身も心もズタボロになった俺が南の島でイケメン社長と幸せを掴みました

波木真帆

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離れの豪華な部屋

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ガラガラと引き戸を引いて中に入ると、まるで日本旅館のような畳の部屋が現れた。

「わぁ~っ、すごい!」

あまりにもすごい部屋にさっきまでの気分の悪さはどこかへ行ってしまったようだ。

「ふふっ。ここは一緒に寛ぐ部屋だよ。先に藤乃君が使う部屋に案内しよう」

ここだよと案内された部屋はさっきの畳の部屋とはまた違った豪華な洋間だった。
寝心地の良さそうな大きなベッドが置かれていて、掛け布団もすごく柔らかそうだ。
見ただけで、もう何年も敷きっぱなしで放っていた俺の布団とは明らかに違っていた。

部屋の隅を見ると、もうすでに俺のキャリーケースが置かれていた。
あまりにもすごい建物とさっきの女性たちとの騒ぎにすっかり荷物のことを忘れていたけれど、車から荷物を下ろしてすぐに部屋に運び込まれていたらしい。

「先にスーツを着替えておいで。部屋の案内した後、出かけるから部屋着じゃなくて普段着でね」

倉田さんはそういうと部屋を出ていった。

急いでキャリーケースを開けると、俺の持っている服の中でも割と良い物を持ってきたはずだったけれど、この部屋で広げてみるとなんとなく、いやかなり浮いて見える。

ここ数年、服も買ったことなかったしな……。
はぁ……、旅行前に服の一枚でも買っておけばよかった。

今更後悔しても遅い。
待たせるのも申し訳ないし、急いで着替えなきゃ。
何着よう……短い時間の中で悩んだ末に、俺はその中でも一番まともな服に着替えた。
けれど、ベージュのハーフパンツに水色のシャツを着た俺は、どこからどう見ても高校生にしか見えない。

はぁーっ、だってこれ買ったの高校の時だもん。仕方ないよな。

俺はキャリーケースの中の寝巻きに持ってきたアレ・・をチラッと流し見た。
あーあ、倉田さんの前でアレ着るの恥ずかしいな……。

だけど寝巻きはアレしかないし……まぁ、いいや。その時考えよう。

俺はキャリーケースをパッと閉めて、俺は立ち上がった。

部屋を出てさっきの畳の部屋に行くと、倉田さんはお茶を淹れてくれていた。
ふわっと緑茶のいい香りが漂ってくる。

見ると、倉田さんもラフな格好になっている。
俺が着替えている間に倉田さんも着替えたんだろう。
こんなラフな格好でもかっこよさが変わらないなんてほんとズルイよな。

「お待たせしました」

声をかけると、笑顔で振り返った倉田さんがピシッと固まった。
じっと俺を見たまま、動こうともしない。

「あ、あの……くら、たさん……?」

「……ああ、悪い。急に高校生が現れて驚いたよ」

「やっぱり、はぁっ……そうですよね。
実はこれ買ったの高校の時で……これが持ってる服の中で一番マシだったんですよねー」

「そうか。いや、でもよく似合ってるよ」

「そうですか? でも俺、もう23なんですけど……」

「いや、ははっ。まぁ気にしなくていいんじゃないか」

さぁ、お茶でも飲んでくれと差し出されたお茶を手にしながら、俺は一番の懸念を口にした。

「あ、あの……先に言っときますけど、俺が寝巻きに持って来たやつ見ても絶対に笑わないでくださいね!」

「えっ? 寝巻き? 笑うって……そんなおかしな寝巻きなのか?」

「いや……俺は気に入ってるんですけど……見た目が気になるかなと思って……」

「見た目って……どんなものか想像つかないな。でも、わかったよ。絶対笑ったりしないよ」

そう言われてホッとした。
気に入ってるアレ・・じゃないと、眠れないしな。

倉田さんの淹れてくれたお茶を飲み終わると、部屋を案内してくれた。
この畳の部屋の隣にある倉田さんがいつも使っている部屋は俺の部屋の造りとよく似ていた。
きっと畳の部屋を挟んで左右対称になってるんだ。

「ここは、君の部屋とほとんど同じ造りなんだけどね……ひとつだけ違うところがあるんだ」

「えっ? どこですか?」

キョロキョロと辺りを見回したけどどこが違いが全くわからない。

「ふふっ。ここだよ」

手をとってベッドの裏に連れて行かれた。
確か、俺の部屋のこの場所には大きなウォークインクローゼットがあったはず。

ところがこの部屋には大きな木の引き戸があった。
んっ? 何? なんかの部屋?

「ここ……?」

「開けてごらん」

ドキドキしながらガラガラと引き戸を開けると、ふわっと硫黄の匂いが漂ってきた。

「えっ……これって、まさか……温泉?」

「正解っ!」

知らなかった。石垣島に温泉なんて……。

中を見てみようと手を引いて連れて行かれると、大きな岩場の中に温かそうなお湯が沸いていた。

「わぁっ! すごいっ!」

「だろう? あまり知られていないが、石垣でも温泉はあるんだよ。
ここの湯は疲れをとってくれるから後でゆっくり入って癒されるといい」

「はい。ありがとうございます」

「よし。じゃあ、観光でも行くか」

そう誘われ、俺は部屋に戻り出かける準備をした。

小さなボディバッグに財布と携帯をいれて、キャリーケースから靴下とスニーカーを取り出した。
それを取り出すときにも寝巻きのアレ・・が見えたけれど、とりあえず見ないフリをして急いでファスナーを閉めた。

離れを出て、再びロビーを通るとさっきのフロントの方がささっと駆け寄ってきた。

「お出かけでございますか?」

「ああ。少し観光してくるよ」

「お気をつけていってらっしゃいませ」

何か倉田さんに渡しているような気がしたけれど、なんだろう? 部屋の鍵とか?
俺は特に気にもならずに

「行ってきます」

とフロントの人に挨拶をして倉田さんと一緒に宿を出た。
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