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第八章 邂逅
11 願い
しおりを挟む「とはいえ」と、少し声をやわらげてトリーフォンが続ける。
《陛下が左様なご決断をなさったのには、大きな理由がある。そのひとつは他でもない、王配たるそなたが《レンジャー》であったこと》
「お、俺……?」
トリーフォンは「左様」とうなずいた。
《そなたがなにより自分の村のみなを救いたい、守りたいと望んでいたゆえだ。そなたと陛下の深いつながりがあってこそ、あの保護区プロジェクトは御前会議の承認を得られたと言えよう。まあそれも一応だがな》
「うぬぬぬ……」
リョウマは難しい顔になって黙りこみ、ほかの《レンジャー》一同も張り詰めた表情で沈黙している。
《だが、そなたらもわかっておると思うが、本来、我らとそなたらは敵対関係。長年、互いに血を流しあい、殺し合うてきた間柄だ。それを思えば、そもそもあのような革新的すぎる計画がはじめから通るはずもなかった。なにもかも、尊き陛下の存在とご意思があったればこそ。その陛下がご不在となった今、あのとき不満に思いつつも口を閉ざしていた者らが力を得て、口々に疑問を呈しはじめておるというわけよ》
「つまり『重石が外れた状態』ってことね」
「そんな……」
そうでなくても、あいつがいなくなって、それどころじゃないって言うのに。魔王国政府のヤツらは、一体なにを考えてんだ? いまそんなことで騒いでる場合じゃねえだろうに。
俺は今すぐにでも、あの宙域にもどってあいつを探し回りたいぐらいなのに!
怒りと混乱で愕然とするリョウマを少しのあいだ見つめてから、サクヤがトリーフォンの方をまっすぐに見た。
「最悪の場合、あたしたちは全員で村に戻ったほうがいいのかもしれない。下手なことをして、《レンジャー》に恨みをもつ魔族から村人が襲われるようなことになる前にね」
「なんだって? そんな危険があんのかよっ」
「ちょっと落ち着きなさい!」
ソファから尻をわずかに浮かしかけたリョウマの背中を、サクヤはまたもやバシンと叩いた。リョウマは低く呻いて、じんじんするその痛みに耐えた。
「もしもの話よ。けど、トリーフォンやダイダロスがどんなに止めても、『万が一』ってことはある。そういうもんよ。どんなことになっても、村のみんなはあたしたちが守らなきゃ。みんなには、どんな『万が一』もあっちゃいけない。そうでしょ?」
「う……。うん」
リョウマはこくんとうなずいた。
それは納得だ。百パーセント、反対することなんてない。サクヤの言うとおりだ。こんなことで村の誰かが傷つくなんて絶対にダメだ。
「とにかく。あんまり時間はないわ。こっちには、体の弱いおじいちゃんやおばあちゃんに、ちいさな子どもや病気の人たちだっているんだから。大した人数じゃなくても、移動にはかなりの時間がかかるはず」
「すぐに移動を始めたほうがいいな」ケントも言う。
「そちらの輸送船を回してもらうことは可能なのでござるか」これはコジロウだ。
《当然である。最速で準備させよう。必要な人数の枠を教えてもらいたい》
「わかった」ハルトがはっきりとうなずく。
「……そ、そうだな。それは早い方がいいよな。でも──」
そこでリョウマは、ぐっとみんなを見回した。
「俺は……ごめん。そっちのことは手伝えない。あいつの捜索に参加したい」
「リョウマ! なに言ってんのよ!」
驚いたのはサクヤだけではなかった。《レンジャー》のみんなもダンパも、そして水晶の画像の中のトリーフォンも、一瞬沈黙してリョウマをじっと見つめた。
「本当にごめん! でも俺、まだ信じられない。あいつが本当にいなくなっちまったなんて、どうしても信じられないんだ。あいつはきっと、俺たちにはわからない方法で生き残ってるんじゃないかって気がしてしょうがない。ただの勘だろって言われりゃそうだ。でも、どうしても……これはどうしようもねえんだ」
「リョウマ……」
「本当は、村のみんなのこと、この魔王国のこと、もっと手伝わなきゃなんないのはわかってる。一番大変なときだってことも。でも、ごめん。今は魔王の捜索に参加させてくれ。どうかお願いだ。みんな。それからトリーフォンのダンナ。どうか、頼む。この通りだ」
言ってリョウマは、その場で深々と頭を下げた。
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