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第七章 陥穽
11 炎の瞳 ※
しおりを挟む俺は一瞬、意識を飛ばしてしまっていたらしい。
はっと気づくと、怜二が俺のものをぺろぺろ舐めてきれいにしてくれていた。さぞや俺ので汚しちまったかと思ったのに、怜二の顔は綺麗なもんだった。
(ん? ってことは──)
まさか、飲んだの?
いや、恐ろしくてそんなこと訊けやしねえけど。
と思ったら、怜二は嬉しそうに微笑んだ。
「うん。とっても美味しかった」
「って。おいいい!?」
なにを涼しい顔して言ってんだよ! そんなもん、いくらなんでも美味くはねえだろ!
でも、怜二はけろっとしたもんだった。ぺろりと自分の唇を舐め、味の余韻を楽しんですらいる顔だ。
(うああ……マジですか)
お前そんなもん、そんなもんをな。
そんな美味しそうな顔して飲むな、バカ!
「さすがは何千年に一度の稀な血の持ち主だよね。ヴァンピールにとってはこの上もないご褒美だよ。君の体液は、どんなものでも、ね」
「やー、めー、ろおおおお!」
俺、もう両手で顔を覆ってジタバタするしかない。それでも足りないので、横にあったでかい枕をひっつかんで完全に顔を覆った。
「さてと。一回は出したから、しばらくは我慢できるよね?」
でも怜二は容赦なかった。
チューブからなにかドロッとしたものを手に取ると、今度は俺の後ろの穴の方へ指を這わせてきたんだ。
俺はびっくりして枕を放り出した。
「え、ええっ? まだすんの!?」
「当たり前でしょ。君の『はじめて』は、今ここで全部もらっておかなくちゃ。……君がそう言ったんじゃない」
「そっ、そそ、そうだ、けどっ──」
そうだ。確かに俺が言った。正確には「言った」のとはちょっと違うけど。
わたわたと視線を彷徨わせていたら、怜二はちょっと悲しそうな目になった。上からゆっくりと覆いかぶさられ、じっと目を覗き込まれる。
「それとも、やっぱりダメ? 最後までは怖くなっちゃった?」
「う……。いや、その……なんてゆーか」
別に、怜二が怖いっていうんじゃない。怖いのはむしろ、自分の方だ。自分の身体がこれ以上変な感覚になって、なんか恥ずかしい声とか出しちゃって、我慢できなくてめちゃくちゃになるのが怖い。
変な声だしちゃって、怜二に嫌われるのはイヤだ。
だってほら、AVとか、すごい声のやつあるじゃんか。ほとんど動物が鳴いてるみたいな喘ぎ声の。あんなの見られたら俺、泣いちまうかも。あ、言っとくけどAVは友達の家で、「兄貴のなんだ」とかいいながら友達に見せられたんだぞ。俺、そんなの持ってねえもん。ほんとだぞ!
顔を隠しながらそんなことを必死で訴えたけど、怜二は笑っただけだった。
「そんなこと。君の産声さえ聞いている僕が、今さらなにか驚くと思う?」
「……え、ええ?」
いや、そーゆーことじゃねえ。
「幼児のころの君も、とっても可愛かったなあ。布団におねしょしちゃったり、保育園ではお漏らししちゃったり。お母さまも先生も、とても大変だったんだよ」
「こっ、こら……!」
なんだそれ。なんだよこの羞恥プレイは!
「あんなこともそんなことも、ぜーんぶ見てきて、いまだに君を一度だって嫌いになんかなれてない。ずっとずっと、君が大好き。……だから安心して。僕の勇太」
「…………」
もう、ぐうの音も出ねえ。
なんだよもう。
そんな、蕩けるみてえな顔して見んなよ。
そういう顔はさ、ほら。
もっとこう、清純派の美少女かなんかに見せるもんだろ、普通。
俺が静かになったのを見計らったように、怜二はそろりともう一度俺の中に指を滑り込ませた。ぬるぬるしたジェルのお陰で、幸い痛みは感じない。
怜二は丁寧にそこを広げて、ゆっくりと指を増やしていく。
ベッドの天蓋に、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が響いている。俺は敢えてそれを聞かないようにした。
足を開いて、何もかもを怜二が見つめているに任せる。
クソ恥ずかしい。……でも、やめたいとは思わない。
「苦しくない? 勇太」
「うっ……んふっ」
つん、と例の場所をつつかれて、声がぐにゃんとカッコ悪く歪む。そこを触られるたびに、変な感覚がどんどん生まれてくる。
一回達してへにゃっとなってた俺自身が、てらてら光りながらまたゆっくりと起き上がっていくのが分かる。その先から、またたらりたらりと辛抱のきかない雫が溢れている。
「ああ……んっ、あふ……うん」
怜二の指があんまり巧みで、俺の腰はまた勝手にゆらゆら揺れている。
「ああ……素敵だ。蠱惑的だね。とても可愛いよ、勇太」
「んや……っ。やだ、くそぅ……うん」
反発しようにも、言葉の最後が甘ったるい鼻声になってちっとも意味をなさない。さっきからもう、はあはあ喘いでいるばかりでろくに言葉を紡げない。
「だいぶ柔らかくなってきたよ。ほら、指がもう三本入ってる。わかる? 勇太」
「んん……っ」
そんなもん、わかるわけない。
「ひあっ!」
突然、ごりっとその場所を引っ掻くようにされて、腰がびくっと跳ねた。
俺のモノはもう、とっくに天蓋を向いて屹立している。
「あは……あ、あ、やだあ……ん、れいじ」
もぞもぞと腰を揺らすと、怜二の笑みが深くなった。
それと一緒に、指の動きも早められる。
「あはっ、あ、あっ……ああっ!」
なんだこれ。
なんなんだ。
腰の奥から、また新しい熱が生まれてくる。
でも多分、出すだけじゃダメなやつ──。
「ねえ……勇太。もう、いいかな……?」
怜二の声も不思議に淫靡な色を帯びて、艶めいている。
「君の中に、入りたい。……だめ……?」
俺はうっすらと目を開けた。
怜二の瞳が今はもう、すっかり人のものではなくなっていた。
ヴァンピールとしての真っ赤なルビーの瞳。
──いや。
ルビーよりも赤い、炎の色に。
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