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 今年もまた、十月末がやってくる。
 朝晩はだいぶ寒い日が多くなってきて、俺は佐竹とベッドで使う羽根布団をもう少し厚いものにかえた。

 そう。
 俺と佐竹は、今は一緒に暮らしている。
 高校三年のときにうちでささやかなハロウィーン・パーティーをしたんだけど、あれはもう二年も前だ。
 俺と佐竹は今、二十歳。それぞれ別の大学の二年生になっている。
 佐竹は法学部。俺は教育学部生だ。

 ついに父さんからの許しも出て、一緒に暮らすようになってから二か月ちょっと。要するに、男女だったらちょうど「新婚さん」みたいなもんかな? 
 付き合ってた年数がけっこう長いし、当時からしょっちゅう来ていた佐竹の家に俺が住まわせてもらってるだけだから、新鮮味はあんまりないけど。っていうか、実際は俺が留守番担当をしてるだけみたいなもんだし。

 実は佐竹はこの九月からアメリカ留学をしていて、ほとんど日本に帰ってきてない。
 今日は珍しく休みが取れて戻ってくる日。
 一応、ハロウィン・ホリデーってことらしい。
 そんなこんなであんまり「一緒に住んでる」感はないけど、それでも新婚は新婚だ。日本ではまだ法律上きちんと認められる身分でないのは百も承知だけど、そう思うぐらいは自由だもんね。

 いつもならこの時間は実家──この単語を使うと、実はかなりむず痒い気分になっちゃうんだけど──のほうに戻って、夕食を作ったり洋介の学校のプリントをチェックしたりしてる。だけど今日は洋介が「来なくていいよ」って言ってくれた。
 やっぱり特別な日だし、洋介自身も今年はハロウィーンのパーティーで、友達の家に呼ばれてるらしい。
「女の子ん?」ってちょっと聞いたら「違うよ。なに言ってんの、兄さんたら」って赤くなって睨まれた。

 あの小さかった洋介も、もう小学五年生。
 昔はよく泣いてた小さな弟も、今では心も身体も随分しっかりして、すっかりお兄ちゃんの顔になってきている。佐竹に剣道を教わるようになってから、急に芯がしっかりしてきて、生活態度もきちんと整って。
 今じゃ小学生にしては驚くぐらい「イケメンの匂い」をさせている。控えめな性格だから余計なことは言わないけど、優しくて面倒見がよくって。朝の登校班の様子をこっそり見てたら、やんちゃな低学年の男子でも洋介の言うことだけはちゃんと聞いてるし。班長の六年生の女の子から、かなり頼りにされてるし。
 これ、絶対佐竹の影響だと思うんだよな。
 本人は絶対に認めないけど、あれはまちがいなく女の子にもててると思う。今年はそうでもなかったみたいだけど、来年のバレンタインデーにはいっぱいチョコがもらえるんじゃないだろうか。

(……なんか、ちょっと羨ましいかも)

 俺が小五のころなんて、もっとずっとガキっぽかったと思うんだよな。やっぱり小さいうちにつらい経験をしてるだけ、成長が早くなっちゃってるのかもしれない。そりゃそうだよな。俺は頼りないだろうし、この状況で無理しないはずがないもん。
 そう考えると、やっぱりどうしても胸が痛む。

 と、炊飯器がピーピー鳴って、俺を現実に引き戻した。
 俺は夕食の準備中。かぼちゃ入りのケーキやクッキーなんかはバイトがなかった昨日のうちに作っておいたから、今日は食事の用意だけだ。ケーキとクッキーは小分けして、「実家」にもすでに届けてある。あまり甘いものが好きじゃない佐竹のために、どっちもちょっと甘さは控えめ。
 佐竹の久しぶりの帰国だから、今夜は和食だ。ケーキのある日に変かなとは思ったけど、日本に帰ってきたとたんにクリームシチューやカレーじゃ可哀想かなって。
 外が寒くなってきてるだろうから、鍋にした。ひとりじゃあんまりやらない鍋。佐竹とふたりでなら囲みやすいし、体も温まるだろうし。

 そうこうするうち、玄関の扉が開く音がした。
 俺は野菜を刻んでた手を止めて、手を拭きながら玄関へ出た。
 グレーのロングコートを着た長身の男が、こちらを見てわずかに口角を引き上げた。

「ただいま」
「おかえり、佐竹!」

 靴を揃えて入って来た佐竹にぴょんととびつく。そのまま抱きしめ合って、軽く口づけを交わした。

「……ん」

 出かけるときと帰って来たときにする、俺たちの大切な日課……のはずだったけど、今回はほとんど二か月ぶりかな。
 久しぶりの佐竹の匂い。いやでも気分があがっちゃう。
 今夜は俺、こいつに色々「いたずら」するつもりだし。
 ほんの一時的な帰国だから、佐竹の荷物は普段とほとんど変わりない。ショルダーバッグを受け取って、一緒に廊下を歩く。

「結構早かったな。飛行機、予定通り?」
「ああ。乗客はやや多めだったが」
「ああ……やっぱり、ハロウィンだから?」
「恐らくな。お前は、今日はバイトは?」
「さすがに休みになっちゃって。『受験生にも息抜きは必要』だってさ」
「なるほど」

 俺もそうだけど、佐竹の日本でのバイトも家庭教師だった。こいつの場合、超有名難関校の名は伊達じゃなく、あっちこっちから引く手あまたの状態だったけど。「なんとか受験まで面倒を見てほしい」って要望が多かったらしいけど、それを振り切って今回の留学を決めた形だ。
 佐竹に言わせれば「正直、受験生の面倒はお前ひとりで十分懲りた」だそうだけどね。ふん!

 今ではあっちで剣道の指南や日本式の食事の作法なんかを教えているらしい。めちゃくちゃこいつらしいよなあ。
 佐竹はそのまま洗面所を使い、部屋に戻って部屋着に着替えてきた。
 俺はその間に夕食のセッティング。入浴は大抵、佐竹が夜の鍛錬をした後にする。

「では、いただきます」

 いつものようにテーブルに向かい合わせに座ったところで、佐竹が胸の前で手を合わせる。俺も一緒に手を合わせた。
 久しぶりの、しあわせな食事の時間が始まった。

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