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一分一秒でも早く

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食事を終え、ソファーに腰を下ろす私たちを見て、絢斗さんがどこかに行ったかと思ったら、手にリースを持って戻ってきた。

それを尚孝さんに手渡すと、ハッと思い出したようにそれを優しく受け取っていた。

どうやら食事前に三人で出てきたのは、出来上がったものを私たちに見せてくれるためだったようだ。

すっかり忘れてしまっていたことに尚孝さんが詫びを入れるが、絢斗さんは自分も今思い出したから何も気にしていないとでもいって笑顔を見せてくれた。

尚孝さんが気にしないように声掛けをしてくれる絢斗さんの優しさに思わず笑みが溢れる。

ホッとした表情で、

「唯人さん、見てください!」

と得意げな顔で手作りのリースを見せてくれる尚孝さんが可愛い。

絢斗さんと直純くんに習いながら作ったと言っていたが、初めて作ったとは思えないほどの素晴らしい出来に驚きしかない。

帰ったらすぐに飾ろうというと、尚孝さんは嬉しそうに笑っていた。

「尚孝くんはリースづくりのセンスがあるよ」

絢斗さんからそう言われて驚きつつも嬉しそうだ。

でも、リース作りのことを何も知らない私も尚孝さんの作ったものがすごいと思うのだから本当にセンスがあるのだろう。
直純くんも尚孝さんと一緒にリースを作って楽しかったと言っていたし、いい共通点ができたかもしれない。

「直くん、ありがとう。じゃあもし、今度一花くんと会うことになったら、一花くんともリースを一緒に作ってみるといいよ」

尚孝さんの言葉に直純くんは一花さんもリース作りが上手だと勘違いしたようだけど、一花さんはリース作りは今までしたことがない。

けれど、どうして尚孝さんがそんなことを言ったのかというと、一花さんの手先が器用なことを知っているからだ。

なんせ、動くことができずに手だけで楽しめるものとして未知子さんが一花さんに教えた編み物がもうすでにプロ級の腕前なのだ。
リースも得意に決まっている。

貴船会長と一花さんの実父である櫻葉会長に手編みのマフラーをプレゼントなさっていたが、それも玄人はだしの代物だった。

尚孝さんはその写真を持っていたようですぐにスマホを取り出し、一花さんの作ったマフラーをみんなに見せると、直純くんだけでなく絢斗さんと磯山先生まで感嘆の声を上げていた。

特に直純くんは食い入るように写真を眺めていたから、よほど気に入ったらしい。
器用そうな子だから、きっと習ったら上手にできるようになるだろう。


そんな話で盛り上がったが、そろそろお暇した方がいいだろう。
直純くんも疲れているだろうし、私もそろそろ尚孝さんとの時間を過ごしたい。

磯山家の家族全員に玄関まで見送られ、磯山先生だけが駐車場まで見送ってくださるというので一緒に下りた。

駐車場に到着すると、

「本当に今日はありがとう。直くんの表情もすっかり変わって……君たち、特に谷垣くんには直くんの気持ちを引き出してくれたことを本当に感謝している」

と磯山先生が深々と頭を下げていた。
もうすっかり直純くんの父親になっているのだな。
心が傷ついた息子を思う父親の姿に胸が熱くなる。

尚孝さんはそんな磯山先生の姿を見て、

「そんな、やめてください。僕はただ直くんの同志として話をしただけですから。直くんと話すことで僕の心も楽にしていただいたとおもってますから」

と優しい声をかけると、磯山先生は安堵した様子で頭を上げた。

「会長からは、櫻葉会長と話をした上で、一花さんに直純くんと会う意思があるかを確認してから磯山先生にご連絡するとのことでした。一花さんの気持ちを最優先させていただきますので、少しお時間を頂戴するかもしれませんが、その間は磯山先生の胸にだけ留めておいていただけますか?」

「わかった。志摩くんの配慮に感謝するよ。こちらはお願いしている身だからな、どれだけでも待たせてもらう覚悟はできている。どれだけかかってもこちらは気にしないでくれ構わない。一花くんが落ち着くまではいつまででも待たせてもらうよ」

直純くんの意思を尋ねた上で、会長に話をしに行った時の電話の内容を告げると、磯山先生は安心したようにそう言ってくれた。
どれだけかかっても待つ覚悟がある。
その言葉に磯山先生がどれほど直純くんと一花さんのことを考えてくださっているかがよくわかった。
本当に人間として素敵な方だな。


磯山先生に別れを告げ、私たちは自宅へ車を走らせた。

「尚孝さん、今日は疲れましたか?」

「少し疲れましたが、会いに行ってよかったという充足感でいっぱいです。それも唯人さんが一緒に行ってくださったおかげです」

「それならよかったです。帰ったら一緒にお風呂に入って疲れを癒しましょうね」

「は、はい。いっぱい癒してくださいね」

「くっ――!!」

ドキドキさせようと思ったのに逆にドキドキさせられて……。
私の頭の中は一分一秒でも早く自宅に帰り着くことでいっぱいになっていた。
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