墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第十三章 次の世代を

8 人の手

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 公式の《生誕の儀式》が執り行われたその日、魔王国には津々浦々までこの喜びのニュースが駆け巡った。配信でこの映像を観ることができる者は、ほぼすべてがこれを観たという報告も、その日のうちに上がってきた。

 いまだ不満を抱く貴族たちがいるとは言え、その数は日を追うごとに減っているという。当然、その発言力も権力も弱くなってきている。なによりも生誕の儀式において、ダイダロスとトリーフォンが公式にも御子を支持する姿を見せたことが大きかった。ふたりの将軍の人心掌握術に負うところが大きいだろう。
 さらには、《レンジャー》たちも同席して平和的な姿を見せたこと。これも、国民感情に大きな影響があったらしい。今まで「やつらは敵だ」「絶対に許すことはできない」「ともに暮らすなど言語道断」と憎しみを露わにしていた人々も、かなりの部分がその舌鋒をやわらかく変化させ始めているという。
 やはり、以前にも聞いたように現《レンジャー》たちが魔王国軍のだれかの命を奪った経験がない、というのも大きいらしい。
 はすべて「過去のこと」と見做みなす者が増えたのだ。
   新たな世代の多くは、これまでのような争いの未来ではなく、平和で協力的な未来を望んでいるのである。

「となれば、この《儀式》の意義は幾重にも大きなものだったということになるな。開催して正解であった」
「ま……まあ、そうだな」

 その夜。
 ロートを連れて寝室に引き取ったふたりは、専用の揺りかごの中ですやすや眠っているロートを眺めつつ、寝台の上で抱き合っている。

「そんで? お前、何を考えてるんだよ」
「ん? なんの話だ」
「とぼけんじゃねえよっ!」
「しーっ。ロートが起きてしまうではないか」
「あっ……」

 リョウマは慌てて声を落とした。唇の前に人差し指を立てた魔王ごしに、そっと揺りかごの方を盗み見る。大丈夫だ。ロートは相変わらず深く眠っている。この子は幸い、夜泣きが激しい方ではないのだ。「腹が減った」といって騒ぎ出す間隔も、最初のうちこそ二時間おきぐらいだったものが、今ではたっぷり五時間はゆっくりと眠るようになっている。
 ロートの様子を確認してから、リョウマはあらためて魔王を睨みつけた。

「ごまかすんじゃねえ。お前、前に言ってたじゃんか。なんかちょっと、考えてることがある~とか、なんとか」
「そうだったか? 記憶にないな」
「おいっっ!」
「だから、しーっ」
「ううっ……」

 慌てて自分の口を手で塞ぐ。
 魔王は苦笑して、リョウマの体を抱き寄せた。

「案ずるな。悪いようにはせぬ」
「……ほんとかよ」

 これでも本当に心配しているのに、この男は!
 そもそも自分が、あとせいぜい八十年ぐらいしか一緒にいてやれないこと。ロートの寿命は恐らく人間よりははるかに長いと考えられるが、魔王とこの子を置いてこの世を去ることが、リョウマにとってはどうしても一番の悩みのタネになっている。
 魔王はいつも「案ずるな」と言うばかりでごまかすので、何を考えているのかわからない。

「……ま、いいんだけどな。お前がちゃんと、ずっと幸せでいられるなら」

 ムスッとしてそう呟いたら、魔王がまた、あの時のようななんとも言えない目をした。そうして、さらにぎゅっと抱きしめられる。

「そのように言ってくれる者がこうして傍にいてくれる。これ以上の幸せなどあろうか」
「……あ、そう」
「ともあれ、体は重々大事にしてくれよ。ロートの子育てが一段落したら、第二、第三の御子のことも考えねばならぬゆえな」
「えっ。もう?」
「そなたが言ったのではないか?『子どもはたくさん欲しい』と」
「そっ……そうだけどお」

 こんなに早く次の子のことなんて考えられない。今はロートのことで頭がいっぱいなのだ。まだ人型もとれない状態の幼竜の子がいるのに、次の子のこととは──。

「きっ、気が早いんじゃね? さすがに」
「そうだろうか?」
「ロートがある程度、お兄ちゃん……いやお姉ちゃんかもしんねえけど、とにかく! そういう自覚がちゃんとできるまでは待ってやったほうがいいんじゃね?」
「うーん」
「いや、せめてっ。人型が取れるようになるまでは待ってやんねーと──」

 と、リョウマが言ったときだった。
 ぴかっと寝室の一角から光が溢れだしたかと思うと、まるで寝室が昼のような明るさに包まれた。

「ひええっ? な、なんだ!?」
「──と、言っているうちにその瞬間が来てしまったようだな」
「えええ!?」

 がばっと跳ね起きる。
 そのまま、光の元である揺りかごへと走った。
 揺りかごの縁から、ひらひらと小さな手が揺れているのが見える。

 ……それは、まちがいなく「人間の子」の手の形をしていた。
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