137 / 170
第八章 邂逅
12 消失
しおりを挟む「つ……疲れた……」
その日の夜。ダンパとともに自分の寝室に戻ってきて、リョウマはベッドに倒れ込んだ。ダンパはいつものように礼儀正しく夜の挨拶をして、扉から出ていく。彼はリョウマになにかあればすぐに飛び出してこられるように、すぐ脇の小部屋で休息をとるのだ。
「ほんとごめん、みんな……」
あれから《レンジャー》の仲間たちやトリーフォンとの通信で、しばらく押し問答になった。《レンジャー》たちは基本的に、村のみんなの説得と移送にはリョウマにも参加してほしいとの意向だったため、強く反対されたのだ。サクヤは憤慨しており、ケントは終始、寂しそうな悲しそうな顔だった。ハルトとコジロウは心配そうな顔だ。無理もない。しばらく離ればなれだった《レンジャー》五名がようやく集まったばかりなのだ。
対するトリーフォンは意外にも、「リョウマ殿がそうお望みならば」と、こちらの意思を最大限尊重してくれる考えだった。
「我らとて、陛下がご無事であることを願わないはずがない。万にひとつの希望だとしても、それがあるならば死力を尽くしてお探しもうしあげたいと思っている。リョウマ殿が探してくださることによって、その可能性が高まるのなら願ってもないことよ」と。つまりリョウマと魔王の不思議なつながりによって、魔王の痕跡を発見しやすくなるかもしれぬと考えてくれている様子だった。
《レンジャー》のみんなはそれでもやっぱり反対したが、結局は「必ず無事で帰ること」を約束させられ、最終的になんとか許してもらえたのだ。
それからは忙しかった。
まず《人間保護区》にいる村人たちを訪問し、村へ戻ることを説得する仕事があった。魔王が不在であることはわずかな人々にしか知らされていないトップシークレットなので、そこは話さず、《全人類宇宙ピクニック》後に魔王国内での権力争いが激化して、そのあおりを食らって《人間保護区》が危なくなる可能性がある、という風に話をするしかなかった。喉の奥に魚の小骨でも刺さったような気持ちになったが、とにかくリョウマたちとしてはその方向で押すしかなかったのだ。
保護区に腰をおちつけかかっていた先発隊のみんなを説得するのは簡単なことではなかった。だが、「事態が落ち着けば戻ってこられる。そうなるように、俺も頑張るから」と言って、どうにかこうにか古老はじめ村人たちの承諾をとりつけた形だ。やっとのことでそこまでこぎつけたときには、すっかり日が暮れていた。
最後にサクヤには「だからこそ、あんたは無事でちゃんと帰ってこなきゃダメよ!」としっかり釘を刺された。
もちろんリョウマだって、一応はそのつもりだ。
しかしこのまま、本当に魔王に会えなくなったら……?
「本当に彼が失われてしまったのだ」と確信したとき、自分はどうなってしまうのだろう?
(こんなん……信じられねえよな)
枕に顔をおしつけて、自嘲ぎみの溜め息をつく。
昔の自分とは完全に百八十度変わってしまった。魔王をただの敵だと思って心から憎み、戦って滅ぼすことしか考えていなかったのが、すでに遠い昔のことのようだ。あのころの、なにも考えていない単純な自分には、もう絶対にもどれないだろうと思う。
(エル……。てめえ、ほんとどこに行ったんだよ)
あの彗星と心中してしまったなんて、絶対に信じない。そんなこと、信じてなるものか。
だから必ず、あの宙域で見つけてやる。たとえカケラみたいになっていたとしたってかまうものか。あいつなら、そして魔王国の素晴らしい技術があれば、そこからだってきっと魔王を復活させられるに違いない。
あらためてそう決意しなおし、リョウマは起き上がった。一日じゅう動きまわって、村人を説得する緊張で嫌な汗もかいた。すっかり疲れていて今すぐにも寝たいが、最低でも体は洗っておきたい。明日は早朝から、またあの宙域に出動しなくてはならないのだから。
リョウマは重い体をどうにかこうにかベッドからひきはがすと、自分の部屋からも直接行けるようになっている、魔王のための湯殿に向かった。
◇
脱衣所でだらだらと衣服を脱ぎ、湯殿に入る。そこまでほとんど無意識だった。
魔王が不在になっていることが秘密にされているため、湯殿は普段どおり、いつ入りに来てもいいようにふんだんに湯が張られ、準備されている。ぜいたくなことだ。《勇者の村》だったら考えることもできないほどの。
なかばぼんやりとしたままのろのろと湯舟につかり、しばしぼんやりしてからゆっくりと体を洗った。
そうして、なんの気なしに自分の体を見下ろして──違和感を覚えた。
(えっ……?)
男としての筋肉の走った、引き締まった体。このところはあまり外に出て日焼けすることがなく、やや肌の色が薄くなってしまった。いや、そんなことはどうでもいい。
(な、なんでだよ……? これって──)
慌てて立ち上がると、危うく足を滑らせそうになりながら脱衣所に向かって走った。
そこには大きな姿見がある。
魔王の巨体でも余裕で映せる大きさの姿見に、リョウマはバン、と両手をついた。
「なっ……なんだよ、これっ……!」
ぐるりと振り向いて、背後も確かめる。
頭がガンガンして、うまくものが考えられない。何度も目をこすり、頭を振って鏡にうつった自分の体を凝視した。
(そんな……)
まちがいない。
何度見直しても、見間違いではなかった。
そこにあったはずの、性器から伸びていた魔法の樹。
魔王によって刻まれたあの流麗な紅い紋様が──消えていた。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる