を拝見したい。
私の願いはいつ叶うだろうか……。



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次回は二人のその後のお話を書ければなと思っています。
どうぞお楽しみに♡
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