身も心もズタボロになった俺が南の島でイケメン社長と幸せを掴みました

波木真帆

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怪しい車

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「藤乃くん、その調子! うまい、うまいっ!」

公道を走る前に練習してみようと言われ、このカフェの物凄く広い駐車場で5年ぶりの運転に挑戦している。

運転席に座るのすら、免許取った時以来だから最初はエンジンをかけるのもドキドキした。
ハンドルを前にエンジンがかかった時は『おおっ』と感激すらしてしまった。

倉田さんはいつもMT車に乗っていて、レンタカーを借りるときもいつもそうしているだそうだけど、
俺が練習するってことでAT車にしてくれたようだ。
一応俺もMT車で免許取ったんだけど、流石に5年ぶりだとちょっとの練習では思い出せそうにないし。
簡単と言われるAT車でさえ、アクセルを踏むのは少し怖かった。

「大丈夫、ゆっくりでいいから」

倉田さんの声に安心しながら、ゆっくりとアクセルを踏むと車はゆっくりと進み出した。
一応教習所ではMT車もAT車も動かし方を習っていたし、彼のいう通りにハンドルを切って方向転換をしたり、車庫入れっぽく駐車場に車を入れてみたりしていると、だいぶ慣れてきた感じがする。

「よし。じゃあ、公道を走ってみようか。すぐ近くに展望台があるんだ。そこまで運転をお願いしよう」

『はい!』と元気よく返事したはいいいが、さっきまでの駐車場での運転とは違って、公道だと思うと途端に緊張してきた。
だけど、隣で倉田さんが『大丈夫、上手に走れてるよ、安心して』と声をかけてくれて、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。

「ほら、こっち側全部サトウキビ畑だよ」

倉田さんが窓を開けると、サトウキビが風でしなる音がよく聞こえる。

「うわぁ、本当にざわわっていってるように聞こえる~!」

「ふふっ。そうだな。この音聞いてるとすごく癒されるんだ」

確かに美しい石垣島の自然とサトウキビの揺れる音を聞いていると、自分が悩んでいたことがとてもちっぽけに思えてくる。
こんな大自然いっぱいの場所を俺が運転してるなんて信じられないな。

しばらくそのまま走っていると、倉田さんがサイドミラーを見ながら

「んっ? あの車……ずっとついてきてるな」

と呟いた。

バックミラーで見てみると、カフェを出た頃から後ろにいた茶色の車が少し離れた場所を走っている。

その茶色の車は対向車も来ないのに、スピードの遅い俺の車の後ろについて追い抜こうともしない。
このまっすぐな道で走っているのは俺たちの車とその車だけ。
車間距離も付かず離れずでつい来て、まるでこっちの様子でも伺っているようなそんな異様な光景になんとなく恐怖を感じ始めた。

「倉田さん、あの車……もしかして……」

「ああ、多分そうだろうな。藤乃くん、あいつら何か企んでいるかもしれない。横に停めて、先に行かせよう」

「は、はい。わかりました」

そう、あの茶色の車には見覚えがある。
あんな変な言いがかりをつけてくる相手だから余計恐怖が募る。

俺は言われた通り、すぐに路肩に車を寄せハザードランプをつけて停まった。
すると、後ろを走っていた車は急にスピードを上げ、グングンと迫ってきた。

「えっ? な――っ!」

逃げるにも逃げられず、ほぼノンストップでぶつかってこようとする車に俺はただただ焦るばかり。

「うわぁーーーっ!!!」

わたるっ! 危ないっ!!」

倉田さんの大声が聞こえたと思ったら、カチャリとシートベルトが外され突然伸びてきた長い腕が俺の身体をグイッと引っ張った。
俺の身体がふわりと浮き、助手席に倒れ込んだ瞬間、運転席に車が『ドーーーン!!!』と激しい音を立ててぶつかってきた。

「ゔぅわっ!」
「ぐぅっ!」 

その衝撃に車は隣にあったサトウキビ畑に突っ込んでいった。

「キャハハッ!! いい気味よ!! バーーーーカ!!」

女性たちのそんな罵声を残して、茶色の車は走り去っていった。

あの声はやっぱりさっきの彼女たちだ。
俺たちのことつけてたんだな。

ものすごい衝撃だったけれど、サトウキビが緩衝材になってくれたみたいだ。
あれだけの衝撃だったのにどこにも痛みを感じないのは倉田さんが強く抱きしめてくれていたからだろう。

「倉田さんっ! 大丈夫ですか?」

パッと見上げると、倉田さんも俺の方を見ていた。

「ああ、私は大丈夫だ。藤乃くんは痛いところはないか?」

倉田さんは自分のことも見ないうちに俺の身体ばかりを心配してチェックしてくれている。

「倉田さんが咄嗟に引っ張ってくれなかったら、俺……今頃死んでましたよ」

俺はひしゃげた運転席を見ながら、

「倉田さんは俺の命の恩人ですね! ありがとうございます」

とお礼を言うと、倉田さんは『本当によかった』とギュッと抱きしめてくれた。

あの時車がどんどん迫ってくるのがミラー越しに見えて一瞬このまま死ぬのかもって思った。

でも、あの時倉田さんが

――わたるっ! 危ないっ!!

って叫んでくれた声が今でも耳に残っている。
今もまだ抱きしめてくれている身体が温かい。

本当に2人とも生きててよかった……。

「とりあえず車からでようか。さっきの衝撃でガソリンが漏れでもしてたら爆発する危険もあるし」

倉田さんは助手席の扉を開け、先に俺を降ろした。

「――っつ!」

「んっ? どうした?」

「いえ、なんでもないです。あの……そう、サトウキビがいっぱい倒れてて驚いてしまって……」

足首がズキっと痛い気がしたけれど、たいした痛みじゃない。
これくらいならすぐに治るだろう。

「そうだな、折れたやつで怪我しないように気をつけるんだぞ」

そういうと倉田さんは俺を降ろしてすぐに車を降り車の周りを確かめてくれていたけれど、運転席がひしゃげている以外には特に問題はないみたいだ。
丈夫な車を借りていたことが不幸中の幸いだったかもしれない。

「あれって、わざとぶつかってきてましたよね……絶対」

去り際のあの罵声を思えば、あれがわざとだったのは間違いない。

「こっちにはドライブレコーダーもあるし、逃げようとしても無駄だろうな。すぐに警察に連絡しておこう」

最寄りの交番から警察官が来てくれる間に、倉田さんは宿に連絡をして迎えにきてもらえるようお願いしていた。
偶然にもあのカフェのすぐ近くに交番があり、すぐに警察官が来てくれたのはすごくよかった。
やってきた警察官に素早く説明をしてドライブレコーダーを証拠として提出し、事故の車も警察へと運ばれていった。
もちろんレンタカー会社にもこの件を報告済みで、あまりの手際の良さに俺はただただ驚くばかりだった。

そうそう、証拠のドライブレコーダーは側面だと写っていないんじゃ……と心配していたけれど、あのレンタカーには前後左右を録画できる最新のドライブレコーダーが設置されていたようだ。
ふぇーっ、今の技術ってほんとすごいよね。
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