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◇第三章◇
レオンが部屋から出てすぐに洋服を着た。朝の支度をしている間に、ルームサービスのホテルマンたちが来て朝食の準備をしてくれた。
年配の男性と女性の人は、里奈と顔を合わせずに事務的にテーブルの上に朝食をのせた。作業を終わるとお辞儀をして部屋を出て行った。
でも里奈と同じ年頃の二人の女たちは、里奈の顔や体を頭のてっぺんから足の先まで何度も往復して見た。そして、「ふ~ん」と勝ち誇った顔をして部屋を出た。
ホテルマンたちが部屋を出て行った後、豪華な朝食にも関わらず食べる気がわかない。
紅茶を二口ほど飲んでみた。もうこんなに上品な紅茶も異世界に来てからなかったと、改めて自分の立ち位置を思い出し、これ以上紅茶を飲めなかった。
(戻れるうちに戻ろう)
それに今日も仕事をしないといけない。レオンの顔を一瞬思い出したが、迷わずに部屋を出た。ホテルの入り口はすぐ分かった。朝早いのに一階のホテルのロビーは賑わっていた。
二階から一階へ階段を下りた当りで、数人の女性の声が聞こえた。
「あんなブスより、断然私の方が綺麗じゃない」
「そうよ、まな板だったわ」
「私、今度シーオンさまが来たらアタックしてみるわ」
一瞬、里奈のことを噂しているのではと思って足を止めたが、シーオンと言う名前が聞こえたのでその場を離れた。平民の恰好をした里奈を気にかける人がいなかったから、建物から出るのは簡単だった。
運良くその後もお城行きの馬車に間に合った。ゴタゴタ動く馬車が揺れる度に、下半身に痛みがあった。その痛みのせいで、レオンとのことは現実だったと思い知らされる。
里奈がホテルでレオンを待たなかったのは、たしかに仕事があるからだけれど。それより里奈は、レオンとの思い出を綺麗なままにしておきたかった。
お金をもらったら、昨日の思い出が悲しい思い出になると思った。
それにレオンに会ったら、彼に惹かれていく自分が怖かった。レイーシャさまを忘れるのが嫌だった。
なにより非人とレッテル貼られている里奈は、もう誰とも結婚して幸せな生活がある未来なんてない、と無意識に思いはじめていた。
いつものようにお城の裏庭の馬車待合場で下りた。
「リーナ!」
ハンナお母さんが里奈に抱きついた。
「昨夜帰って来ないから心配したのよ!」
抱きしめるハンナお母さんから涙の音が聞こえる。
「ごめんなさい……」
アバズレお母さんは里奈が家にいないと喜んだ。とくにエロ漫画のアシスタントしている時は、ほとんど泊まりがけが多かった。
だからハンナお母さんが里奈の帰りを待って心配しているなど考えもしなかった。
「ごめんなさい」
里奈にはただ謝ることしかできない。
「いいのよ。無事に帰って来てくれて、それだけでいいのよ」
ハンナお母さんが里奈のストレートの髪の毛をやさしい手つきで撫でてくれた。
ハンナお母さんは里奈が人買いに攫われたのだろうか、と心配していた。平凡な里奈を攫う物好きなんていないのに、と言ったら怒られた。
「リーナは可愛いから気をつけないさい」
と念を押された。里奈のようなのっぺりの顔立ちをしている人がいないから、珍しいのかな。パンダが珍しいから可愛いと言う心理と一緒なんだろう。
◇
レイーシャさまがお城に戻ってから、一週間経った。でも一度も会っていない。
一日一日と日が経つにつれて、レイーシャさまの顔を思い出せなくなっている。その代わり、レオンのことを思い出すことが多くなった。
このごろレイーシャさまとはなにもなかったんだ、と思えるようになっていた。
コーディーさまは飽きもせずに毎日里奈のところに来る。忙しさと疲れを理由に、彼の誘いを全部断っている。なのに、彼はいつも花を持って来る。
里奈はもうレイーシャさまに忘れられたから、監視は必要ないのに。
初体験をした日から数日経ったのに、体が怠くてベットでゴロゴロしていたい。
「リーナ、まだ体調が悪いの?」
「……うん」
「……そうなんだ。あまり無理したらダメよ。残りの洗濯物は私がするから、リーナはベットで休んでて」
リーナが泣きそうな顔をしているのに、元気よく笑顔で言った。
「うん。ありがとう」
「リーナは小さいのに頑張りすぎなのよ。リーナは私の大切な妹だから、ずーと、ずーとお姉ちゃんが面倒見てあげる!」
「もう私の方がずーっと年上なのに。ミイシャが私の妹よ」
ミイシャは里奈とハンナお母さんのことを家族と何度も、何度も、まるで自分に言い聞かせるように言うようになった。ミイシャの本当の家族は、彼女がお城勤めをはじめてから一度も会いに来ていない。手紙もない。非人の他の仲間もみんな似たような感じだった。
どうしてこの国の人たちは、非人をこんなに嫌うのだろう。マジむかつく。
「もー、私の方がしっかりしていて大きいから、私がお姉ちゃんよ。
ねえ、それより面白い話を聞いたの」
ミイシャの暴行事件以来、ふさぎこんでいたミイシャが本来の明るさを少し取り戻したようでほっとする。
レオンが部屋から出てすぐに洋服を着た。朝の支度をしている間に、ルームサービスのホテルマンたちが来て朝食の準備をしてくれた。
年配の男性と女性の人は、里奈と顔を合わせずに事務的にテーブルの上に朝食をのせた。作業を終わるとお辞儀をして部屋を出て行った。
でも里奈と同じ年頃の二人の女たちは、里奈の顔や体を頭のてっぺんから足の先まで何度も往復して見た。そして、「ふ~ん」と勝ち誇った顔をして部屋を出た。
ホテルマンたちが部屋を出て行った後、豪華な朝食にも関わらず食べる気がわかない。
紅茶を二口ほど飲んでみた。もうこんなに上品な紅茶も異世界に来てからなかったと、改めて自分の立ち位置を思い出し、これ以上紅茶を飲めなかった。
(戻れるうちに戻ろう)
それに今日も仕事をしないといけない。レオンの顔を一瞬思い出したが、迷わずに部屋を出た。ホテルの入り口はすぐ分かった。朝早いのに一階のホテルのロビーは賑わっていた。
二階から一階へ階段を下りた当りで、数人の女性の声が聞こえた。
「あんなブスより、断然私の方が綺麗じゃない」
「そうよ、まな板だったわ」
「私、今度シーオンさまが来たらアタックしてみるわ」
一瞬、里奈のことを噂しているのではと思って足を止めたが、シーオンと言う名前が聞こえたのでその場を離れた。平民の恰好をした里奈を気にかける人がいなかったから、建物から出るのは簡単だった。
運良くその後もお城行きの馬車に間に合った。ゴタゴタ動く馬車が揺れる度に、下半身に痛みがあった。その痛みのせいで、レオンとのことは現実だったと思い知らされる。
里奈がホテルでレオンを待たなかったのは、たしかに仕事があるからだけれど。それより里奈は、レオンとの思い出を綺麗なままにしておきたかった。
お金をもらったら、昨日の思い出が悲しい思い出になると思った。
それにレオンに会ったら、彼に惹かれていく自分が怖かった。レイーシャさまを忘れるのが嫌だった。
なにより非人とレッテル貼られている里奈は、もう誰とも結婚して幸せな生活がある未来なんてない、と無意識に思いはじめていた。
いつものようにお城の裏庭の馬車待合場で下りた。
「リーナ!」
ハンナお母さんが里奈に抱きついた。
「昨夜帰って来ないから心配したのよ!」
抱きしめるハンナお母さんから涙の音が聞こえる。
「ごめんなさい……」
アバズレお母さんは里奈が家にいないと喜んだ。とくにエロ漫画のアシスタントしている時は、ほとんど泊まりがけが多かった。
だからハンナお母さんが里奈の帰りを待って心配しているなど考えもしなかった。
「ごめんなさい」
里奈にはただ謝ることしかできない。
「いいのよ。無事に帰って来てくれて、それだけでいいのよ」
ハンナお母さんが里奈のストレートの髪の毛をやさしい手つきで撫でてくれた。
ハンナお母さんは里奈が人買いに攫われたのだろうか、と心配していた。平凡な里奈を攫う物好きなんていないのに、と言ったら怒られた。
「リーナは可愛いから気をつけないさい」
と念を押された。里奈のようなのっぺりの顔立ちをしている人がいないから、珍しいのかな。パンダが珍しいから可愛いと言う心理と一緒なんだろう。
◇
レイーシャさまがお城に戻ってから、一週間経った。でも一度も会っていない。
一日一日と日が経つにつれて、レイーシャさまの顔を思い出せなくなっている。その代わり、レオンのことを思い出すことが多くなった。
このごろレイーシャさまとはなにもなかったんだ、と思えるようになっていた。
コーディーさまは飽きもせずに毎日里奈のところに来る。忙しさと疲れを理由に、彼の誘いを全部断っている。なのに、彼はいつも花を持って来る。
里奈はもうレイーシャさまに忘れられたから、監視は必要ないのに。
初体験をした日から数日経ったのに、体が怠くてベットでゴロゴロしていたい。
「リーナ、まだ体調が悪いの?」
「……うん」
「……そうなんだ。あまり無理したらダメよ。残りの洗濯物は私がするから、リーナはベットで休んでて」
リーナが泣きそうな顔をしているのに、元気よく笑顔で言った。
「うん。ありがとう」
「リーナは小さいのに頑張りすぎなのよ。リーナは私の大切な妹だから、ずーと、ずーとお姉ちゃんが面倒見てあげる!」
「もう私の方がずーっと年上なのに。ミイシャが私の妹よ」
ミイシャは里奈とハンナお母さんのことを家族と何度も、何度も、まるで自分に言い聞かせるように言うようになった。ミイシャの本当の家族は、彼女がお城勤めをはじめてから一度も会いに来ていない。手紙もない。非人の他の仲間もみんな似たような感じだった。
どうしてこの国の人たちは、非人をこんなに嫌うのだろう。マジむかつく。
「もー、私の方がしっかりしていて大きいから、私がお姉ちゃんよ。
ねえ、それより面白い話を聞いたの」
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