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「んっ、あっ……あ、ああっ!」

 腰の速さをどんどん上げていくにつれ、さすがの怜二も啼く以外の声は出なくなっていく。俺だってそうだ。
 激しい吐息とベッドの軋む音、肉と肉がぶつかりあう音。そして二人の間をつなぐエロい液体の音だけが部屋にいっぱいになってゆく。
 すごく気持ちいい。今にも意識が飛びそうだ。
 怜二の表情を見ると、怜二も気持ちよさそうに見えた。
 開いた口から赤い舌をちょっと突き出して、とろんとした顔でアンアンいいまくり、よがりまくってる。
 その表情に背中を押されるみたいにして、俺はどんどん怜二のイイところと突きまくった。

「あっ……ああっ、あはんっ! やあっ、ゆう、た……!」
「んっ、れいじっ……俺っ」

 イく、と言うのも間に合わなかった。俺は次の瞬間、いきなり怜二の中に自分の欲の全てをぶちまけていた。
 我慢して我慢して必死になって自分の中にとどめておいた熱の奔流が、一気に怜二に注ぎ込まれていく。びくん、どくんと俺のモノが怜二の中で何度か震えて止まった。
 俺はそのまま怜二の上に体を投げ出した。ふたりでしばらく荒い呼吸を整える。

「あ。中、出しちまったけど──」
「ああ、いいんだよ。それで正解」
「そか」
「うん。とっても美味しかった……」

 とろんとした色気全開で恍惚の表情を浮かべて、ほう、と怜二が息をついた。
 笑った形のままの自分の唇をぺろんと舐め、まだぴくぴくと全身を震わせている。ものすごく満足げだ。
 いや、しかし。

「あの。『美味しかった』って……」
「さすがは『稀な血』の持ち主だ。素晴らしいレアリティ! 本当にご馳走さま」
「いやお食事か。これはお前のお食事かい!」
「なに言ってるの。今回は君が僕を『喰った』んでしょう?」
「そ……そりゃそうなんだけどさー」

 いや、わかってるけどさ。
 実際、怜二の言ったとおり、俺の血や生気を吸うのはもっと快感なんだろう。けど、怜二はこれでも十分満足してくれているってことなんだ。それはありがたいと思わなくっちゃな。
 少し息が整ってきたところで、俺はそうっと怜二の顔を覗きこんだ。

「な。どうだった?」
「言ったでしょ。とっても美味しくって素晴らしかったよ」
「いや、そーじゃなくて……」

 なんか感想がズレてんだよなあ。精液そのものの味なんて訊いてねえっつの。
 ま、ヴァンピールとしてはこれが、十分正直な感想なんだろうけどさ。

「セックスの技術としては、そりゃまだ成長する余地はあると言えるさ。当たり前でしょ? はじめてなんだし」
「ん……そっか」
「でも、初めてにしては上手かったと思うよ? 上出来さ。いいじゃない。成長の余地があるってことは、未来にまだまだ楽しむ余地があるっていうこと。今後がとっても楽しみだね。僕も嬉しい」

 言ってちゅっと鼻先にキスをされた。
 なんだかくすぐったいような嬉しいような、変な気分になる。
 それを隠してみたい気分になって、俺は怜二に唇を尖らせて見せた。

「ちぇっ。なーんか子ども扱いな」
「しょうがないでしょ。実際、僕は君よりはるかに年上なんだし」
「そりゃそうだけどさー」

 俺はまだ怜二の上にのっかったまま、両足をばたつかせた。
 ああ、俺、もっとうまくなりたい。そんで怜二のこと、もっともっと気持ちよくしてヒンヒン啼かせて、「もう許してー」とか言わせてみたい。
 怜二は本当に子どもにするみたいに俺の頭を撫で、背中をさすって優しいキスをいっぱいしてくれた。

「ね。それより勇太、今夜はもうちょっと頑張れそう?」
「え」

 驚いて見ると、怜二は至近距離からにっこりと意味深な笑みを向けている。
 いったん収まっていた瞳の奥の赤い炎がふたたびちろちろと燃えはじめているのがはっきりわかった。

「疲れているなら、今度は僕が上になってあげるよ。あ、もちろん挿れるのは君でいいからね。僕が動くから、君は寝てるだけでいいし」
「え、ええっと」
 
 こいつ。やっぱ上に乗りたいのか!
 じろっと睨んだら、怜二は少し首をかしげて、さも物欲しげに自分の唇にひとさし指をあてて見せた。

「僕、もうちょっと『おかわり』が欲しいなあ……」
「『おかわり』かーい!」





 その後のことは、まあご想像にお任せする。
 俺は何度か怜二を抱いた。
 でも最後の何回かは、結局怜二は俺の上で、自分で巧みに腰を振った。

 俺、吸い尽くされた。
 ほんと文字通り吸い尽くされた!
 いや、最後は「ちょっとだけいい?」なんて訊かれて血も吸われちゃったけど。
 いや本当に、ほんのちょっぴりだけだけどな。でなきゃ俺、確実にいま生きてねえわ。

 翌朝、完全に動けなくなってベッドに沈没している俺を、怜二は甲斐がいしく一から十まで世話してくれた。どうやら邸のメイドさんやフットマンさんには指一本触れさせる気はないらしかった。「なにかお手伝いを」とやってきたみなさんは、ことごとく追い返された。
 その間、「可愛いよ勇太」って、何回聞いたかわかんねえ。
 それから、何回キスしたかも。

(でも幸せ)

 ……と思ってたら、あっさり巨大爆弾を落とされた。

「ね、勇太。今度は攻守交替してもらってもいい?」
「……は?」
「だって、慣れればこっち側、とっても気持ちいいんだよ? 人間でも、そっちの快感を知っちゃうと戻れない人が多いらしいし。好きな人が相手なら、それはもう最高の悦楽なんだそうだから。どう?」
「い、いやいや……」
「絶対に君を傷つけたりしない。むしろ天国を見せてあげる。次は僕のでヒイヒイ言わせてあげるから」
「いやいやいやいや!」
「もうトロトロにとろけちゃって、『もっとお、怜二い』って泣く君の可愛い顔も、ぜひ見てみたいんだけどなあ、僕」
「こっ……ここ怖いこと言うなああああ!」

 俺の裏返った絶叫が、またしても怜二のやしきをびりびりと震わせた。

 
                     了


2021.6.3.Thurs.~2021.6.8.Tue.
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