星のオーファン

るなかふぇ

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第八章 漂流

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 それはもはや、ただの拷問でしかなかった。
 男は淫魔であると同時に、ひどい嗜虐の徒だったからだ。

 男はアルファの拒絶の言葉になどお構いなしに、まずは何度かアルファを犯した。もちろんこちらも無抵抗だったわけではない。一応は軍属の人間として鍛えてきた、しかも立派に成人した男である。
 拳でしたたかに相手の顔や体を殴りつけ、足でも蹴り上げて、その体に噛みつこうとさえしたのだったが。
 
 ……なぜか、それはできなかった。
 相手の男に抵抗するため何かしようとするたびに、凄まじい頭痛がアルファを襲った。そればかりではない。行為をやめさせるべく「私の名前は」と自分の出自を告げようとする場合にも、その頭痛は容赦なく襲ってきた。
 それは何か、脳をぐちゃぐちゃにかき回して電流を流されるような苛烈きわまる痛みだった。それが始まるともう声も出せず、何も考えられなくなる。ただ頭を抱えてその場で悶え苦しむことしかできない。
 アルファがその痛みに耐えかねて転げまわっているうちに、男はあっさりとアルファの足を広げ、太い腰をその間にねじこんで好き勝手にそこを犯した。
 十分な準備もなにもない、ただ蹂躙されるだけの行為。
 アルファのそこはあっさりと裂け、流血した。
 男のそれはその体躯にふさわしい、凶暴なほどの大きさと硬さとをもっていたから。

「いや……、いやだ。いやだあああッ……!」

 アルファは必死で逃げ回り、泣き叫んだ。だが、不思議なほどにしびれたような自分の体は思うようには動かなかった。抵抗しようとすれば襲ってくる恐ろしい頭痛のために、ろくに逃げることも叶わなかった。
 やがて、地獄のようなその時間が終わり、アルファは疲れ果てて汚れきった体をベッドに放り出された。
 涙と男の体液に汚れ、放心したような顔になったアルファの耳に、男は満足げな声で囁いた。

「ふむ。例のナノマシンの威力は、相変わらずなかなかのものよな」と。

 要するに、この男に拾われて人事不省に陥っていた間に、アルファの体には小さな機器が仕込まれてしまっていたのだ。つまりこの男、ゴブサムに少しでも反抗的なことをしようと考えた瞬間に、脳に激しい苦痛を与えるためのナノマシンが。
 それは、せっかくの<恩寵>を使おうとする場合でも同じだった。男の目から姿を見えなくすることも、体を縛られたりなどした場合にそれを<念動>によって取り除くことも不可能だった。
 が、非常に皮肉かつ不幸なことには、<感応>のみは使うことができた。それでアルファは、ここまでの自分の顛末について男の思念から読み取ることができたのだ。

 男はこの宇宙でも指折りの大富豪だった。そして、異常なほどにこうした行為を好んでいた。これまでにも同様にして、何度もお気に入りの「玩具おもちゃ」を手に入れては、飽きるまでこうした行為の相手をさせてきたらしい。
 今回、ユーフェイマスとザルヴォーグとの大海戦が行われることを知り、ゴブサムは戦闘が終結したところを見計らって「救命艇」の一団を派遣し、戦場跡をうろつかせた。そうしてその宙域で彼らが普段通り「人命救助」に当たっていたところ、たまたまその船のひとつにアルファが救助されたということらしい。
 とは言え、彼らの目的はなによりも金だった。救助した人員を双方の陣営へ送り届け、十分に恩を売りつけたうえで報酬をもらうことが活動の第一義である。しかし今回、ゴブサムはとある筋から貴重な情報を得ていたのだ。

 すなわち、ユーフェイマスの後方支援部隊として、あのスメラギの皇子が参戦しているということを。
 完全体の人間型ヒューマノイドであり、なおかつ非常に見目の美しいという噂も高い青年将校が、今回の海戦に参加している。補給医務艦の艦長という話だったが、何か「いい話」は聞けないものかと、ゴブサムは事前からあちらこちらに情報のアンテナを張っていたのだった。
 すると、聞こえてきたのである。ごくごく秘密の情報であり、情報源は明かせないとの条件つきで、ゴブサムにとっては非常に耳寄りな話が。

 スメラギ皇国の何某なにがしかが、ひそかにその皇子を亡き者にしようとしている。やつらは彼の側近を使い、うまく皇子を陥れて彼を殺そうと図っていた。戦時に何が起こるかなど、いつの時代も未知数だ。その混乱に乗じて皇子をうまく殺してしまえれば、黒幕としてもそれ以上のことはないのであろう。よくある話だとゴブサムは思った。

 だが、うまい手はないか。
 そのように美しい、しかも血統正しきヒューマノイドの皇子殿下だ。
 姿を拝むことは勿論、少しぐらいなどもしてみたいではないか。

 殺したい奴のためには、死んだことにしておいてやればいい。
 うまくそいつを手中にして、そのままわが物にすればいいのだ。
 さんざんにいたぶって味わい尽くし、やがては闇のルートに売ればいい。
 完全体の美しいヒューマノイドだ、体のほうはいくらでも「修復」が効くのだし、たとえ、相当にいい値がつくはずだった。


(そういう、ことか──)

 にやつきながら繰り出されてくるそんな蜥蜴の男の思惑をあますところなく聞き取って、やがてアルファは絶望した。
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