血と渇望のルフラン

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
94 / 96
第九章 そして、日常へ

6 黒い爪 ※

しおりを挟む

「あうんっ……れいじ、ダメ……もうっ」

 俺はもう、半分朦朧とした意識のままそんなことを言い続けている。そのほかは全部、なにか別の生き物が鳴いてんじゃねえかっていうような啼き声と喘ぎ声だけ。
 怜二は最初に前から、そして後ろから俺を抱き、一度ずつ俺をイかせた。それからこんどは背後から膝裏を抱え上げた。子どもに小便でもさせるみたいな感じだ。
 一度抜かれていた怜二のものが、また下から俺を貫いてくる。

「ふあっ……あ」

 互いの体液とジェルでどろどろになった俺の秘奥は、もう簡単に怜二のものを飲み込んだみたいだった。
 太くて大きくて硬いのが、俺の内側を圧迫する。
 俺は思い切り股を広げられた状態で、どんどん怜二を飲み込んでいく。

「あは……ん、れいじいっ……」
「うん。いい子だ。……ほうら、奥まで入ったでしょ」
「あうっ……ん」

 その場所を内側からめちゃくちゃに突かれるだけで、ほとんど意識が飛びそうになる。怜二はその場所を正確に把握していて、わざと逸らせてみたかと思うと、急にそこを激しく攻めた。
 俺の身体が子どもみたいに激しく上下に揺さぶられる。
 そのたびに、灼熱の塊が俺の腹の中で暴れまわった。

「あっ、あっ……あ、あ! やあんっ! やだ、れいじいっ……」

 ひと声叫んだ瞬間、またぷしゅっと俺の先端から欲望が飛び出していく。
 一緒に脳まで持っていかれる。
 目の前がチカチカして、真っ白になる。

「……かはっ」

 息があがる。
 でも、俺は意識が飛ぶ寸前にまた言ったかもしれなかった。

──『咬んで、怜二』と。

 どこの瞬間だったかは定かじゃなかった。
 でも、俺はどこかの瞬間で確かに感じた。
 首のやや裏側に、ぴりっと覚えのある甘い痛みの感触を。





「ばかやろばかやろばかやろ!」
「いたいいたいいたい」

 翌朝。
 とはいっても、もうとっくに太陽は高く昇った昼近く。俺はベッドの中でぽかぽか怜二を殴りつけていた。
 まあ、もちろん軽くだけどさ。その証拠に、怜二はちっとも痛そうじゃない。蚊に刺されたほども感じてなさそうな余裕の顔だ。むしろ殴れば殴るほど、にこにこの笑顔の上にさらに笑顔が加算されていく。
 濃密な情事から明けた朝は、めちゃくちゃ体がだるかった。腰も重いし、足の付け根の関節がめちゃくちゃ痛い。起き上がろうとして、自分の身体のあまりの動かなさに愕然とした。
 俺も怜二も一糸まとわぬ姿だ。昨夜はめちゃくちゃに汚れていたはずの身体も寝具も、知らないうちにすっかりきれいにされている。

「あんな、何回も何回もヤりやがって! ダメって言ったのに。もうできねえって言ったのにい!」
「うん。『許してえ』もいっぱい聞かせてくれたね。『もうなにも出ないよう』も。でもほら、下のお口がそうは言ってなかったからさ」
「ぎゃあああ!」
 何も着ていない状態の尻をさらっと撫でられて、俺の身体は飛び上がった。
「お、お下劣なこと言うなあああ!」

 平手ですぺーんと怜二の頭頂部をはたく。
 ほんっとこいつ、エロヴァンピールな。
 怜二は針の先ほども痛そうな顔もせず、ひたすらにこにこ笑っている。そのまま、ぎゅっと体を抱き込まれた。

「素晴らしい夜だったよ。気持ちよさそうに何回もイッていたよね。中年になっても老年になってもそれなりの愉しみ方はあるけれど、若いうちはやっぱりこうでなくっちゃね」
 こいつ。得意げに何を言ってんだ。
「覚えてる? 君が何回達したか」
「しっ……知らねえ」

 これはほんとだ。
 途中からもう、わけがわかんなくて。
 なんかもう、ただひたすらひいひい啼いて、たまに怜二に「お願い」とか「だめえ」とか言う以外はなにもできなくて。
 くっそう。なんか色々、大事なもんを失ったような気がするぞ。
 主に、なんかこう……男のプライド的ななにかを。
 怜二は蕩けそうな瞳のまま、俺の額や頬にキスを落とし、指で優しく俺の髪をいている。

「疲れたよね。ごめんね。さすがの僕も、ちょっと自制が効かなくなっちゃって」
「え──」
 そうなの? 怜二が? あの怜二が?
 そう思って見返したら、怜二はくすっと苦笑した。
「お腹がすいただろう。すぐに食事を運ばせるからね」
「むう……」

 そう言われた途端、まるで会話を聞いていたかのようなタイミングで俺の腹が盛大な音をたてた。
 呼ばれてやってきたフットマンさんに慣れた様子で朝食を運ぶように命じると、怜二はまた俺の身体を抱き込んだ。
 俺はもちろん、人が入ってくる前に上掛けでぐるぐる巻きになっている。
 だってそうだろ! ちょっと見ただけでも俺の身体、あっちにもこっちにも怜二がつけた痕だらけなんだもんよ!

「おン前……容赦ねえな。なんだよこの痕! 外歩けねえじゃんか!」
「いいんだよ。誰にも見せやしないんだから」
「はあ?」
「大事な大事な君の肌を、他の誰に見せるものか。それでも見ようなどという不届きな輩はすべからく抹殺する。この手で両目をえぐりだして差し上げてもいいね」
「こっ、怖いこと言うなあ!」

 ぐいと持ち上げた片手の手首から先だけが、すうっとヴァンピールとしてのものに変貌する。ふたまわりぐらい大きくなってごつごつして、黒くて長い爪がにょっきりと伸びていく。
 俺は思わずその手を握った。

「や、やめろって、物騒なことは! ……それよりさ、怜二」
 はやく話題を変えなくては。はやく!
「うん?」
 怜二が目を細めて俺を見る。その途端、しゅうっと片手はもとに戻った。
「さっき言ったよな。中年になっても……とか」
「ああ。……うん」
「この間もさ、なんかそんなこと言ってただろ。『君と一緒に年をとっていきたい』とか、なんとか」
「……うん。そうだね」

 俺は一度、ふうっと息を吐きだした。

「あれ、どういう意味」

 怜二の微笑んだ瞳が、俺を優しく見つめたままふっと陰を帯びた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...