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厄介な奴ら

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「わっ!」

「あっ!!」

ふふっ。驚きのシーンに入るたびに隣にいる尚孝さんから可愛い声が漏れて、私の腕に絡みついてくる。
ああ、もう本当になんでこんなに可愛いんだろうな。

緊張のシーンがすぎ、一息つきそうになったところで、すかさずカフェラテを尚孝さんの口に運ぶと嬉しそうにそれを咥えてゴクッと飲んでくれる。

私の世話も戸惑うことなく受け入れてくれてそれがたまらなく嬉しい。

ところどころでポップコーンも食べさせていると、数回に一回は私の口にも運んでくれる。
私が好きでやっていることだから、私のことは気にしないでいいのに尚孝さんの優しさが嬉しい。

最後まで可愛い声をあげる尚孝さんの可愛い姿を堪能しながら、映画を見終わると

「すごく楽しかったですね、また観にきたいです」

と満足そうに言ってくれる。
どうやら映画デートは成功だったようだ。

「ええ、また来ましょうね。ここなら、尚孝さんの可愛い姿を誰にも見せずに済むから私も楽しいです」

「唯人さんったら……」

「ふふっ。じゃあ、ランチに行きましょうか。ここから少し歩くのでちょうどいいですよ」

ポップコーンとコーヒーを飲んだ後だけれど、二人でシェアして食べたからお腹がいっぱいということはないだろう。

「はい。唯人さんと一緒に歩けるの、嬉しいです」

二人っきりの空間でこんなに可愛いことばかり言われると押し倒したくなってしまうから困るな。
こんなところで盛って、尚孝さんに引かれるのだけは避けなければいけないから早くここを出るとしようか。


映画館を出て、

「尚孝さん、あっちですよ」

と案内しながら歩いていると、

「あのー、すみません」

と後ろから声をかけられた。

その猫撫で声に私はすぐに嫌な予感を感じたが、優しい尚孝さんはすぐに振り向き、

「はい、なんでしょう?」

と笑顔で言葉を返した。
声をかけてきたのは、25歳前後の女性二人。
この時点で私の嫌な予感はほぼ確定だ。
肉食獣のような視線を尚孝さんに向けているのが丸わかりだからな。

「今さっき、あの超豪華なV.I.Pルームから出てきましたよね?」

「えっ、はい」

「きゃーっ!! やっぱりーっ!! 超お金持ちなんですねぇー!! すごーいっ!!」

大声をあげ、興奮している女性たちを前に尚孝さんはどうしていいかわからないでいるようだ。
きっとこのような人種と対峙したことがないのだろう。

「私たちぃー、いつかあの部屋に入ってみたいなって思っててぇー、どんな感じか教えてほしいなってー。今からちょうどお昼だし、一緒にランチ行って、いろいろお話し聞かせてくださーい。ねっ、行きましょー」

断られるとは微塵にも思っていないって、どこまで神経図太いんだろうな。
一人の女が勝手に尚孝さんの腕を掴もうとするのをサッと躱し、

「部屋の様子ならスタッフにでも聞かれたらいかがですか? 私たちは予定がありますので失礼します」

と大騒ぎする彼女たちに冷たく言い放ち、尚孝さんを連れてその場から立ち去ろうとした。

「ちょっと待ってよ! せっかく私たちが声かけたのにそんな言い方ひどいんじゃない?」

「そうよ! 普通は女性から声かけられたら喜んでついてくるものでしょ! ランチだって男二人で食べるより私たちと一緒の方が華やかだし楽しいんだから」

それはどんな理論なんだ?
私たちにとっては邪魔者でしかないんだが。
こんな女たちを相手にする時間が面倒だし、もったいない。

本当に厄介な奴らに絡まれたものだ。
呆れ果てながらも文句を言ってやらなければ気が済まない。

口を開こうとしたその時、

「すみませんが、僕たち二人の時間を楽しんでいるので邪魔しないでください。それに男性が全員、女性から声をかけられたら喜んでついてくるという考えは改めた方がいいですよ。私たちにとってあなた方は邪魔でしかありませんから」

と冷静な声が聞こえてきた。

「えっ?」

女たちは尚孝さんのその言葉にその場に茫然と立ち尽くしていた。

「唯人さん、行きましょう」

「は、はい」

尚孝さんのかっこいい一面に惚れ惚れしながら、私は彼と腕を絡めあい歩き始めた。

「ちょっと待ちなさいよ! 邪魔って何よ! 失礼ね!!」

あれで諦めてくれたかと思いきや、我に返った女たちが私たちの元に駆け寄ってきた。

「まだ、何か?」

「私たちが邪魔だなんて失礼でしょ! 謝りなさいよ!」

「本当のことを言っただけですよ」

今度は私が冷静に言い放つと、

「もしかしてあんたたちってゲイなの? 二人の時間楽しんでるって言ってたわよね?」

と不敵な笑みを浮かべて言ってきた。

「それが何かあなた方に関係がありますか?」

「ぷっ。やっぱりねぇ。私たちが声かけて靡かないなんてそんな人種だと思ったわ。ゲイのくせに堂々と歩いているんじゃないわよ! あんたたちの方がよっぽど邪魔よ!」

女の言葉に尚孝さんが傷ついた表情を見せる。
私の尚孝さんにこんな表情をさせるなんてて絶対に許さない!!

「あなた方、ベルンシュトルフホールディングスの社員ですよね?」

「えっ? なんでそれを……」

「あなた方がバッグにつけているそのチャーム、ベルンシュトルフホールディングスの入社記念に配られる非売品でしょう?」

「だからなんだっていうのよ! そうよ! 私たちはあの大企業に勤めているの! だから金持ちなあんたたちなら釣り合うと思ってわざわざ声かけてあげたのよ!」

「ベルンシュトルフホールディングスはLGBTQの保護にいち早く名乗りをあげ、パートナーシップの制定も会長が率先して動かれたと聞いていますよ。しかも、次期社長が同性のお相手を見つけられたとか? より良い会社づくりのために差別意識のある方の採用は見送っているという話ですが、先ほどのあなた方の発言はそれに反するものではありませんか?」

「な、なんでそこまで詳しく知ってるのよ!」

「それは簡単ですよ。私の勤め先がベルンシュトルフホールディングスの重要な取引先ですからね」

貴船コンツェルンの玄哉とうや前会長と、ベルンシュトルフホールディングスの会長・日下部くさかべ崇也たかや氏は旧知の中。
その関係で現会長の征哉さんは次期社長の透也さん、長男で料理人の祥也さんとも子どもの時から親交がある。
年齢差があるため、そこまで深い仲ではないが次期社長の透也さんが男性の伴侶とパートナーシップを申請し、正式に夫夫として認められていることは近況として知っている。

「えっ……うそ、でしょ……」

「嘘かどうかはすぐにわかると思いますよ。今までの会話も全て録音していますから、逃げようとしても無駄ですよ」

「ろく、おん? そんなのプライバシーの侵害よ!」

「トラブルを避けるためのアイテムですから問題ありません。私は弁護士ですから法に反することはしていませんよ」

「ひぃ――っ、べ、んごし……? うそ、でしょ……? そんなの卑怯よーー!!」

そう叫びながら、女たちは逃げ出して行ったが、許すつもりは毛頭ない。

私たちのデートを邪魔したんだ。
しっかり反省してもらわないとな。
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