墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
136 / 212
第八章 邂逅

11 願い

しおりを挟む

「とはいえ」と、少し声をやわらげてトリーフォンが続ける。

 《陛下が左様なご決断をなさったのには、大きな理由がある。そのひとつは他でもない、王配たるそなたが《レンジャー》であったこと》
「お、俺……?」

 トリーフォンは「左様」とうなずいた。

 《そなたがなにより自分の村のみなを救いたい、守りたいと望んでいたゆえだ。そなたと陛下の深いつながりがあってこそ、あの保護区プロジェクトは御前会議の承認を得られたと言えよう。まあそれもだがな》
「うぬぬぬ……」

 リョウマは難しい顔になって黙りこみ、ほかの《レンジャー》一同も張り詰めた表情で沈黙している。

 《だが、そなたらもわかっておると思うが、本来、我らとそなたらは敵対関係。長年、互いに血を流しあい、殺しうてきた間柄だ。それを思えば、そもそもあのような革新的すぎる計画がはじめから通るはずもなかった。なにもかも、尊き陛下の存在とご意思があったればこそ。その陛下がご不在となった今、あのとき不満に思いつつも口を閉ざしていた者らが力を得て、口々に疑問を呈しはじめておるというわけよ》
「つまり『重石が外れた状態』ってことね」
「そんな……」

 そうでなくても、あいつがいなくなって、それどころじゃないって言うのに。魔王国政府のヤツらは、一体なにを考えてんだ? いまそんなことで騒いでる場合じゃねえだろうに。
 俺は今すぐにでも、あの宙域にもどってあいつを探し回りたいぐらいなのに!
 怒りと混乱で愕然とするリョウマを少しのあいだ見つめてから、サクヤがトリーフォンの方をまっすぐに見た。

「最悪の場合、あたしたちは全員で村に戻ったほうがいいのかもしれない。下手なことをして、《レンジャー》に恨みをもつ魔族から村人が襲われるようなことになる前にね」
「なんだって? そんな危険があんのかよっ」
「ちょっと落ち着きなさい!」

 ソファから尻をわずかに浮かしかけたリョウマの背中を、サクヤはまたもやバシンと叩いた。リョウマは低く呻いて、じんじんするその痛みに耐えた。

「もしもの話よ。けど、トリーフォンやダイダロスがどんなに止めても、『万が一』ってことはある。そういうもんよ。どんなことになっても、村のみんなはあたしたちが守らなきゃ。みんなには、どんな『万が一』もあっちゃいけない。そうでしょ?」
「う……。うん」

 リョウマはこくんとうなずいた。
 それは納得だ。百パーセント、反対することなんてない。サクヤの言うとおりだ。こんなことで村の誰かが傷つくなんて絶対にダメだ。

「とにかく。あんまり時間はないわ。こっちには、体の弱いおじいちゃんやおばあちゃんに、ちいさな子どもや病気の人たちだっているんだから。大した人数じゃなくても、移動にはかなりの時間がかかるはず」
「すぐに移動を始めたほうがいいな」ケントも言う。
「そちらの輸送船を回してもらうことは可能なのでござるか」これはコジロウだ。
 《当然である。最速で準備させよう。必要な人数の枠を教えてもらいたい》
「わかった」ハルトがはっきりとうなずく。
「……そ、そうだな。それは早い方がいいよな。でも──」 

 そこでリョウマは、ぐっとみんなを見回した。

「俺は……ごめん。そっちのことは手伝えない。あいつの捜索に参加したい」
「リョウマ! なに言ってんのよ!」

 驚いたのはサクヤだけではなかった。《レンジャー》のみんなもダンパも、そして水晶の画像の中のトリーフォンも、一瞬沈黙してリョウマをじっと見つめた。

「本当にごめん! でも俺、まだ信じられない。あいつが本当にいなくなっちまったなんて、どうしても信じられないんだ。あいつはきっと、俺たちにはわからない方法で生き残ってるんじゃないかって気がしてしょうがない。ただの勘だろって言われりゃそうだ。でも、どうしても……これはどうしようもねえんだ」
「リョウマ……」
「本当は、村のみんなのこと、この魔王国のこと、もっと手伝わなきゃなんないのはわかってる。一番大変なときだってことも。でも、ごめん。今は魔王の捜索に参加させてくれ。どうかお願いだ。みんな。それからトリーフォンのダンナ。どうか、頼む。この通りだ」

 言ってリョウマは、その場で深々と頭を下げた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?

一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう) 湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」 なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。 そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」 え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか? 戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。 DKの青春BL✨️ 2万弱の短編です。よろしくお願いします。 ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...