星のオーファン

るなかふぇ

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第四章 相棒(バディ)

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 無機質でだだっ広い地下の空間に、空気を引き裂くようにして光と音とが交錯する。
 その擾乱じょうらんに囲まれながら、いまタカアキラは光線銃レイ・ガンを手に、高速で移動する輝く飛翔体を目で追っている。
 ほとんど音もなく、滑るように空中を飛行するオレンジ色の光球に向けて、軽やかに足を踏みかえつつ躊躇ためらいなくトリガーを引く。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。
 さらに、よっつ、いつつ、むっつ。

 壁や天井の射出装置から飛び出てきた光球は、最終的には全部で二十ほどもあった。それでもタカアキラは特に動じることもなく、素早くすべてに光線をヒットさせていく。光線の命中した光球は瞬時に紫色に変わり、空中で霧散してゆく。

「もう一度。次で最後ラストだ。いいか」
「いつでもどうぞ」
 
 背後の制御ブースの中からベータの声がして、次なる光球の集団がまた空中に吐き出される。
 実弾の入った銃でもある程度威力の目安になる口径は、レイ・ガンの場合でも同様である。扱う人間の体格や体力に相応ふさわしい大きさのものを選ぶのがセオリーだ。
 とはいえ実弾ブレットを使用する銃など、今となってはすでに骨董品扱いになっている。そんなものを購入するのは、ほとんど趣味的なコレクターばかりだろう。実弾銃はレイ・ガンの威力と比べれば、もはや実用性の面ではるかに劣るといわざるを得ない代物なのだ。

 いまタカアキラが扱っている銃は一般的な成人男性が用いるものとほぼ同じ、かつユーフェイマス宇宙軍でも最も多く採用されている型式の拳銃だ。扱いやすく、小回りがきき、かつエネルギー効率がよくて壊れにくい。
 実弾の銃ならば弾を装填せねばならないが、レイ・ガンの場合にはその光線を発生させるためのエネルギー補填が欠かせない。それには実弾の場合のマガジンと同様、握りの部分に装填するエネルギーパックを使用するのが一般的だ。

「ふう……」

 すべての「試験」が終わってつけていた射撃用ゴーグルを外し、息をついてふりむけば、笑顔のベータが多少ふざけた調子で軽く拍手などして見せながら、こちらへ近づいてくるところだった。今日は黒いTシャツにミリタリー調のカーゴパンツという姿だ。

「命中率90%ナインティオーバーか。恐れ入ったよ、殿」 
「それはまあ……。一応、軍属なのだしな。このぐらい出来ねば、話になるまい」
「そうでもなかろう? 特に第三方面軍には、銃などろくに扱えんぼんくらがいくらでも居ると聞いてるぞ」

 ベータが鼻で笑って言うことは、確かに嘘ではなかった。
 このタカアキラに限らないが、隊には時々、「なんでここへやって来たのか」と思うほど心身ともに脆弱というのか、見るからに甘やかされ放題で育ってきた「お坊ちゃま」らしき御仁がいる。とくにあの、暢気のんきな第三方面軍ではそうだった。
 もちろんタカアキラの銃の腕は、幼いころからあのスメラギで教育係の武官らから叩き込まれてきたものである。が、ここでそこまでベータに説明することはもちろん出来ない。タカアキラは相変わらず、自分の身分をこの男には伝えないままだからだ。
 そのまま何気ない風を装ってレイ・ガンをホルスターに戻しつつ、タカアキラは話題を変えた。

「で、どうだろう。片腕とまではいかずとも、ベータ殿のの働きはできそうだろうか」
「ま、そうだな」

 にやにやしながらベータが顎を撫でた。
 実のところここに至るまで、ベータはこれ以外にもタカアキラの――いや、彼は自分を「アルファ」としか呼ばないので、今はそう呼んだほうが相応しいのだろうか――様々な知識や情報収集能力、体術、剣術のすべてについて細かくチェックしてきた。会える時にはまずこれが最優先で、いまのところ彼に伴って実地の仕事をするには至っていない。
 「そもそも一緒に仕事をするのに、俺の足をひっぱるようなスキルしかないのではとても連れて歩けんからな」というのがその理由の第一だった。

「悪くはない。なにより、立ち居振る舞いに品があるのはだろうな。そういうものは、たとえ演技だとしても一朝一夕に身につくものじゃない。その上、すぐにが出る。まさに『お里が知れる』とかいうあれだ」

 商品のグレードを判定するような冷静かつ客観的な言いように、アルファはややうんざりして目を細めた。一応褒められているようなのだが、あいにくとちっとも嬉しくない。
 二度目のときのような明瞭な敵意をまといつかせていることこそ減ってはきたものの、男は相変わらずアルファに対して冷ややかな態度を崩さない。しかし、にも関わらず、なぜこんなリスキーな依頼を引き受けてくれたのか。そこだけはずっと不思議だった。

「上流階級の邸でのパーティに紛れ込むとか、金持ちの未亡人やら、男好きな貴族や政治家のジジイをたらしこむとか。色々と使いでがありそうだ。まあ喜べ」
「…………」

 後半のほうは正直いかがなものかとは思ったが、とりあえずアルファは黙っていた。
 
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