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第九章 そして、日常へ
6 黒い爪 ※
しおりを挟む「あうんっ……れいじ、ダメ……もうっ」
俺はもう、半分朦朧とした意識のままそんなことを言い続けている。そのほかは全部、なにか別の生き物が鳴いてんじゃねえかっていうような啼き声と喘ぎ声だけ。
怜二は最初に前から、そして後ろから俺を抱き、一度ずつ俺をイかせた。それからこんどは背後から膝裏を抱え上げた。子どもに小便でもさせるみたいな感じだ。
一度抜かれていた怜二のものが、また下から俺を貫いてくる。
「ふあっ……あ」
互いの体液とジェルでどろどろになった俺の秘奥は、もう簡単に怜二のものを飲み込んだみたいだった。
太くて大きくて硬いのが、俺の内側を圧迫する。
俺は思い切り股を広げられた状態で、どんどん怜二を飲み込んでいく。
「あは……ん、れいじいっ……」
「うん。いい子だ。……ほうら、奥まで入ったでしょ」
「あうっ……ん」
その場所を内側からめちゃくちゃに突かれるだけで、ほとんど意識が飛びそうになる。怜二はその場所を正確に把握していて、わざと逸らせてみたかと思うと、急にそこを激しく攻めた。
俺の身体が子どもみたいに激しく上下に揺さぶられる。
そのたびに、灼熱の塊が俺の腹の中で暴れまわった。
「あっ、あっ……あ、あ! やあんっ! やだ、れいじいっ……」
ひと声叫んだ瞬間、またぷしゅっと俺の先端から欲望が飛び出していく。
一緒に脳まで持っていかれる。
目の前がチカチカして、真っ白になる。
「……かはっ」
息があがる。
でも、俺は意識が飛ぶ寸前にまた言ったかもしれなかった。
──『咬んで、怜二』と。
どこの瞬間だったかは定かじゃなかった。
でも、俺はどこかの瞬間で確かに感じた。
首のやや裏側に、ぴりっと覚えのある甘い痛みの感触を。
◆
「ばかやろばかやろばかやろ!」
「いたいいたいいたい」
翌朝。
とはいっても、もうとっくに太陽は高く昇った昼近く。俺はベッドの中でぽかぽか怜二を殴りつけていた。
まあ、もちろん軽くだけどさ。その証拠に、怜二はちっとも痛そうじゃない。蚊に刺されたほども感じてなさそうな余裕の顔だ。むしろ殴れば殴るほど、にこにこの笑顔の上にさらに笑顔が加算されていく。
濃密な情事から明けた朝は、めちゃくちゃ体がだるかった。腰も重いし、足の付け根の関節がめちゃくちゃ痛い。起き上がろうとして、自分の身体のあまりの動かなさに愕然とした。
俺も怜二も一糸まとわぬ姿だ。昨夜はめちゃくちゃに汚れていたはずの身体も寝具も、知らないうちにすっかりきれいにされている。
「あんな、何回も何回もヤりやがって! ダメって言ったのに。もうできねえって言ったのにい!」
「うん。『許してえ』もいっぱい聞かせてくれたね。『もうなにも出ないよう』も。でもほら、下のお口がそうは言ってなかったからさ」
「ぎゃあああ!」
何も着ていない状態の尻をさらっと撫でられて、俺の身体は飛び上がった。
「お、お下劣なこと言うなあああ!」
平手ですぺーんと怜二の頭頂部をはたく。
ほんっとこいつ、エロヴァンピールな。
怜二は針の先ほども痛そうな顔もせず、ひたすらにこにこ笑っている。そのまま、ぎゅっと体を抱き込まれた。
「素晴らしい夜だったよ。気持ちよさそうに何回もイッていたよね。中年になっても老年になってもそれなりの愉しみ方はあるけれど、若いうちはやっぱりこうでなくっちゃね」
こいつ。得意げに何を言ってんだ。
「覚えてる? 君が何回達したか」
「しっ……知らねえ」
これはほんとだ。
途中からもう、わけがわかんなくて。
なんかもう、ただひたすらひいひい啼いて、たまに怜二に「お願い」とか「だめえ」とか言う以外はなにもできなくて。
くっそう。なんか色々、大事なもんを失ったような気がするぞ。
主に、なんかこう……男のプライド的ななにかを。
怜二は蕩けそうな瞳のまま、俺の額や頬にキスを落とし、指で優しく俺の髪を梳いている。
「疲れたよね。ごめんね。さすがの僕も、ちょっと自制が効かなくなっちゃって」
「え──」
そうなの? 怜二が? あの怜二が?
そう思って見返したら、怜二はくすっと苦笑した。
「お腹がすいただろう。すぐに食事を運ばせるからね」
「むう……」
そう言われた途端、まるで会話を聞いていたかのようなタイミングで俺の腹が盛大な音をたてた。
呼ばれてやってきたフットマンさんに慣れた様子で朝食を運ぶように命じると、怜二はまた俺の身体を抱き込んだ。
俺はもちろん、人が入ってくる前に上掛けでぐるぐる巻きになっている。
だってそうだろ! ちょっと見ただけでも俺の身体、あっちにもこっちにも怜二がつけた痕だらけなんだもんよ!
「おン前……容赦ねえな。なんだよこの痕! 外歩けねえじゃんか!」
「いいんだよ。誰にも見せやしないんだから」
「はあ?」
「大事な大事な君の肌を、他の誰に見せるものか。それでも見ようなどという不届きな輩はすべからく抹殺する。この手で両目を抉りだして差し上げてもいいね」
「こっ、怖いこと言うなあ!」
ぐいと持ち上げた片手の手首から先だけが、すうっとヴァンピールとしてのものに変貌する。ふたまわりぐらい大きくなってごつごつして、黒くて長い爪がにょっきりと伸びていく。
俺は思わずその手を握った。
「や、やめろって、物騒なことは! ……それよりさ、怜二」
はやく話題を変えなくては。はやく!
「うん?」
怜二が目を細めて俺を見る。その途端、しゅうっと片手はもとに戻った。
「さっき言ったよな。中年になっても……とか」
「ああ。……うん」
「この間もさ、なんかそんなこと言ってただろ。『君と一緒に年をとっていきたい』とか、なんとか」
「……うん。そうだね」
俺は一度、ふうっと息を吐きだした。
「あれ、どういう意味」
怜二の微笑んだ瞳が、俺を優しく見つめたままふっと陰を帯びた。
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