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序章
プロローグ
しおりを挟む瞬かぬ星が、じっと自分を見つめている。
一糸まとわぬ姿の自分を、上になり、下になりして好きなように蹂躙しつづけている肉の塊のむこうから、ちいさなちいさな、この塵のような宇宙船のなかの、けしつぶのような自分を見て笑っている。
「少しは腰を使わんか。この木偶のぼうめが」
はい、と無機質な返事をして、そのぶよぶよと醜く盛り上がった肉の塊の望むとおりに体を動かす。
肉の塊は、まるで蜥蜴そのもののようにちろちろと細い舌を蠢かせてくぐもった悦楽の声をあげる。その体表はところどころ、DNA操作の証である銀緑色の鱗に覆われて、ちかちかと硬質な星の光を跳ね返す。
「悦いぞ、ステフ」
「そう、そこだ。もっとよく舌を震わせて舐め上げよ、ダニエル」
「もっといい声で鳴かぬか。そら、もっとだ。マティアス」
「一滴もこぼすなよ。しっかりと味わって飲み込むのだ――」
「忘れたのか? 下賜されたものには礼を言わぬか」
「『美味しゅうございました、ご主人様』であろうが。ああ? トマス」
この肉の塊は、そのときどきで自分を好きなように呼ぶ。
いや、名前であるのならばまだ良い。
「さあ、鳴くがいい。いっぱしの野良犬ならば、それらしい哀れな声でな」
そもそも、自分に名などはない。
あのとき、たまさかこの巨大商船に引き上げられてからこちら、自分の脳はどこかが一部壊れたまま、自分がだれだったかも思い出すことはない。
(誰だったのか。……私は、いったい──)
思い出そうとすれば、吐き気のするような激しい痛みが頭を襲う。
頭の中全部が、恐ろしい嵐にかき回されて、むしろこのまま死にたいと願うほどの激痛が起こるのだ。
……だから、いつしか考えることをやめてしまった。
だらしないその肉の塊は、ときに部屋の重力装置をオフにして、空間を浮遊しながら自分を犯す。
これ以上無理なほどに足を開かれて、その部分をこじ開けられ、体中をそいつの唾液まみれにされて、求められるままに、ただ犬のように鳴かされるのだ。
ぼんやりと眺めた窓外には、遠くで蒼く燃えるような恒星の輝きがある。
この銀河系の隅からでも、あの星はよく見えるのだ。
蒼い、蒼い瞳。
あんなふうに強い光を湛え、燃えるように自分を見つめていた、誰かの瞳だ。
(……タ)
不意に、その誰かを思い出しそうになったのだが、その途端にまた、あの激しい頭痛が襲い掛かってきた。
「……っう」
肉塊は相変わらず、こちらの足の間を犯し続けている。そいつには好きにさせておきながら、両手で痛む頭を覆った。
だれだ。
お前は、誰なんだ。
そんな目で、見ないでくれ。
こんな私を、見ないでくれ――。
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