墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
133 / 208
第八章 邂逅

8 悪夢

しおりを挟む

 つぎに自分を認識したとき、リョウマの体はぼんやりとした灰色の、何もない空間に浮かんでいた。
 上もなく、下もない。それは宇宙空間にもちょっと似ていた。だが、肌と空気との境目がよくわからない。どこまでが自分で、どこからがそうでないのかがわからないのだ。それは不思議な感覚だった。
 しばらく、だらんと両腕を垂らしたままふわふわと浮かんでいたが、ふと気になって自分の腕をつねってみた。痛みもなにも感じなかった。

 リョウマはそのまま少しの間、ぼんやりとその空間にただよっていた。
 なにもしたくなかったし、考えたくもなかった。
 やがて、ゆらゆらと右左みぎひだりに揺れているうちに、目の前にぽっかりと円形の黒い穴が口を開けているのに気がついた。
 やっぱりなにも感じないまま、ぼうっとそれを見つめていたら、そこにあの恐るべき彗星の巨大な姿と、こちらに背を向けて彗星に腕を突き出している、《魔神》となった魔王の姿が浮かんできた。

 それでもしばらく、リョウマはそれが誰だったのか、なぜそんな場面が目の前に展開されているのかを理解することができなかった。だれかが理解と無理解の間に、分厚くやわらかな壁でも立ててしまったような感じだった。

 《魔神》がわずかに首をひねってこちらを見ている瞳は爬虫類そのままだった。それはひどく大きく、金色の光をたたえている。その顔は、到底人間のものとは似ても似つかぬものだった。どちらかといえば、架空の生物であるといういにしえの存在、「ドラゴン」などと呼ばれる者に似ているのかもしれなかった。
 そう考えた瞬間、《魔神》の背中に弓なりの骨格に囲まれて薄い皮膜をもった、ドラゴンの翼があることに気がついた。

 もとはつややかな銀色をしていた髪はカナクギのようにあちこちに跳ね、頭や首の後ろをぼうぼうと覆うたてがみになり、大きく裂けた口にはずらりと長い牙が生えそろっている。そんな非常に細かい部分まで、なぜかリョウマの瞳には明瞭に映し出されていた。
 あのとき、そこまでつぶさに彼を観察できたはずはない。
 そこでふと、こんな考えが浮かんできた。

(あの、とき……?)

 自分の思考に違和感を覚えて、ふと首をかしげる。
 まるで自分が、この場面を知っているかのようではないか。
 自分はこんな場面は知らない。あのドラゴンのような存在のことだって、なにも知らない。覚えがない。
 そんなことはどうでもいいから、早く《勇者の村》に帰りたい。帰って、仲間の《レンジャー》や村の人々とまた、あの地下の隠れ里で暮らすのだ。狩猟と採集と農作業、《レンジャー》としての訓練をおこないながら──。

 《……マ》

 どこか遠くで、なにかが聞こえる。

 《リョウマ……》
 《リョウマ様》

(うるさい)

 リョウマはぐっと眉根を寄せた。
 もう、放っておいてくれ。
 もう目覚めたくない。
 俺はこのままでいたいんだ。
 大事な、とても大事なものを失ってしまった自分の現実になんて、もう二度と戻りたくない……

(お願いだから……もう、放っておいてくれ)

「リョウマっ! しっかりしなさい! 起きるのよ、リョウマっ!」
いってえええ!」

 バチンという音とともに、両頬に激しい痛みを覚えて、リョウマは飛び上がった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...