10 / 49
離れの豪華な部屋
しおりを挟む
ガラガラと引き戸を引いて中に入ると、まるで日本旅館のような畳の部屋が現れた。
「わぁ~っ、すごい!」
あまりにもすごい部屋にさっきまでの気分の悪さはどこかへ行ってしまったようだ。
「ふふっ。ここは一緒に寛ぐ部屋だよ。先に藤乃君が使う部屋に案内しよう」
ここだよと案内された部屋はさっきの畳の部屋とはまた違った豪華な洋間だった。
寝心地の良さそうな大きなベッドが置かれていて、掛け布団もすごく柔らかそうだ。
見ただけで、もう何年も敷きっぱなしで放っていた俺の布団とは明らかに違っていた。
部屋の隅を見ると、もうすでに俺のキャリーケースが置かれていた。
あまりにもすごい建物とさっきの女性たちとの騒ぎにすっかり荷物のことを忘れていたけれど、車から荷物を下ろしてすぐに部屋に運び込まれていたらしい。
「先にスーツを着替えておいで。部屋の案内した後、出かけるから部屋着じゃなくて普段着でね」
倉田さんはそういうと部屋を出ていった。
急いでキャリーケースを開けると、俺の持っている服の中でも割と良い物を持ってきたはずだったけれど、この部屋で広げてみるとなんとなく、いやかなり浮いて見える。
ここ数年、服も買ったことなかったしな……。
はぁ……、旅行前に服の一枚でも買っておけばよかった。
今更後悔しても遅い。
待たせるのも申し訳ないし、急いで着替えなきゃ。
何着よう……短い時間の中で悩んだ末に、俺はその中でも一番まともな服に着替えた。
けれど、ベージュのハーフパンツに水色のシャツを着た俺は、どこからどう見ても高校生にしか見えない。
はぁーっ、だってこれ買ったの高校の時だもん。仕方ないよな。
俺はキャリーケースの中の寝巻きに持ってきたアレをチラッと流し見た。
あーあ、倉田さんの前でアレ着るの恥ずかしいな……。
だけど寝巻きはアレしかないし……まぁ、いいや。その時考えよう。
俺はキャリーケースをパッと閉めて、俺は立ち上がった。
部屋を出てさっきの畳の部屋に行くと、倉田さんはお茶を淹れてくれていた。
ふわっと緑茶のいい香りが漂ってくる。
見ると、倉田さんもラフな格好になっている。
俺が着替えている間に倉田さんも着替えたんだろう。
こんなラフな格好でもかっこよさが変わらないなんてほんとズルイよな。
「お待たせしました」
声をかけると、笑顔で振り返った倉田さんがピシッと固まった。
じっと俺を見たまま、動こうともしない。
「あ、あの……くら、たさん……?」
「……ああ、悪い。急に高校生が現れて驚いたよ」
「やっぱり、はぁっ……そうですよね。
実はこれ買ったの高校の時で……これが持ってる服の中で一番マシだったんですよねー」
「そうか。いや、でもよく似合ってるよ」
「そうですか? でも俺、もう23なんですけど……」
「いや、ははっ。まぁ気にしなくていいんじゃないか」
さぁ、お茶でも飲んでくれと差し出されたお茶を手にしながら、俺は一番の懸念を口にした。
「あ、あの……先に言っときますけど、俺が寝巻きに持って来たやつ見ても絶対に笑わないでくださいね!」
「えっ? 寝巻き? 笑うって……そんなおかしな寝巻きなのか?」
「いや……俺は気に入ってるんですけど……見た目が気になるかなと思って……」
「見た目って……どんなものか想像つかないな。でも、わかったよ。絶対笑ったりしないよ」
そう言われてホッとした。
気に入ってるアレじゃないと、眠れないしな。
倉田さんの淹れてくれたお茶を飲み終わると、部屋を案内してくれた。
この畳の部屋の隣にある倉田さんがいつも使っている部屋は俺の部屋の造りとよく似ていた。
きっと畳の部屋を挟んで左右対称になってるんだ。
「ここは、君の部屋とほとんど同じ造りなんだけどね……ひとつだけ違うところがあるんだ」
「えっ? どこですか?」
キョロキョロと辺りを見回したけどどこが違いが全くわからない。
「ふふっ。ここだよ」
手をとってベッドの裏に連れて行かれた。
確か、俺の部屋のこの場所には大きなウォークインクローゼットがあったはず。
ところがこの部屋には大きな木の引き戸があった。
んっ? 何? なんかの部屋?
「ここ……?」
「開けてごらん」
ドキドキしながらガラガラと引き戸を開けると、ふわっと硫黄の匂いが漂ってきた。
「えっ……これって、まさか……温泉?」
「正解っ!」
知らなかった。石垣島に温泉なんて……。
中を見てみようと手を引いて連れて行かれると、大きな岩場の中に温かそうなお湯が沸いていた。
「わぁっ! すごいっ!」
「だろう? あまり知られていないが、石垣でも温泉はあるんだよ。
ここの湯は疲れをとってくれるから後でゆっくり入って癒されるといい」
「はい。ありがとうございます」
「よし。じゃあ、観光でも行くか」
そう誘われ、俺は部屋に戻り出かける準備をした。
小さなボディバッグに財布と携帯をいれて、キャリーケースから靴下とスニーカーを取り出した。
それを取り出すときにも寝巻きのアレが見えたけれど、とりあえず見ないフリをして急いでファスナーを閉めた。
離れを出て、再びロビーを通るとさっきのフロントの方がささっと駆け寄ってきた。
「お出かけでございますか?」
「ああ。少し観光してくるよ」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
何か倉田さんに渡しているような気がしたけれど、なんだろう? 部屋の鍵とか?
俺は特に気にもならずに
「行ってきます」
とフロントの人に挨拶をして倉田さんと一緒に宿を出た。
「わぁ~っ、すごい!」
あまりにもすごい部屋にさっきまでの気分の悪さはどこかへ行ってしまったようだ。
「ふふっ。ここは一緒に寛ぐ部屋だよ。先に藤乃君が使う部屋に案内しよう」
ここだよと案内された部屋はさっきの畳の部屋とはまた違った豪華な洋間だった。
寝心地の良さそうな大きなベッドが置かれていて、掛け布団もすごく柔らかそうだ。
見ただけで、もう何年も敷きっぱなしで放っていた俺の布団とは明らかに違っていた。
部屋の隅を見ると、もうすでに俺のキャリーケースが置かれていた。
あまりにもすごい建物とさっきの女性たちとの騒ぎにすっかり荷物のことを忘れていたけれど、車から荷物を下ろしてすぐに部屋に運び込まれていたらしい。
「先にスーツを着替えておいで。部屋の案内した後、出かけるから部屋着じゃなくて普段着でね」
倉田さんはそういうと部屋を出ていった。
急いでキャリーケースを開けると、俺の持っている服の中でも割と良い物を持ってきたはずだったけれど、この部屋で広げてみるとなんとなく、いやかなり浮いて見える。
ここ数年、服も買ったことなかったしな……。
はぁ……、旅行前に服の一枚でも買っておけばよかった。
今更後悔しても遅い。
待たせるのも申し訳ないし、急いで着替えなきゃ。
何着よう……短い時間の中で悩んだ末に、俺はその中でも一番まともな服に着替えた。
けれど、ベージュのハーフパンツに水色のシャツを着た俺は、どこからどう見ても高校生にしか見えない。
はぁーっ、だってこれ買ったの高校の時だもん。仕方ないよな。
俺はキャリーケースの中の寝巻きに持ってきたアレをチラッと流し見た。
あーあ、倉田さんの前でアレ着るの恥ずかしいな……。
だけど寝巻きはアレしかないし……まぁ、いいや。その時考えよう。
俺はキャリーケースをパッと閉めて、俺は立ち上がった。
部屋を出てさっきの畳の部屋に行くと、倉田さんはお茶を淹れてくれていた。
ふわっと緑茶のいい香りが漂ってくる。
見ると、倉田さんもラフな格好になっている。
俺が着替えている間に倉田さんも着替えたんだろう。
こんなラフな格好でもかっこよさが変わらないなんてほんとズルイよな。
「お待たせしました」
声をかけると、笑顔で振り返った倉田さんがピシッと固まった。
じっと俺を見たまま、動こうともしない。
「あ、あの……くら、たさん……?」
「……ああ、悪い。急に高校生が現れて驚いたよ」
「やっぱり、はぁっ……そうですよね。
実はこれ買ったの高校の時で……これが持ってる服の中で一番マシだったんですよねー」
「そうか。いや、でもよく似合ってるよ」
「そうですか? でも俺、もう23なんですけど……」
「いや、ははっ。まぁ気にしなくていいんじゃないか」
さぁ、お茶でも飲んでくれと差し出されたお茶を手にしながら、俺は一番の懸念を口にした。
「あ、あの……先に言っときますけど、俺が寝巻きに持って来たやつ見ても絶対に笑わないでくださいね!」
「えっ? 寝巻き? 笑うって……そんなおかしな寝巻きなのか?」
「いや……俺は気に入ってるんですけど……見た目が気になるかなと思って……」
「見た目って……どんなものか想像つかないな。でも、わかったよ。絶対笑ったりしないよ」
そう言われてホッとした。
気に入ってるアレじゃないと、眠れないしな。
倉田さんの淹れてくれたお茶を飲み終わると、部屋を案内してくれた。
この畳の部屋の隣にある倉田さんがいつも使っている部屋は俺の部屋の造りとよく似ていた。
きっと畳の部屋を挟んで左右対称になってるんだ。
「ここは、君の部屋とほとんど同じ造りなんだけどね……ひとつだけ違うところがあるんだ」
「えっ? どこですか?」
キョロキョロと辺りを見回したけどどこが違いが全くわからない。
「ふふっ。ここだよ」
手をとってベッドの裏に連れて行かれた。
確か、俺の部屋のこの場所には大きなウォークインクローゼットがあったはず。
ところがこの部屋には大きな木の引き戸があった。
んっ? 何? なんかの部屋?
「ここ……?」
「開けてごらん」
ドキドキしながらガラガラと引き戸を開けると、ふわっと硫黄の匂いが漂ってきた。
「えっ……これって、まさか……温泉?」
「正解っ!」
知らなかった。石垣島に温泉なんて……。
中を見てみようと手を引いて連れて行かれると、大きな岩場の中に温かそうなお湯が沸いていた。
「わぁっ! すごいっ!」
「だろう? あまり知られていないが、石垣でも温泉はあるんだよ。
ここの湯は疲れをとってくれるから後でゆっくり入って癒されるといい」
「はい。ありがとうございます」
「よし。じゃあ、観光でも行くか」
そう誘われ、俺は部屋に戻り出かける準備をした。
小さなボディバッグに財布と携帯をいれて、キャリーケースから靴下とスニーカーを取り出した。
それを取り出すときにも寝巻きのアレが見えたけれど、とりあえず見ないフリをして急いでファスナーを閉めた。
離れを出て、再びロビーを通るとさっきのフロントの方がささっと駆け寄ってきた。
「お出かけでございますか?」
「ああ。少し観光してくるよ」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
何か倉田さんに渡しているような気がしたけれど、なんだろう? 部屋の鍵とか?
俺は特に気にもならずに
「行ってきます」
とフロントの人に挨拶をして倉田さんと一緒に宿を出た。
181
お気に入りに追加
1,632
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる