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第八章 邂逅
12 消失
しおりを挟む「つ……疲れた……」
その日の夜。ダンパとともに自分の寝室に戻ってきて、リョウマはベッドに倒れ込んだ。ダンパはいつものように礼儀正しく夜の挨拶をして、扉から出ていく。彼はリョウマになにかあればすぐに飛び出してこられるように、すぐ脇の小部屋で休息をとるのだ。
「ほんとごめん、みんな……」
あれから《レンジャー》の仲間たちやトリーフォンとの通信で、しばらく押し問答になった。《レンジャー》たちは基本的に、村のみんなの説得と移送にはリョウマにも参加してほしいとの意向だったため、強く反対されたのだ。サクヤは憤慨しており、ケントは終始、寂しそうな悲しそうな顔だった。ハルトとコジロウは心配そうな顔だ。無理もない。しばらく離ればなれだった《レンジャー》五名がようやく集まったばかりなのだ。
対するトリーフォンは意外にも、「リョウマ殿がそうお望みならば」と、こちらの意思を最大限尊重してくれる考えだった。
「我らとて、陛下がご無事であることを願わないはずがない。万にひとつの希望だとしても、それがあるならば死力を尽くしてお探しもうしあげたいと思っている。リョウマ殿が探してくださることによって、その可能性が高まるのなら願ってもないことよ」と。つまりリョウマと魔王の不思議なつながりによって、魔王の痕跡を発見しやすくなるかもしれぬと考えてくれている様子だった。
《レンジャー》のみんなはそれでもやっぱり反対したが、結局は「必ず無事で帰ること」を約束させられ、最終的になんとか許してもらえたのだ。
それからは忙しかった。
まず《人間保護区》にいる村人たちを訪問し、村へ戻ることを説得する仕事があった。魔王が不在であることはわずかな人々にしか知らされていないトップシークレットなので、そこは話さず、《全人類宇宙ピクニック》後に魔王国内での権力争いが激化して、そのあおりを食らって《人間保護区》が危なくなる可能性がある、という風に話をするしかなかった。喉の奥に魚の小骨でも刺さったような気持ちになったが、とにかくリョウマたちとしてはその方向で押すしかなかったのだ。
保護区に腰をおちつけかかっていた先発隊のみんなを説得するのは簡単なことではなかった。だが、「事態が落ち着けば戻ってこられる。そうなるように、俺も頑張るから」と言って、どうにかこうにか古老はじめ村人たちの承諾をとりつけた形だ。やっとのことでそこまでこぎつけたときには、すっかり日が暮れていた。
最後にサクヤには「だからこそ、あんたは無事でちゃんと帰ってこなきゃダメよ!」としっかり釘を刺された。
もちろんリョウマだって、一応はそのつもりだ。
しかしこのまま、本当に魔王に会えなくなったら……?
「本当に彼が失われてしまったのだ」と確信したとき、自分はどうなってしまうのだろう?
(こんなん……信じられねえよな)
枕に顔をおしつけて、自嘲ぎみの溜め息をつく。
昔の自分とは完全に百八十度変わってしまった。魔王をただの敵だと思って心から憎み、戦って滅ぼすことしか考えていなかったのが、すでに遠い昔のことのようだ。あのころの、なにも考えていない単純な自分には、もう絶対にもどれないだろうと思う。
(エル……。てめえ、ほんとどこに行ったんだよ)
あの彗星と心中してしまったなんて、絶対に信じない。そんなこと、信じてなるものか。
だから必ず、あの宙域で見つけてやる。たとえカケラみたいになっていたとしたってかまうものか。あいつなら、そして魔王国の素晴らしい技術があれば、そこからだってきっと魔王を復活させられるに違いない。
あらためてそう決意しなおし、リョウマは起き上がった。一日じゅう動きまわって、村人を説得する緊張で嫌な汗もかいた。すっかり疲れていて今すぐにも寝たいが、最低でも体は洗っておきたい。明日は早朝から、またあの宙域に出動しなくてはならないのだから。
リョウマは重い体をどうにかこうにかベッドからひきはがすと、自分の部屋からも直接行けるようになっている、魔王のための湯殿に向かった。
◇
脱衣所でだらだらと衣服を脱ぎ、湯殿に入る。そこまでほとんど無意識だった。
魔王が不在になっていることが秘密にされているため、湯殿は普段どおり、いつ入りに来てもいいようにふんだんに湯が張られ、準備されている。ぜいたくなことだ。《勇者の村》だったら考えることもできないほどの。
なかばぼんやりとしたままのろのろと湯舟につかり、しばしぼんやりしてからゆっくりと体を洗った。
そうして、なんの気なしに自分の体を見下ろして──違和感を覚えた。
(えっ……?)
男としての筋肉の走った、引き締まった体。このところはあまり外に出て日焼けすることがなく、やや肌の色が薄くなってしまった。いや、そんなことはどうでもいい。
(な、なんでだよ……? これって──)
慌てて立ち上がると、危うく足を滑らせそうになりながら脱衣所に向かって走った。
そこには大きな姿見がある。
魔王の巨体でも余裕で映せる大きさの姿見に、リョウマはバン、と両手をついた。
「なっ……なんだよ、これっ……!」
ぐるりと振り向いて、背後も確かめる。
頭がガンガンして、うまくものが考えられない。何度も目をこすり、頭を振って鏡にうつった自分の体を凝視した。
(そんな……)
まちがいない。
何度見直しても、見間違いではなかった。
そこにあったはずの、性器から伸びていた魔法の樹。
魔王によって刻まれたあの流麗な紅い紋様が──消えていた。
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