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第十二章 新たな命
15 次世代誕生センター
しおりを挟む「子どもって、前に言ってたアレ?」
「そうだ」
「えっと、俺のサンプ……いやいや《サンプル》とか言うなっつってんだろーが!」
「ははは! そうだな、すまぬ。ついつい、センター長の説明口調が移ってしまってな」
魔王は破顔して、リョウマの頭を抱き寄せ、「よしよし」と言わんばかりに撫でた。
「そう怒らないでくれ。もちろんわかっている。あれが、我らの大切な子を成すために重要かつ神聖なものであるということぐらいはな」
「む。わかってんならいーけどよー」
それでようやく、リョウマは膨らませていた頬をもとに戻した。
「んで、ソレはちゃんと揃ったってこと? お前のやつも?」
「ああ。今日の午後、センター長から連絡を受けた。どちらも十分な量と質を確保できたとのことだ。いつでも《儀式》に入れるそうだぞ」
「儀式……?」
その言葉で連想するのは、なにやら怪しげな宗教的な祈祷やらなにやらなのだが。胡散臭げな顔になったリョウマを、魔王は「いやいや勘違いしないでくれ」と宥めた。実際、彼の説明を聞いているとまったくそういうものではないらしかった。
「この国ではどの親たちも、この《儀式》に参加することを義務づけている。なにしろ、自分たちの大切な子がまさに生まれる瞬間を目にすることだからな。これを神聖なものとするのには理由がある。実は親たちにこれをきちんと経験させないと、歴史上、子育てに関して非常に無責任な態度を取り始める者が結構いたものでな」
「え? ちゃんと育てなくなるヤツがいたってこと? 自分の子なのに??」
「そうだ」
「サイッッテーだな!」
「その通りだ」
言って魔王は満足げにリョウマの額に口づけを落とした。
「無論、そなたがそんな無責任な真似をする男だとは全く思わぬ」
「ったりめーよ! んで、いつ行く?」
「センター長からは明日以降ならばいつでも、との報告を受けている。リョウマはいつにしたいのだ?」
「え~っと。それじゃあ……」
訊かれてリョウマは、自分に任されている《第二保護区》の教育プログラム構築についての今後の予定をぐるぐると脳内で展開させはじめた。
◇
「ほへえ。あれがええっと、《お誕生日センター》?」
「ぷはっ」
「あんだよおおっ」
魔王専用機である飛行艇内で思わず吹き出したエルケニヒは、むうっと膨れたリョウマを横から抱き寄せて「すまぬ」を何度か繰り返した。
「お誕生日センターではなく、《次世代誕生センター》だ。さあ、降下しよう」
結局、《儀式》はあの夜の会話から二月ほど後になってしまった。リョウマとしては早くしたいのは山々だったのだが、魔王も自分も、積みあがった仕事に忙殺される状態が続いたからである。
《次世代誕生センター》は緑の庭園に囲まれた穏やかな雰囲気の建物だった。魔都デヴァーデンスの中心部に多い、見上げるような高層建築ではなく、普通の邸宅ぐらいの高さしかない。落ち着いた壁と屋根の色で、威圧感がまったくなかった。
広いエントランスには、すでに職員が数名待ち構えていた。一人、前に進み出て立っているのは鼻先のしゅっと長い犬の顔をした男だった。金色の、毛足の長い毛皮が全身を覆っている……らしい。らしい、と言うのは、彼が「いかにも」という感じの白衣に身を包んでいるからだ。つまりはこれが、話題に出ていたセンター長らしい。
センター長はリョウマたちと前にすると、びっくりするほど優雅な貴族然としたお辞儀をした。
「魔王陛下。配殿下。《次世代誕生センター》へようこそ。お二方の《儀式》をお手伝いさせていただけますこと、我らなによりの光栄にございます。センター所員一同、おふたりを首を長くしてお待ち申し上げておりました」
「うん。まあ楽にいたせ」
「あ。えーと。よ、よろしくお願いします……」
魔王に肩を抱かれて挨拶すると、なんとなく、ぽっと耳のあたりが熱くなった。
(い、いよいよだな……)
前から話には聞かされていたが、いよいよとなるとやっぱり緊張する。というか、リョウマ自身まだまだ自分が子どもみたいなもんだと思っているのに、本当に親になんてなれるのだろうか?
(な、なんか、不安になってきた……)
勝手にどきどきしているうちに、魔王はダンパをはじめとする近衛の護衛隊を広いエントランスに残るよう指示を出している。そうしてそのまま、ふたりはセンター長に案内されて建物の奥へと進んだ。
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