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第四章 恩寵部隊
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しおりを挟む(ああ。貧しいのだな……ここも)
これまでにも何度か見かけてきた、何となく閑散と立ち枯れたような村の様子を見て、アルファの胸はまたふさいだ。
基本的に、スメラギ出身者のエージェントたちは互いに緊密な連絡を取り合わない。同じ作戦上、上層部から命令されて行動を共にする場合だけは別のようだが、それでも続けて同じ人員が顔を合わせることはほぼないらしい。もちろん、彼らが過度に仲良くなることを避けるためだろう。
それは間違いなくスメラギ側の都合だと思われた。つまり、そうやっておくことで彼らが反スメラギ派として結託するのを防ごうというわけだ。
(要するに、スメラギとて恐れているのだ──)
アルファは思う。
<恩寵>とは、すなわち通常の人間には備わっていない超常能力のことだ。
それを持つ上にエージェントとしての技能や裏の情報まで身につけた者たちがひとたび反体制派として結託してしまったら。力をあわせて「打倒スメラギ皇家」とのスローガンのもとに立ち上がったら。たとえあのスメラギといえども、その政権を揺るがされる事態になるは必至だ。
彼らももとはと言えばスメラギ皇家の血筋につらなる人々。完全な純血ではないために能力のひとつひとつは純血の皇族たちに敵わぬとしても、力を合わせればこの政権にとって恐るべき脅威に違いなかった。
(……さすが、ベータだ)
だから、今回のベータの目の付けどころは正しい。
そこのところはあのザンギやミミスリとて認めないわけには行かなかった。
スメラギがひそかに恐れていること。
そこにこそ、自分たちの勝機はあるのだ。
「ん? なんだ」
「あ。……いや。なんでもない……」
アルファは慌てて目をそらした。あれこれ考えているうちに、いつのまにやら歩きながらじっとベータの横顔を見つめていたらしい。
ベータがにやりと意地の悪そうな笑顔になった。
「キスぐらいなら、いつでもしてやるから遠慮なく言え。そのぐらいなら無料で構わんしな」
「……っ!」
途端、ものすごい勢いで耳のあたりに血がのぼってきたのをはっきり感じた。
「だっ、だれがそんなことを言っ……!」
「そうなのか? 人の口元を物欲しそうにずーっと見ていたようだったが?」
「そっ、そんなところは見ていない……!」
「そうかあ?」
「だ、断じて、断じて見ていないぞっ……!」
ぎゃんぎゃん噛みつくアルファを「はいはい」とばかりに適当に往なし、ベータはにやにや笑いを消さないままのんびりと顎など撫でている。それも変装の一環なのか、今そこはうっすらと無精髭に覆われていた。それがまた妙に男くさく、色っぽく見えてかなわない。
「ま、俺は別に、その普通顔のお前でも全然問題ないからな。遠慮せずに迫ってくれて構わんぞ。夜這いももちろん、大歓迎だ」
「だ、だからっ……!」
この男、いきなり道端で何を言い出すのか。
そこいらで誰かが聞いていたらどうするんだ。
が、さらに文句を言いかけようとしたその時、男はひょいと前方を指さした。
「そら、あれだぞ」
「え」
指さす方に目をやれば、そこにとても鄙びた様子の、ちいさな小屋が立っていた。
「ということで、さっさとお得意の『かくれんぼ』を発動していただけませんかね、皇子サマ」
「…………」
ふざけた調子でそう言われ、アルファは思わず半眼になった。とは言え、ここであれこれ言っていても始まらない。気を取り直して心を落ち着け、アルファは自分とベータの姿を隠すべく、「かくれんぼ」ならぬ<隠遁>を発動させた。
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