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先生の初恋
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あれから数年が経ち、僕はそのまま観月法律事務所のパラリーガルとして、そして、将臣は警察庁に入庁し日々仕事に勤しんでいる。
そんなある日、珍しく観月先生の親友である悠木さんから仕事の依頼電話がかかってきた。
「榊くん、これをまとめておいてくれないか?」
「これ、さっきの悠木さんからの依頼内容ですか?」
「ああ、そうなんだ。何か訳ありの子を引き取ったようでね」
「訳あり、ですか?」
「あいつが私に助けを求めてくるなんて本当に珍しいんだよ。だから最大限力を貸してあげたいんだ」
「わかりました。完璧な資料を仕上げておきます」
「ふふっ。心強いな、頼むよ」
観月先生はそのまま、次の依頼人との打ち合わせに入った。
僕は手渡された依頼内容をもとに調査をして、これ以上ないくらいの資料を作り上げた。
悠木さんとこの笹原空良くんという依頼者……18歳だって書いてあるけどどんな関係なんだろう。
プライベートに関わることを詮索すべきではないと思いつつも、どうしても気になってしまうのは、彼の保護者が先生の親友である悠木さんだからだ。
悠木さんもまた、先生と同じように恋愛も結婚も疾うに諦めていると言っていた。
だから自分から深く人と関わったりするのを避けているんだと聞いたことがある。
それなのに、今回はかなり親身になって動いている様子。
僕の中にもしかしたら……という気持ちがむくむくと湧き上がってきているが、これは決して口に出してはいけない。
僕の余計な一言で流れが変わってしまったら手の施しようがなくなってしまうからだ。
僕はただ与えられた仕事を全うするだけ。
それだけだ。
「先生、資料できました」
「ああ、ありがとう」
「どうですか?」
「相変わらず完璧だよ。これで悠木の件も余裕だな」
「あの……」
「んっ? どうした?」
「あ、いえ。なんでもないんです。すみません」
「ふふっ。気になってるんだろ、この子」
先生は手渡した資料をパンと手で優しく叩いてみせた。
何も気にしないようにしようとか思っていながら、やっぱり気になってしまっていた僕のことを見透かされていたんだと恥ずかしく思いながらも小さく頷くと先生は笑って口を開いた。
「この空良くんとは、悠木が街中で偶然出会ったらしい」
「えっ? 街中で?」
「ああ、熱中症で倒れたところに居合わせて病院に連れて行って今は自分の病院に入院させてるんだよ」
医者としてはまぁあり得なくはないだろうけれど、あの悠木さんが偶然居合わせただけの子を自分の病院に入院させるなんて……。
びっくりだな。
「信じられないだろう? 私も驚いてる。でも……電話口の悠木の声が今まで聞いたことがないくらい甘くて優しかったんだ。あんなの悠木じゃないみたいだったよ」
「そんなにわかるくらいに?」
「ああ。だから、楽しみなんだ。明日悠木に会うのが」
親友の幸せをこんなにも嬉しそうに言えるなんて……。
先生には妬むなんてことはないんだろうな。
「じゃあ、明日はこの資料でバッチリ頑張ってきてください!」
「ああ、任せてくれ!」
「ふふっ」
「ははっ」
先生の嬉しそうな表情に僕も飛び上がりそうなくらい嬉しかった。
翌日、午後から資料を携え出かけて行った先生は、2時間もしないうちに焦ったように帰ってきた。
しかも、いつもなら玄関からそのまま事務所に入ってくるのに、なぜか2階の自宅の方に入ってしまった。
一体何があったんだろう。
こんなこと、僕がこの事務所に入ってから初めてだ。
依頼人が来るまではまだ1時間以上あるから問題はないけれど、いつもの先生の様子とは違いすぎて驚いてしまう。
もしかして僕の作った資料に不備でもあったのだろうかと心配になったけれど、先生がチェックしているはずだし何かあれば出かける前に気づいているはずだ。
悠木さんも一緒だったんだし、もしかしたら何か大事な話でもしているのかもしれない。
うん、そうだな。
そうに違いない。
とりあえず自分の仕事を進めていようと平常心を保ちながら、仕事をしているとようやく先生が2階から降りてきた。
「榊くん、悪い。次の依頼人の資料用意しておいてくれ」
あれ? 先生の表情が見たこともないほど柔らかく見える。
「はい。それはもう準備ができてますが、何かあったんですか?」
「ああ。そうだな。榊くんには話しておいた方がいいだろうな」
「僕、何か失敗してしまいましたか?
「ははっ。違うよ。実は……どうやら私も、運命に出会えたらしい」
「――っ!!」
先生はその子を思い浮かべているんだ。
ああ、なんて優しい笑顔をするんだろう……。
「あの、どこで……?」
「悠木の依頼で出かけた先にいたんだ。困った状況に陥っていた彼を救出して、もう二度と会えないと思っていたら、私の事務所を探し当ててお礼を言いにきてくれたんだ」
「彼って、先生……」
「ああ、ものすごく可愛い子だ。身体がまだ本調子じゃないから、元気になったら榊くんにも紹介するよ」
まさか、綾城さん、悠木さんに続いて、先生まで運命の相手が男の子だなんて……。
びっくりだけど、僕は嬉しいな。
そんなある日、珍しく観月先生の親友である悠木さんから仕事の依頼電話がかかってきた。
「榊くん、これをまとめておいてくれないか?」
「これ、さっきの悠木さんからの依頼内容ですか?」
「ああ、そうなんだ。何か訳ありの子を引き取ったようでね」
「訳あり、ですか?」
「あいつが私に助けを求めてくるなんて本当に珍しいんだよ。だから最大限力を貸してあげたいんだ」
「わかりました。完璧な資料を仕上げておきます」
「ふふっ。心強いな、頼むよ」
観月先生はそのまま、次の依頼人との打ち合わせに入った。
僕は手渡された依頼内容をもとに調査をして、これ以上ないくらいの資料を作り上げた。
悠木さんとこの笹原空良くんという依頼者……18歳だって書いてあるけどどんな関係なんだろう。
プライベートに関わることを詮索すべきではないと思いつつも、どうしても気になってしまうのは、彼の保護者が先生の親友である悠木さんだからだ。
悠木さんもまた、先生と同じように恋愛も結婚も疾うに諦めていると言っていた。
だから自分から深く人と関わったりするのを避けているんだと聞いたことがある。
それなのに、今回はかなり親身になって動いている様子。
僕の中にもしかしたら……という気持ちがむくむくと湧き上がってきているが、これは決して口に出してはいけない。
僕の余計な一言で流れが変わってしまったら手の施しようがなくなってしまうからだ。
僕はただ与えられた仕事を全うするだけ。
それだけだ。
「先生、資料できました」
「ああ、ありがとう」
「どうですか?」
「相変わらず完璧だよ。これで悠木の件も余裕だな」
「あの……」
「んっ? どうした?」
「あ、いえ。なんでもないんです。すみません」
「ふふっ。気になってるんだろ、この子」
先生は手渡した資料をパンと手で優しく叩いてみせた。
何も気にしないようにしようとか思っていながら、やっぱり気になってしまっていた僕のことを見透かされていたんだと恥ずかしく思いながらも小さく頷くと先生は笑って口を開いた。
「この空良くんとは、悠木が街中で偶然出会ったらしい」
「えっ? 街中で?」
「ああ、熱中症で倒れたところに居合わせて病院に連れて行って今は自分の病院に入院させてるんだよ」
医者としてはまぁあり得なくはないだろうけれど、あの悠木さんが偶然居合わせただけの子を自分の病院に入院させるなんて……。
びっくりだな。
「信じられないだろう? 私も驚いてる。でも……電話口の悠木の声が今まで聞いたことがないくらい甘くて優しかったんだ。あんなの悠木じゃないみたいだったよ」
「そんなにわかるくらいに?」
「ああ。だから、楽しみなんだ。明日悠木に会うのが」
親友の幸せをこんなにも嬉しそうに言えるなんて……。
先生には妬むなんてことはないんだろうな。
「じゃあ、明日はこの資料でバッチリ頑張ってきてください!」
「ああ、任せてくれ!」
「ふふっ」
「ははっ」
先生の嬉しそうな表情に僕も飛び上がりそうなくらい嬉しかった。
翌日、午後から資料を携え出かけて行った先生は、2時間もしないうちに焦ったように帰ってきた。
しかも、いつもなら玄関からそのまま事務所に入ってくるのに、なぜか2階の自宅の方に入ってしまった。
一体何があったんだろう。
こんなこと、僕がこの事務所に入ってから初めてだ。
依頼人が来るまではまだ1時間以上あるから問題はないけれど、いつもの先生の様子とは違いすぎて驚いてしまう。
もしかして僕の作った資料に不備でもあったのだろうかと心配になったけれど、先生がチェックしているはずだし何かあれば出かける前に気づいているはずだ。
悠木さんも一緒だったんだし、もしかしたら何か大事な話でもしているのかもしれない。
うん、そうだな。
そうに違いない。
とりあえず自分の仕事を進めていようと平常心を保ちながら、仕事をしているとようやく先生が2階から降りてきた。
「榊くん、悪い。次の依頼人の資料用意しておいてくれ」
あれ? 先生の表情が見たこともないほど柔らかく見える。
「はい。それはもう準備ができてますが、何かあったんですか?」
「ああ。そうだな。榊くんには話しておいた方がいいだろうな」
「僕、何か失敗してしまいましたか?
「ははっ。違うよ。実は……どうやら私も、運命に出会えたらしい」
「――っ!!」
先生はその子を思い浮かべているんだ。
ああ、なんて優しい笑顔をするんだろう……。
「あの、どこで……?」
「悠木の依頼で出かけた先にいたんだ。困った状況に陥っていた彼を救出して、もう二度と会えないと思っていたら、私の事務所を探し当ててお礼を言いにきてくれたんだ」
「彼って、先生……」
「ああ、ものすごく可愛い子だ。身体がまだ本調子じゃないから、元気になったら榊くんにも紹介するよ」
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びっくりだけど、僕は嬉しいな。
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