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偶然が重なる
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「ああ、彼は上田って言ってね、さっきも話したけど僕の同期なんだよ。相手の会社をしっかりとリサーチして、じっくり読み込んでから戦略を練るタイプで、資料には結構こだわりがあるんだけど、確実に契約をとってきてくれるから、やりがいはあると思うよ」
「へぇー、すごい優秀な営業さんなんですね。あれ? 上田って?」
「ああ、えっと……そうなんだ。実は誉さんの弟で……」
「ええーっ、そうなんですか? じゃあ、その上田さんに紹介していただいたんですか?」
「うーん、まぁそういうことになるのかな」
「わぁー、素敵ですね」
「ふふっ。しかもね、その上田は小田切先生と大学の同級生で友達なんだって」
「ええーっ!! 本当ですか? すごい偶然ですね!!!」
「ふふっ。でしょう? だから、お互い縁もあるし、上田は人当たりがいいからきっとすぐ仲良くなれるだろうし、仕事もしやすいと思うよ」
まさか一緒にバディを組む人が智さんのお友達で、しかも宇佐美さんの恋人さんの弟さんなんて……。
こんな偶然信じられないけど……でも、すっごく嬉しい。
その後、オフィスの中を隈なく案内してくれて、すごく楽しかった。
ああ、こんなところでずっと働きたい!
そう思ってしまうほど、宇佐美さんとも高遠さんとも楽しい時間を過ごした。
「そろそろ戻ろうか」
そう言われて、智さんたちのいた場所に戻るとちょうど三人が応接室から出てくるところだった。
智さんがすぐに僕に笑顔を向けてくれるのが嬉しい。
支社長さんがこれから食事にと宇佐美さんを誘っていたけれど、高遠さんに声をかけるそぶりがない。
もしかして高遠さんは一緒に行かないとか?
予定でもあったりするんだろうか?
それでも声をかけるくらいしてもいいのに……なんて思ってしまう。
支社長さんがそんな意地悪をする人には思えないけれどどうしても気になって、
「えっ、あの……高遠さんは誘わないんですか?」
と声をかけると、支社長さんは少し困った顔をしていた。
なんだろう……この表情。
すると、
「北原。違う違う。高遠さんはもういくことは決定してるんだよ。今日の店は高遠さんの恋人がやっているお店だから」
と田辺が教えてくれた。
高遠さんの恋人さんが料理人さんってこと?
すごいなぁ。
こっちの人なんだろうか。
そう思っていると、
「今日紹介するね。ちなみに僕の相手も男性だよ」
と高遠さんがあっけらかんとカミングアウトしてきた。
えっ?
高遠さんの恋人さんも男性?
うそっ。
だって、支社長さんの恋人さんも、それに宇佐美さんの恋人さんもみんな男性だって……。
ここにいる人みんなが僕と同じってことだ。
今まで必死に隠してきたのって全部無駄だったのかもな……。
きっと自分に自信がなさすぎて周りがよく見えていなかったんだ。
それを教えてくれたみなさんには感謝しかないな。
食事に行こうと準備をしていると、オフィスにいた女性社員の人たちが何人か近づいてきて、支社長さんに
「あの、今からこの方達と食事に行かれるんですよね? 私たちもご一緒してもいいですか? 私たち、もうすぐ日本に帰るし送別会的な感じで最後に支社長たちといっぱいお話ししたいなって」
と頼んできた。
彼女たちの気持ちはわからないではないけれど、せっかくいろんな話ができると思ったのに……ちょっと嫌だなぁと思ってしまった。
だから支社長さんがすぐに断ってくれてほっとした。
でも彼女たちは諦められないみたいだ。
話を聞いているとどうやら田辺と宇佐美さんが経営者一族だから仲良くなりたい感じが溢れ出ていて、なんとなく嫌な感じだ。
僕は田辺が経営者一族だからと知っても別にすごいなというくらいしか思わなかったけどな。
彼女たちにしてみれば違う意味ですごいことだったんだろう。
でも田辺も宇佐美さんもすでに恋人がいるから、どれだけ話をしても彼女たちに振り向くことはないと思うけどね。
「智さん……」
「ふふっ。大丈夫、彼がしっかりと断るはずだよ」
もしかしたら智さんも彼女たちに狙われているのかもと思って心配したのだけど、智さんは彼女たちのことは全然気になっていないみたいだ。
僕の方だけを見ていてくれるのがすごく嬉しいし、安心する。
僕が智さんと話をしている間にあっという間に彼女たちがどこかへ行ってしまった。
どうやら田辺がきちんと断ってくれたみたいだ。
「杉山さん、余計な邪魔が入らないうちにさっさと行きましょう」
そう言って支社長に寄り添う田辺はなんだかかっこいいヒーローに見えた。
「へぇー、すごい優秀な営業さんなんですね。あれ? 上田って?」
「ああ、えっと……そうなんだ。実は誉さんの弟で……」
「ええーっ、そうなんですか? じゃあ、その上田さんに紹介していただいたんですか?」
「うーん、まぁそういうことになるのかな」
「わぁー、素敵ですね」
「ふふっ。しかもね、その上田は小田切先生と大学の同級生で友達なんだって」
「ええーっ!! 本当ですか? すごい偶然ですね!!!」
「ふふっ。でしょう? だから、お互い縁もあるし、上田は人当たりがいいからきっとすぐ仲良くなれるだろうし、仕事もしやすいと思うよ」
まさか一緒にバディを組む人が智さんのお友達で、しかも宇佐美さんの恋人さんの弟さんなんて……。
こんな偶然信じられないけど……でも、すっごく嬉しい。
その後、オフィスの中を隈なく案内してくれて、すごく楽しかった。
ああ、こんなところでずっと働きたい!
そう思ってしまうほど、宇佐美さんとも高遠さんとも楽しい時間を過ごした。
「そろそろ戻ろうか」
そう言われて、智さんたちのいた場所に戻るとちょうど三人が応接室から出てくるところだった。
智さんがすぐに僕に笑顔を向けてくれるのが嬉しい。
支社長さんがこれから食事にと宇佐美さんを誘っていたけれど、高遠さんに声をかけるそぶりがない。
もしかして高遠さんは一緒に行かないとか?
予定でもあったりするんだろうか?
それでも声をかけるくらいしてもいいのに……なんて思ってしまう。
支社長さんがそんな意地悪をする人には思えないけれどどうしても気になって、
「えっ、あの……高遠さんは誘わないんですか?」
と声をかけると、支社長さんは少し困った顔をしていた。
なんだろう……この表情。
すると、
「北原。違う違う。高遠さんはもういくことは決定してるんだよ。今日の店は高遠さんの恋人がやっているお店だから」
と田辺が教えてくれた。
高遠さんの恋人さんが料理人さんってこと?
すごいなぁ。
こっちの人なんだろうか。
そう思っていると、
「今日紹介するね。ちなみに僕の相手も男性だよ」
と高遠さんがあっけらかんとカミングアウトしてきた。
えっ?
高遠さんの恋人さんも男性?
うそっ。
だって、支社長さんの恋人さんも、それに宇佐美さんの恋人さんもみんな男性だって……。
ここにいる人みんなが僕と同じってことだ。
今まで必死に隠してきたのって全部無駄だったのかもな……。
きっと自分に自信がなさすぎて周りがよく見えていなかったんだ。
それを教えてくれたみなさんには感謝しかないな。
食事に行こうと準備をしていると、オフィスにいた女性社員の人たちが何人か近づいてきて、支社長さんに
「あの、今からこの方達と食事に行かれるんですよね? 私たちもご一緒してもいいですか? 私たち、もうすぐ日本に帰るし送別会的な感じで最後に支社長たちといっぱいお話ししたいなって」
と頼んできた。
彼女たちの気持ちはわからないではないけれど、せっかくいろんな話ができると思ったのに……ちょっと嫌だなぁと思ってしまった。
だから支社長さんがすぐに断ってくれてほっとした。
でも彼女たちは諦められないみたいだ。
話を聞いているとどうやら田辺と宇佐美さんが経営者一族だから仲良くなりたい感じが溢れ出ていて、なんとなく嫌な感じだ。
僕は田辺が経営者一族だからと知っても別にすごいなというくらいしか思わなかったけどな。
彼女たちにしてみれば違う意味ですごいことだったんだろう。
でも田辺も宇佐美さんもすでに恋人がいるから、どれだけ話をしても彼女たちに振り向くことはないと思うけどね。
「智さん……」
「ふふっ。大丈夫、彼がしっかりと断るはずだよ」
もしかしたら智さんも彼女たちに狙われているのかもと思って心配したのだけど、智さんは彼女たちのことは全然気になっていないみたいだ。
僕の方だけを見ていてくれるのがすごく嬉しいし、安心する。
僕が智さんと話をしている間にあっという間に彼女たちがどこかへ行ってしまった。
どうやら田辺がきちんと断ってくれたみたいだ。
「杉山さん、余計な邪魔が入らないうちにさっさと行きましょう」
そう言って支社長に寄り添う田辺はなんだかかっこいいヒーローに見えた。
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