星のオーファン

るなかふぇ

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第二章 契約

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、俺を買え」

(……!)

 アルファは瞠目した。
 そして、我が耳を疑った。

 アルファの顎を掴んでいたベータの手が、今度は嘘のように優しく、さらりと頬を撫でてきた。
「本物の『スメラギの皇子』にどれほどの価値があると思ってるんだ。あんなことがあったって、これだけ若くて美しい純血ヒューマノイドの皇子サマだぞ。どこの闇市場にもっていっても、まだ十分値千金あたいせんきんで売れるだろうさ」
「や、……いや、だ」
 アルファは思わず、本能的に首を横に振っていた。

 そんなのは、イヤだ。
 また再び、あの蜥蜴の男に飼われたようにしてだれかのモノになり下がるなど。
 と、思った途端にベータがにやりと笑って首を振った。
「誤解するな」
「……え」
「また、あんな犬になれと言ってるんじゃない。俺はお前に『俺のものになれ』と言ってるのさ。……おわかりか?」
「…………」
 アルファは少しばかり考えて、やっぱりふるふると首を横に振った。

 イヤだ。
 そんなのはやっぱり、イヤだ。
 お前とそんな理由で体を重ねるなんて。

 泣き出しそうになったアルファの目を覗き込むようにして、黒い瞳がひたと見つめてくる。そのまま今度は、先ほどよりはずっと柔らかく唇を重ねられた。
 それがひどく優しいもののように思えて、アルファはたまらず、甘えるようにして彼の唇に吸いついた。差し入れられてくる舌を吸い上げて愛撫する。そんなことを繰り返すうち、また意識が陶然としてきた。
 いつのまにか、戒められていたはずの両手が自由になっている。アルファはそれでベータの体を思いきり抱きしめ返した。

「んっ……ん」

 気持ちがいい。
 なんだろう。
 これはどうやら、脅迫されているのではないらしい。

 まさかとは思うけれど、自分はこの男に、単に口説かれているのだろうか……?
 いや、それにしてはわかりづらすぎる気もするが。

「……ま、理由なんてなんでもいいさ」
 キスの合間に、また囁かれる。
「別に俺は、あの蜥蜴野郎みたいな変態じゃない。お前を奴隷や犬扱いなんかもしない。もちろん、端から体を切り刻んだりもな。普通にがって、イイ声を聞かせてくれればそれでいい。まあしかし、できるだけ色っぽい方向でお願いしたいが」
「ん、……んん」
「それで──」
 と言って、男はするっと服の上から、片手をアルファの尻の間に差し込んだ。
「ふあ……!」
 びくっとアルファの体が跳ねる。
でせいぜい、俺を楽しませてくれればいいんだ。……簡単だろう? 皇子さま」
「…………」

 アルファはもう、たぶん耳まで真っ赤になっていた。
 体の中心にはもうすっかり熱が集まって、スラックスの前を持ち上げてしまっている。両足には力が入らず、恥ずかしいほどがくがくしていて、ベータと背後の木の幹に支えられてどうにか立っているような有様ありさまだ。
「まんざらでもなさそうじゃないか。ん?」
 ベータがにやりと口角をあげたようだった。
「あとはまあ……が続いている間は、ほかの奴とこういうことはしないこと──ぐらいかな。約束できるか」
「ん、……あ」

 言いながら、器用なその手がするするっとアルファのネクタイをほどき、シャツのボタンをはずしかかっている。
 アルファは涙のにじんでしまった目で彼を見上げた。

「いいのか……? ベータ。こんな──」
 「こんな体で」と言いかけたところを、また唇で塞がれる。
「よくなかったら、お前を対価には求めんさ。……そうだろう?」
 軽く音をたてて唇から頬、顎から首筋へとキスの場所をずらしていきながら囁かれる。
「んっ……!」
 シャツの上からこりこりと胸の飾りを弄ばれて、またアルファの腰が跳ねた。

 たまらない。
 早く。
 ……早く、抱いてほしい。

(だけど……いいのか)

 耳の奥ではがんがんと激しく警鐘が鳴らされているような気がした。
 本当にいいのか。
 こんな風に、流されるようにして抱かれてしまって。
 もちろん、彼に抱かれるのは嬉しい。できるなら、すぐにでもそうして欲しい。
 それに、彼の言う通りなのだ。その情報そのほかの素晴らしい能力を引っ提げてこちらに力を貸してもらえるなら千人力。ミミスリやザンギがいてくれるだけでも大いに心強いのだけれど、そこにベータが噛んでくれたら。
 まさに、鬼に金棒だ。
 確かに願ってもない申し出だった。

(だけど……だけど)

 アルファはぎゅっと唇をかみしめた。

 やっぱり彼は、自分など愛してはくれないのだ。
 彼が心の底から憎んでいる、あのスメラギ家の皇子など。
 だって、これがその証拠じゃないか。
 こうやって求めるのも、単純にこの体だけ。どんなに望んでも願っても、彼の心は自分のものにはならない。それと同時に、彼はこちらの気持ちも心も、別にどこにあろうと構わないのだ。事実こうして、アルファの口からはなんの言葉も欲しがりはしないのだから。

 ……そんなこと、ずうっと前から知っていたけれど。

「……どうした」

 自分を抱きしめたまま、ベータの声が急に戸惑ったものになった。
 アルファは首を横に振って、そのまま彼の首もとに抱きついた。

「いいんだ。……抱いて」
 
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