墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
137 / 215
第八章 邂逅

12 消失

しおりを挟む

「つ……疲れた……」

 その日の夜。ダンパとともに自分の寝室に戻ってきて、リョウマはベッドに倒れ込んだ。ダンパはいつものように礼儀正しく夜の挨拶をして、扉から出ていく。彼はリョウマになにかあればすぐに飛び出してこられるように、すぐ脇の小部屋で休息をとるのだ。

「ほんとごめん、みんな……」

 あれから《レンジャー》の仲間たちやトリーフォンとの通信で、しばらく押し問答になった。《レンジャー》たちは基本的に、村のみんなの説得と移送にはリョウマにも参加してほしいとの意向だったため、強く反対されたのだ。サクヤは憤慨しており、ケントは終始、寂しそうな悲しそうな顔だった。ハルトとコジロウは心配そうな顔だ。無理もない。しばらく離ればなれだった《レンジャー》五名がようやく集まったばかりなのだ。

 対するトリーフォンは意外にも、「リョウマ殿がそうお望みならば」と、こちらの意思を最大限尊重してくれる考えだった。
「我らとて、陛下がご無事であることを願わないはずがない。万にひとつの希望だとしても、それがあるならば死力を尽くしてお探しもうしあげたいと思っている。リョウマ殿が探してくださることによって、その可能性が高まるのなら願ってもないことよ」と。つまりリョウマと魔王の不思議なつながりによって、魔王の痕跡を発見しやすくなるかもしれぬと考えてくれている様子だった。
 《レンジャー》のみんなはそれでもやっぱり反対したが、結局は「必ず無事で帰ること」を約束させられ、最終的になんとか許してもらえたのだ。

 それからは忙しかった。
 まず《人間保護区》にいる村人たちを訪問し、村へ戻ることを説得する仕事があった。魔王が不在であることはわずかな人々にしか知らされていないトップシークレットなので、そこは話さず、《全人類宇宙ピクニック》後に魔王国内での権力争いが激化して、そのあおりを食らって《人間保護区》が危なくなる可能性がある、という風に話をするしかなかった。喉の奥に魚の小骨でも刺さったような気持ちになったが、とにかくリョウマたちとしてはその方向で押すしかなかったのだ。
 保護区に腰をおちつけかかっていた先発隊のみんなを説得するのは簡単なことではなかった。だが、「事態が落ち着けば戻ってこられる。そうなるように、俺も頑張るから」と言って、どうにかこうにか古老はじめ村人たちの承諾をとりつけた形だ。やっとのことでそこまでこぎつけたときには、すっかり日が暮れていた。

 最後にサクヤには「だからこそ、あんたは無事でちゃんと帰ってこなきゃダメよ!」としっかり釘を刺された。
 もちろんリョウマだって、一応はそのつもりだ。
 しかしこのまま、本当に魔王に会えなくなったら……?
「本当に彼が失われてしまったのだ」と確信したとき、自分はどうなってしまうのだろう?

(こんなん……信じられねえよな)

 枕に顔をおしつけて、自嘲ぎみの溜め息をつく。
 昔の自分とは完全に百八十度変わってしまった。魔王をただの敵だと思って心から憎み、戦って滅ぼすことしか考えていなかったのが、すでに遠い昔のことのようだ。あのころの、なにも考えていない単純な自分には、もう絶対にもどれないだろうと思う。

(エル……。てめえ、ほんとどこに行ったんだよ)

 あの彗星と心中してしまったなんて、絶対に信じない。そんなこと、信じてなるものか。
 だから必ず、あの宙域で見つけてやる。たとえカケラみたいになっていたとしたってかまうものか。あいつなら、そして魔王国の素晴らしい技術があれば、そこからだってきっと魔王を復活させられるに違いない。
 あらためてそう決意しなおし、リョウマは起き上がった。一日じゅう動きまわって、村人を説得する緊張で嫌な汗もかいた。すっかり疲れていて今すぐにも寝たいが、最低でも体は洗っておきたい。明日は早朝から、またあの宙域に出動しなくてはならないのだから。

 リョウマは重い体をどうにかこうにかベッドからひきはがすと、自分の部屋からも直接行けるようになっている、魔王のための湯殿に向かった。


 ◇


 脱衣所でだらだらと衣服を脱ぎ、湯殿に入る。そこまでほとんど無意識だった。
 魔王が不在になっていることが秘密にされているため、湯殿は普段どおり、いつ入りに来てもいいようにふんだんに湯が張られ、準備されている。ぜいたくなことだ。《勇者の村》だったら考えることもできないほどの。
 なかばぼんやりとしたままのろのろと湯舟につかり、しばしぼんやりしてからゆっくりと体を洗った。
 そうして、なんの気なしに自分の体を見下ろして──違和感を覚えた。

(えっ……?)

 男としての筋肉の走った、引き締まった体。このところはあまり外に出て日焼けすることがなく、やや肌の色が薄くなってしまった。いや、そんなことはどうでもいい。

(な、なんでだよ……? これって──)

 慌てて立ち上がると、危うく足を滑らせそうになりながら脱衣所に向かって走った。
 そこには大きな姿見がある。
 魔王の巨体でも余裕で映せる大きさの姿見に、リョウマはバン、と両手をついた。

「なっ……なんだよ、これっ……!」

 ぐるりと振り向いて、背後も確かめる。
 頭がガンガンして、うまくものが考えられない。何度も目をこすり、頭を振って鏡にうつった自分の体を凝視した。

(そんな……)

 まちがいない。
 何度見直しても、見間違いではなかった。
 そこにあったはずの、性器から伸びていた魔法の樹。
 魔王によって刻まれたあの流麗な紅い紋様が──消えていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...