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第九章 胎動

5 亀裂

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 その後もまた十日ほど、掃海作戦は続行された。
 適度に交代しつつ、みんな非常にまじめに作戦を遂行していく。第二次掃海作戦隊の作戦計画は、一応三十日と予定されている。この後はまた第三次隊への引継ぎとなる予定だ。
 思ったほどの成果もあがらないこの作戦を、それでもみんな文句も言わず淡々とこなしている。だが、明らかにどの隊員の顔にも疲れが見えた。

 リョウマの例の玉は、日々少しずつ成長していった。
 最初はリョウマの人差し指の関節ひとつぶんほどだった直径が、今では指一本分になっている。はじめは片手で完全に包み込めるほどの大きさだったのだが、もう無理だ。
 最近では水晶と一緒にケースに入れるのも難しくなり、ダンパに頼んでもう少し大きなバッグを用意してもらった。丁寧にタオルに包み、そのうえでどこへ行くにもそのバッグを肩から提げて歩く。ダンパも同意見だったが、なんとなく、自分の体から離しておく気になれなかったからだ。

 実を言うと、リョウマはある時期からずっと、その玉を自分の寝床に持ち込んで一緒に眠るようになっていた。それが身近にあることで、不思議と気持ちが落ち着いてよく眠れるようになったからだ。なぜかは、やっぱりわからなかったけれども。

 隊員や戦艦の艦長にはなんとなく黙っていたのだが、リョウマは一応、指輪を使って地球にいるトリーフォンや《レンジャー》の仲間にはこの事実を知らせた。いや一緒に寝ているということではなく、次第に玉が成長していることをだ。
 みな、反応はそれぞれだったが一様に驚いた様子だった。
 とりわけ興味深かったのはトリーフォンの反応だった。しばらくじっと玉の様子を見つめたあと、大鷲の顔をした男は静かにこう言った。

 《どうか、それをくれぐれも大切に守るように。その玉には、恐らく重大な意味があるのではないかと思うゆえ》
「え、なんでですか?」
 《わからぬ。いや、わかったとしてもそなたには伝えぬ》
「はあ、そーですか……」

 言われて、ちょっとむくれたリョウマだった。
 やっぱり、トリーフォンには、なにか思うところがあるようだ。

 そういえば、こんな不思議なことがあった。
 掃海艇でいつものように掃海作業を繰り返していたときのことだ。発見された小さな物体を、いつものように専用のカプセルに収容したはずだったのだが、それがいつのまにか消失していたのである。
 ハート中尉以下、隊員はみな慌てた。中尉はそのまま事実を艦長であるザイード大佐に伝えたらしいが、大佐も判断に困ったようである。そのうち、ほかの掃海艇でも似たような事象がつぎつぎと起こりはじめた。
 ザイードからはもちろん、統括しているトリーフォンに報告があがったはずだが、トリーフォンからは「気にせずそのまま続けよ」という指示が下ったらしい。とりあえず、物品が消失していくことによってのおとがめはない、ということで、ひとまずみんなは安心したようだった。

 そして。
 そろそろこの第二次掃海作戦の最終日がちかづいていたある日のこと。
 さらに大きくなったその玉を、いつものようにベッドに持ち込み、夕食や入浴も終わってそろそろ寝ようかとしていた夜のことだった。

「……ん?」

 枕のそばに玉を置いて、いつものようにそれを抱いて眠ろうとしたリョウマだったが、不思議な音が聞こえた気がして目をあけた。


 ──ぴし。

 ことこと、ことん。

「んんっ……?」

 むくりと起き上がり、枕もとの明かりをつける。
 
「えっ」

 今ではリョウマの両手で包めるほどの大きさに成長したその玉が、かすかに揺れているのだ。そしてなんとその表面に、一本の細い亀裂が走っている。

「ええっ。ちょ、これっ……」

 慌てすぎて、ダンパに声を掛けることすら忘れていた。
 リョウマは両手に玉をもちあげ、あわあわするばかりだ。キョロキョロと意味もなく周囲を見回してしまう。

 やがて。

 ぴし。ぱりぱり。ぴしっ。

「えっ……?」

 そこではじめて、リョウマはこれが「玉」なんかでなかったことを知った。
 なぜならこの状況には見覚えがある。少年だったリョウマには、《勇者の村》の近くの森で、こずえにかかった鳥の巣などから落ちてしまった卵を、何度か巣に戻してやったことがあるのだ。
 オロオロするうちにも、卵らしきものに入ったヒビはどんどん大きくなっていく。
 中に、なにかもぞもぞと動くものを発見して、リョウマはごくりと喉を鳴らした。

(なんか、いる……?)
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