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莉斗が傷つけられた

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「湊介さぁ~ん! 来ちゃいましたぁ」

仕事を終え、駐車場へと向かおうとした俺の前に突然現れたのは、あの舞香とかいう女。
あれだけ言ってまだわかっていなかったのかと、もうため息しか出ない。

「あなたがなぜここにいるんですか?」

「だから、会いに来てあげたんですってば。湊介さん、全然来てくれないから。昨日も勝手に帰っちゃうし。そのせいで私、父に怒られたんですよ」

「勝手にって……あなたとは付き合えないとはっきりお断りしましたよね?」

「でも、会ってくださるってことは私に少しは気があったってことでしょう?私、実際に湊介さんに会ってわかったんです。やっぱり私の相手は湊介さんしかいないって」

だめだ、こいつ。全然話が通じない。
澤乃井さんの娘だからと思って話をしてやってるっていうのに。
もう話をするのも面倒だ。

「いいか、よく聞け。俺はお前なんかと付き合う気もないし、もう話したくもない。俺に近づくな」

「なんでそんなこと言うの? 私と付き合ってくれたら、絶対に私のことを好きになるはずなのに!!」

「お前なんか一生好きになるわけないだろ!! 俺の大切な人はたった1人しかいない!! 迷惑なんだよ!! いい加減にしてくれ!! 警察呼ぶぞ!」

「湊介さん!! ひどいっ!! 私がこんなに好きなのに!!」

もう埒が明かないと思った俺はすぐに警備員をよび、警察を呼んで連れて行ってもらった。
女が騒ぎながら連れていかれるのをみながら俺はすぐに澤乃井部長に電話をかけた。

ーこれはこれは、四ノ宮社長。昨日は大変失礼いたしました。

ー澤乃井さん。昨夜お詫びのお電話をいただいたので、てっきり私の真意は伝わったと思っていたのですが、残念です。

ーえっ? それはど一体ういうことでしょうか?

ー先ほど、お嬢さんが我が社に来て大騒ぎして警察に連れていかれましたよ。

ー舞香が、警察に? まさか……

ーこれ以上、私に付き纏うようなことがありましたら御宅との取引は停止させていただきますので、しっかりと娘さんを監視してください。

ー本当に申し訳ございません。舞香にはきつく言っておきますのでどうかお許しください。

澤乃井部長は何度も何度も謝罪の言葉を述べながら電話を切った。

はぁ、本当に余計なことになった。
このままでは週末莉斗に会うのはやめておいた方がいいか……。

ああ、1週間働いた分の癒しだったのに。
週末会えないのは本当に辛いな。

そう思っていたが、澤乃井部長がしっかりと見張っていてくれているのか、それともよっぽど警察でお灸を据えられたのか、その日以降、あの女の姿を見ることは無くなった。

あちらの会社にしても、今、うちとの取引がなくなるのはかなりの痛手だろうからな。
いくら娘に甘い部長だとしてもうちとの取引と天秤に掛ければどちらを守らなければいけないかわかるはずだ。

数日何事もなく穏やかな日常がすぎ、もう大丈夫だろうと思っていると、

「湊介、今度の週末はどうする? 俺、ランチで行ってみたいところがあるんだけど」

莉斗から当然のように週末のデートに誘われて、断るなんて選択肢はなかった。

「いいよ、じゃあそこ食べに行った後映画でも観に行くか。莉斗が観たいって言ってたやつ、もう始まってるぞ」

「ああ、行く行く! じゃあ、そうしよう」

莉斗との楽しい週末の約束に俺は胸を高鳴らせていた。

莉斗が行きたいって言っていたランチの場所からそんなに離れていない場所にある、待ち合わせによく使うカフェで俺は約束の時間の15分前から待っていた。

本当は莉斗の家に迎えに行こうかと思ったが、もしあの女につけられて莉斗の家の場所が見つかると厄介なことになると思い、今日は人目があるカフェにしたんだ。
周りにあの女がいないかを意識しながら待っていると、莉斗がカフェに入ってくるのが見えた。

ああ、今日も可愛い。
いつも通り俺の服を着て、それがまた物凄く似合っている。

莉斗が店に入ってきた途端、店にいた人たち全員の視線が莉斗に向いたのがわかった。
可愛くて華がある莉斗なら当然か。
莉斗に声をかけようとしている奴を見つけて、俺は牽制のために

「ああ。こっち、こっち~!」

と大きな声をあげ莉斗を呼び寄せた。

俺の声に気づいた莉斗が俺を見てホッと柔らかな笑みを浮かべる。
その笑顔があまりにも可愛くて思わず抱きしめたくなるほどだ。

周りから一気に羨望の眼差しで見られているが莉斗は俺のものだから諦めてくれ。

椅子をくっつけて周りに見せつけながら楽しく会話をして、そろそろランチの予約時間になったなと莉斗に声をかけ店を出ようとすると、突然俺たちの席の前に立ちはだかった女がいた。

髪には艶がなくボサボサで薄汚れたワンピースを着た女があの女だと気づくのに一瞬遅れた。
それほどまでにこの前の姿とは全然違っていたんだ。

すると突然女は莉斗を睨みつけながら、自分の方が美人なのにどうして選んでくれないのかと大声で騒ぎ始めた。

すぐにでも警察を呼ぼうと思ったが、店中の視線が俺たち3人に向けられている。
ここで騒ぎになるのは後々面倒だろうと思い、俺ははっきりと付き合えないと拒絶し、莉斗の手を引いて外に出ようとした。

「ちょっとっ、待ちなさいよっ!!! 私の湊介さん、盗らないでよ!!! 湊介さんは私のものなの! あんたなんかに盗られるくらいなら、こうしてやるんだから!!!」

女は急に大声でそう捲し立てたかと思うと、テーブルに置いてあったグラスを俺に向かって思いっきり投げつけてきた。

俺が避けようと思った瞬間、

「湊介っ! 危ないっ!!」

という莉斗の叫び声が聞こえたと思ったら、グラスが大きく割れる音と共に莉斗が俺の目の前で倒れていった。
莉斗の綺麗な顔がみるみるうちに血まみれになり、血色の良かった肌がどんどん青白くなっていく。

俺は莉斗の名前を何度も何度も呼びながら、必死に傷口をタオルで圧迫した。

「救急車と警察を呼んでくれ!!」

「大丈夫です。もうどちらも呼んでますから、あなたは恋人さんのことだけ考えてあげてください」

そう声をかけてくれたのはここの店員の誰か。
パニックになりかけていた俺にそう声をかけてくれたおかげで俺は莉斗を胸に抱きしめて、救急車の到着を待っていられた。

女は店にいた人たちにすぐに確保され、救急車と同じタイミングでやってきた警察にあっという間に連れていかれ、俺は莉斗の婚約者だと話して一緒に救急車に乗り込み、病院へと向かった。
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