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◆ よろずやシリル開店

12 蠢く者たち

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 サンクトプリエンツェ郊外
 なだらかな丘陵地帯広がる田畑は地平線まで広がっており、二つの月と空にびっしりと敷き詰められた星明かりの下であるならば、昼間とはまた違う雄大な光景が垣間見れる。

 だが、その田畑の中にポツポツと点在する小さな農機具小屋の影に、何故か数人の人影が確認出来る。農作業など日没前に終わり、農民たちが日の出を待って夢の世界で寝息を立てている時間にだ。
 つまりは、そこにいる者たちは農民でも何でも無く、更にサンクトプリエンツェの街中では、姿を見られたくない者たちであると言う事が想像出来た。

 人影の人数は六人。街人や農夫など雑多な服装からまるで統一感は無いのだが、その様々な階層で人生を歩んでいるであろう者たちは、一人の若い宗教家らしき男性を囲み、片ひざをついて頭を垂れていた。どうやらその若い宗教家に心酔する、宗教の信徒の様に見える。

「今宵をもってみなさんは人である事を終えて、大いなる父の御子となって、彼の地の威光を地に示す戦士となります」

 細身で長身の宗教家は、ひざまづく者たちに優しい笑みを投げかけながらも、その丸眼鏡の奥に鎮座する瞳だけは鋭く険しい。

「みなさんにこれを渡します。これは大いなる父の血、父の肉です」

 そう言うと彼は司祭服の様な上等な衣類のポケットから小さな丸い粒を五つ取り出し、周りの者に配り始めた。

「これを飲み込み、然るべき時が来た際に祈りを捧げなさい。あなた方は使徒となって大いなる父の代わりに、最後の審判を行うのです」

 おお……と、ため息を漏らしながら、信徒たちは渡された丸い粒を躊躇なく飲み込み、再び若者に頭を垂れる。彼らはひどく満足げな笑みを浮かべていた。

「先ずは王立フェレイオ学園の生徒たちを狙います、彼らは後々大いなる父に仇成す脅威となりますからね」

 宗教家はそのゆっくりとした落ち着いた口調で、他人が耳にしたら腰を抜かす様な怖るべき計画を、信徒たちに説明する。

 ーーもちろん、我らの望むところは学園の崩壊だけに留まりません。彼らは所詮金の卵であり、将来を見越して若い芽を摘むだけの話。重要なのは学園の危機を聞き付けて現れるであろう八人の戦士。学園の卒業生にして【英雄連盟(マスターズ・リーグ)】の現メンバーである八人の殺害。
……そうです。あの「狂乱のソードマスター」ローデリッヒ・レオパルドや、「ノスフェラトゥ」マクス・オルロックに我々が裁きの鉄槌を下すのです。
 学園の子供らは英雄連盟を呼び寄せるエサに過ぎませんが、だからと言って遠慮は無用。彼らは彼らで裁かれる必要があるのだから。

「……混沌の世に父の裁きを」
「ラッパは吹かれた、最後の審判来たり」

 説明が終わると共に、誰が言い出した訳ではないのだが、信徒たちは決意の言葉を口にする。その表情は恍惚にして残忍、血の嵐吹く予感に喜びを噛み締めていた。

「さあ、お行きなさい。そして父の祝福を受けるまで殺し続けるのです」

 この言葉を最後に、謎の集会は終わりを告げた。

 【使徒事件】がいよいよ始まったのである。


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