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和菓子よりも甘い※
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<side志摩>
尚孝さんからの突然のキスに驚くものの、信号が変わり車を動かさないわけにはいかない。
ああ、もうどうして私の尚孝さんはこんなにも可愛いことをしてくれるのだろうな。
隣で揃いのキーホルダーに笑顔を見せている尚孝さんを見て、愛おしさが募る。
もどかしい思いをのせて、ようやく車は目的地に到着した。
「尚孝さん」
「あ、ここなんで――んんっ!!」
尚孝さんの後頭部に手を回し、唇を重ねる。
たっぷりと口内を堪能したいけれど、今は重ねるだけにしておこう。
ゆっくりと唇を離すと、恍惚とした表情で私を見つめる尚孝さんが可愛い。
「可愛いことをしてくれたお礼です」
「――っ、そんな……」
「続きは帰ってからにしましょうね」
「――っ!!!」
私の言葉に尚孝さんは真っ赤な顔をしつつも、頷いてくれた。
「さぁ、会長たちが出ますから私たちも外に出ましょうか」
会長が予約してくださっていたのは、雰囲気のいい日本家屋のお店。
入り口が狭いため車椅子では入りづらいようで会長が一花さんを抱きかかえて店に連れて行くようだ。
まぁ、本音を言えば、会長が一花さんと離れたくないだけだろう。
私たちはその後をついて店に入った。
案内されたのは広々とした個室。
大きな窓からは美しい庭園が見えて、まさに癒しの空間といったところだ。
料理はすでに注文済みで、後でオーナー自らご挨拶に来られるらしい。
なるほど、ここは会長のご友人のお店のようだ。
「旧華族の天沢家でそこの三男だよ。ここは元々天沢家の別荘で、父親に頼み込んでここを譲り受けて店にしたらしい」
サラッとそんなことを教えられたが、旧華族の天沢家といえば、一族に首相経験者が数人いる、政界の重鎮だ。
現在、長男は大臣、次男も代議士となっているが、三男のこのお方は全然違う世界に飛び込んだのだな。
料理人では親の七光りもあまり通用しないだろうから、かなり努力をなさったのだろう。
それにしても、この日本家屋をお店にしたのは素晴らしい判断だったな。
この庭を見ながら食事をするだけでもここにきた甲斐があるというものだ。
すぐに料理が運ばれてくる。
その度に一花さんの可愛らしい声が聞こえて、私たちはもちろん給仕スタッフでさえも笑顔になっている
一花さんの嘘偽りのない感想は、そんな癒しを与えてくれる。
実は蕎麦は私の好物でもある。
一口蕎麦を啜ると、あまりのおいしさに言葉も出ない。
地の物を使ったサクサクとした天ぷらとの相性も抜群でとにかく箸が止まらない。
あっという間に完食して、一花さんの食事を見守る。
「一花さんはだいぶ食事量が増えましたね」
こっそり尚孝さんに告げると、
「ええ、健康的になっている証拠ですね」
と笑顔を向けられる。
こうして自分のことのように喜ぶことができる尚孝さんが愛おしくてたまらないのだ。
しばらくして作務衣姿の男性がやってきた。
彼はこの店のオーナーで料理人の天沢陽仁さん。
会長とは気楽にお話をされていて、しかも一花さんのことを大事な子だともうすでにお聞きの様子。
かなり仲が良いご友人なのだろう。
天沢さんは、会長の一花さんに対する行動に驚きつつも、喜んでいるようだ。
ひとしきり話をして、素敵なお土産をいただき、私たちは帰宅の途についた。
会長宅に車を止め、自分の車で自宅に戻る。
「尚孝さん、疲れていませんか?」
「いえ、私は楽しいだけです。唯人さんの方がずっと運転で大変だったでしょう? 代われなくてすみません」
「何をおっしゃってるんですか。確かに慣れない車でしたが、隣にずっと尚孝さんがいてくださったので、私はずっとドライブデートができて楽しかったですよ」
「唯人さん……」
「帰ったら、お土産の和菓子をいただきましょう」
そう告げたのは、お土産に和菓子を渡されたとき、尚孝さんが嬉しそうに目を輝かせていたからだ。
「えっ……いいんですか?」
「ええ。その後で、甘い尚孝さんをいただきますから」
「――っ!!」
真っ赤になった尚孝さんをみて揶揄いすぎたかと思ったけれど、
「はい……いっぱい、食べてください……」
と恥じらいながら可愛い言葉が返ってきた。
ああ、もう……和菓子を食べ終えるまで我慢できない気がする……。
けれど、自宅に帰り、いそいそとお茶の支度をする尚孝さんにお茶の時間は後で…‥とも言い出せず、結局、尚孝さんが和菓子を堪能する姿を見て、一人興奮していた。
「唯人さんも食べてください」
私の悶々とした気持ちを知らない尚孝さんは、無邪気にあーんと差し出してくる。
それをパクリと食べさせてもらうと、口の中に甘い味が広がった。
尚孝さんに食べさせてもらうと、とてつもなく美味しく感じられるな。
「ふぅ……美味しかったですね」
「ええ、本当に。でも……もっと、甘いものをいただいてもいいですか?」
「えっ? んんっ!」
今朝からずっと味わいたいと思っていた尚孝さんの口内に舌を滑り込ませる。
和菓子の甘さの中に、尚孝さんの甘味も感じる。
それをたっぷりと味わって唇を離すと、
「ゆ、いと、さぁん…‥っ」
と甘い声が漏れる。
「寝室に、いきましょうか?」
小さく頷く尚孝さんを抱きかかえて、私たちは寝室の扉を閉めた。
尚孝さんからの突然のキスに驚くものの、信号が変わり車を動かさないわけにはいかない。
ああ、もうどうして私の尚孝さんはこんなにも可愛いことをしてくれるのだろうな。
隣で揃いのキーホルダーに笑顔を見せている尚孝さんを見て、愛おしさが募る。
もどかしい思いをのせて、ようやく車は目的地に到着した。
「尚孝さん」
「あ、ここなんで――んんっ!!」
尚孝さんの後頭部に手を回し、唇を重ねる。
たっぷりと口内を堪能したいけれど、今は重ねるだけにしておこう。
ゆっくりと唇を離すと、恍惚とした表情で私を見つめる尚孝さんが可愛い。
「可愛いことをしてくれたお礼です」
「――っ、そんな……」
「続きは帰ってからにしましょうね」
「――っ!!!」
私の言葉に尚孝さんは真っ赤な顔をしつつも、頷いてくれた。
「さぁ、会長たちが出ますから私たちも外に出ましょうか」
会長が予約してくださっていたのは、雰囲気のいい日本家屋のお店。
入り口が狭いため車椅子では入りづらいようで会長が一花さんを抱きかかえて店に連れて行くようだ。
まぁ、本音を言えば、会長が一花さんと離れたくないだけだろう。
私たちはその後をついて店に入った。
案内されたのは広々とした個室。
大きな窓からは美しい庭園が見えて、まさに癒しの空間といったところだ。
料理はすでに注文済みで、後でオーナー自らご挨拶に来られるらしい。
なるほど、ここは会長のご友人のお店のようだ。
「旧華族の天沢家でそこの三男だよ。ここは元々天沢家の別荘で、父親に頼み込んでここを譲り受けて店にしたらしい」
サラッとそんなことを教えられたが、旧華族の天沢家といえば、一族に首相経験者が数人いる、政界の重鎮だ。
現在、長男は大臣、次男も代議士となっているが、三男のこのお方は全然違う世界に飛び込んだのだな。
料理人では親の七光りもあまり通用しないだろうから、かなり努力をなさったのだろう。
それにしても、この日本家屋をお店にしたのは素晴らしい判断だったな。
この庭を見ながら食事をするだけでもここにきた甲斐があるというものだ。
すぐに料理が運ばれてくる。
その度に一花さんの可愛らしい声が聞こえて、私たちはもちろん給仕スタッフでさえも笑顔になっている
一花さんの嘘偽りのない感想は、そんな癒しを与えてくれる。
実は蕎麦は私の好物でもある。
一口蕎麦を啜ると、あまりのおいしさに言葉も出ない。
地の物を使ったサクサクとした天ぷらとの相性も抜群でとにかく箸が止まらない。
あっという間に完食して、一花さんの食事を見守る。
「一花さんはだいぶ食事量が増えましたね」
こっそり尚孝さんに告げると、
「ええ、健康的になっている証拠ですね」
と笑顔を向けられる。
こうして自分のことのように喜ぶことができる尚孝さんが愛おしくてたまらないのだ。
しばらくして作務衣姿の男性がやってきた。
彼はこの店のオーナーで料理人の天沢陽仁さん。
会長とは気楽にお話をされていて、しかも一花さんのことを大事な子だともうすでにお聞きの様子。
かなり仲が良いご友人なのだろう。
天沢さんは、会長の一花さんに対する行動に驚きつつも、喜んでいるようだ。
ひとしきり話をして、素敵なお土産をいただき、私たちは帰宅の途についた。
会長宅に車を止め、自分の車で自宅に戻る。
「尚孝さん、疲れていませんか?」
「いえ、私は楽しいだけです。唯人さんの方がずっと運転で大変だったでしょう? 代われなくてすみません」
「何をおっしゃってるんですか。確かに慣れない車でしたが、隣にずっと尚孝さんがいてくださったので、私はずっとドライブデートができて楽しかったですよ」
「唯人さん……」
「帰ったら、お土産の和菓子をいただきましょう」
そう告げたのは、お土産に和菓子を渡されたとき、尚孝さんが嬉しそうに目を輝かせていたからだ。
「えっ……いいんですか?」
「ええ。その後で、甘い尚孝さんをいただきますから」
「――っ!!」
真っ赤になった尚孝さんをみて揶揄いすぎたかと思ったけれど、
「はい……いっぱい、食べてください……」
と恥じらいながら可愛い言葉が返ってきた。
ああ、もう……和菓子を食べ終えるまで我慢できない気がする……。
けれど、自宅に帰り、いそいそとお茶の支度をする尚孝さんにお茶の時間は後で…‥とも言い出せず、結局、尚孝さんが和菓子を堪能する姿を見て、一人興奮していた。
「唯人さんも食べてください」
私の悶々とした気持ちを知らない尚孝さんは、無邪気にあーんと差し出してくる。
それをパクリと食べさせてもらうと、口の中に甘い味が広がった。
尚孝さんに食べさせてもらうと、とてつもなく美味しく感じられるな。
「ふぅ……美味しかったですね」
「ええ、本当に。でも……もっと、甘いものをいただいてもいいですか?」
「えっ? んんっ!」
今朝からずっと味わいたいと思っていた尚孝さんの口内に舌を滑り込ませる。
和菓子の甘さの中に、尚孝さんの甘味も感じる。
それをたっぷりと味わって唇を離すと、
「ゆ、いと、さぁん…‥っ」
と甘い声が漏れる。
「寝室に、いきましょうか?」
小さく頷く尚孝さんを抱きかかえて、私たちは寝室の扉を閉めた。
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