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第十章 帰還

3 人型

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 ダイダロスの極秘の見舞いも済み、一同がひとまず飛行艇に乗り換えて魔王城に戻ろうとしたときだった。
 突然、ダンパあてに魔王城からの通信が入った。国内での通信は、多くの者が耳に仕込んだ小さな装置を介して行われる。通信に出たダンパが、一瞬息を飲んだようだった。

「なんですと。しかし」
「左様なことは、魔王陛下がお許しには──」
「いや、お待ちください」

 長年の鍛錬と本人の性格により、その声は相当感情を抑えたものにはなっている。だが、いい加減つきあいも長くなってきたリョウマには分かった。ダンパが間違いなく、驚き呆れ、また憤慨しているということが。
 通信が切れ、難しい顔になって沈黙してしまったダンパを、飛行艇に乗った一同はじっと見つめた。この場には、ダンパを問いただせる者が二人しかいない。リョウマと魔王だ。
 しかしドラゴンに戻ってしまった魔王はと言えば、ひたすら眠いらしく、窮屈な飛行艇の隅で丸くなったままだ。しかたなく、リョウマが口を開いた。

「……あの。なんかあったの? ダンパさん」
「いえ。それが──」

 ダンパが平静そのものの声で説明してくれたところによれば、こうだ。
 リョウマは当然のように魔王城に帰ろうとしていたわけだが、どうやらそれを拒否されたらしい。魔王の死を確信し、その権威をかっさらおうとしている連中は、ことさらにリョウマを「偽りの王配」と言ってはばからなくなっている。今回もつまりはそういうことだった。
 要するに「正式な王配ですらない者を、魔王城に入れるわけには参らぬ」と、サムイルや文官のボス格の奴が主張しているらしい。ほかのことでは意見の食い違いが激しく、常に丁々発止でやりあっているくせに、こと、この問題に関してだけは意見の一致を見たらしい。まことに皮肉な話だ。

(ん~。まあ、しょうがねえけど)

 困った顔のダンパを見て、リョウマは苦笑するしかない。
 文字通りの「救出」とまでは言えない流れだとはいえ、まちがいなく魔王その人を無事に連れ帰ったことは事実だ。だが、そのことはおおやけには伏せられている。サムイルたちが今回の掃海作戦について聞かされている成果は、宇宙空間に漂う魔王の残留物をいくらか見つけたぐらいのこと。リョウマ自身、周囲が止めるのも聞かずに宇宙へ出ていき、散々周囲に迷惑を掛けた挙げ句大した成果もなく帰ってきた──と、そういうことになってしまうのだから仕方がない。

「いかがいたしましょうか。リョウマ様」
「いや……。俺は別に、どーしても城に戻んなきゃなんねーわけじゃねーし」
「そういうことだな。ここはひとつ、そちらの村に世話になるということでどうだ」

 いきなり会話に割って入ったのは、もちろんエルケニヒだった。先ほどダイダロスの病室で変身したのと同じ、青年姿に戻っている。魔力がだいぶ回復してきたらしく、人間の姿でいるのも次第に楽になってきたのかもしれない。

「こっちの村って。まさか《保護区》のこと?」
 びっくりしてサクヤが聞き返すと、魔王は「当然だろう」とにっこり笑った。
「まさか一足飛びに《勇者の村》まで行くなどとは申さぬよ。構わんだろう? どっちみち、あそこはこちらが用意した場所でもあるのだし」
「ええっと……」

 サクヤやケントたちが顔を見合わせている。ムサシもやや難しい顔をしていたが、「よろしい。あちらに連絡してみよう。ただし、魔王はドラゴンの姿のままで頼む」ということで話がついた。
 《保護区》に連絡してみると、比較的すぐに返事がきた。「オーケー」だそうである。
 ということで、一同は急遽、魔王国の辺境に存在する第二の《人間保護区》へ向かったのだった。


 ◇


「お~。やっぱ、ここは気持ちいいなあ」

 《人間保護区》に到着して、リョウマは思わず伸びをした。周囲の《魔素》を遮断するシールドが張られているはずなのだが、内側からはそれは見えない。ただただ、青い空と白い雲と、緑の山に囲まれた湖や畑や牧草地が広がった、のどかで美しい区域だ。気のせいでなく、空気がうまい。
 飛行艇が到着したのを出迎えたのは、こちらへ出向いてくれているもう一人の長老、ゲンゴだった。

「よう無事で戻ったのう、リョウマ。ん? そちらの御仁は」
「え? ああっ?」

 ゲンゴの視線を辿って後ろをふりむいて、驚いた。
 上背のある美しい青年が、にこにこしながらそこに立っていた。先ほどドラゴンから人間型に変身したときとはまったくちがう。
 いや、癖のない銀髪はそのままだ。しかし、あの明らかに爬虫類のものである瞳は存在しない。エメラルド色をした、まちがいなくである瞳がみんなを見回して笑っている。その頭には、あの特徴的な角がない。肌の色も蒼くなく、リョウマたちとあまり変わらない色になっている。

「エッ……エル? どうしたんだよっ?」

 びっくりして、思わず男の胸倉をつかんでしまった。
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