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第八章 邂逅
2 変身
しおりを挟むリョウマは目を見開いた。
(エル……!)
それは久しぶりに見た、魔王エルケニヒの姿だった。
まだ小さくてよく見えないが、エルケニヒは特に宇宙服のようなものは着ていない様子だ。いつも通りの魔王としての衣服に見える。こちらに背を向け、両手を彗星に向けて伸ばし、強力な魔撃を何発も当てて軌道をずらそうとしているようだ。
と、次には凄まじい速度で移動して──それはほとんど瞬間移動に見えた──視界から消えてしまう。あせって探すと、今度は彗星の右上から魔撃を当てているのがうっすらと見えた。彗星の側面から、何度も衝撃を与えて軌道を逸らせようとしているらしい。
彗星はとにかく、非常に巨大だった。地球の衛星である月よりも大きく、地球よりは小さいぐらいの大きさなのだという。遠方から見ているのでなければ、そしてそれが恐るべきスピードで宇宙を駆けているのでなければ、どこかの惑星だと勘違いするほどには大きかった。
これまでに受けた説明では、四天王将軍ダイダロスが、それでも魔撃によって少しは質量を減らすことに成功したらしい。だが、それでもあの大きさだというのだから驚きだった。
あんなものが地球にまともにぶつかったら、ただで済むはずがない。きっと地球はこなごなになって宇宙に四散してしまうだろう。
それらのことをひととおり見てとってから、リョウマは《レンジャー》たちに声をかけた。
「んじゃ、行くぜ。用意はいいか? みんな!」
《ラジャー!》
全員が声をそろえて答えてくれる。
リョウマは腰のポケットから水晶を取り出して片手に握り、精神を集中させてから叫んだ。
「《武神鎧装》っ!」
体の中心がカッと熱くなり、全身の細胞が沸騰して一度ばらばらに分解され、凄まじいスピードで再構築されていく。毎回、そのときにだけは少しの痛みを伴うが、《鎧装》が完了したときの何ともいえないさわやかで力に満ちた感覚はほかのものには替えがたい。
《鎧装》は、そのとき着ていたものも含めてすべてをいったん原子の状態に戻し、なおかつ再構築させて《BLレッド》としての紅いスーツに作り替える作業だ。もちろんそれだけではスーツにならないので、そこは《勇者パワー》が補ってくれる。
すべてが終わったことを確認して、リョウマは自分で決めた変身ポーズを決め、己の名乗りをあげた。
「紅き炎は正義の鉄槌!《BLレッド》!」
仲間たちもつぎつぎと自分の《鎧装》に変わり、名乗りをあげていく。
「蒼き刃は決意の斬撃!《BLブルー》!」
「黄金の輝きは希望の光!《BLイエロー》!」
「桃色の剣は疾駆する翼!《BLピンク》!」
「疾きこと、風の如し。猛き勇者の漆黒の剣、《BLブラック》!」
幸い、だれも失敗はしなかった。みんないつも通りの勇ましい《レンジャー》姿だ。
ひさしぶりに五人そろっての変身に、知らず胸が熱くなる。本当に久しぶりだ。そして安心する。こんなにも一緒にいて安堵できる仲間は他では決して得られないだろう。
ひとまずはホッと胸をなでおろし、リョウマは気を引き締めなおすと、ぎゅっと前方に視線を戻した。
「ええっと……こうかな? う、うわわわわっ」
《ちょっとリョウマ! 大丈夫? そうじゃないわよっ》
《勇者パワー》が使えるようになった自分たちは、真空の宇宙空間でも自在に動き回ることができる。と、そう聞いてはいたが、やってみると意外に難しかった。地球上で空を飛ぶのとはかなり勝手が違うのだ。そのあたりの力加減やコツのようなものは、先輩レンジャーであるムサシが《勇者の村》にいたメンバーにこと細かに説明し、直接レクチャーもしてくれていた。
直接その手ほどきを受けることができなかったリョウマは、最初のうちこそとんでもない方向へ飛び出してみたり、同じ場所でくるくる回ってしまったりしてわたわたしてしまった。が、サクヤが厳しくも的確にレクチャーしてくれたおかげで、なんとか思うように飛べるようになった。
悔しいことに、それだけのことに三分は使ってしまう。これでも十分早いほうなのだが、今は一分一秒が惜しいのだ。
「ありがと、サクヤ。じゃあ、行くぜ! みんな!」
《おうっ》
五人はV字のフォーメーションをとり、そろって魔王に向かって飛んだ。少し遅れてダンパも続く。
自分たちがそうするうちにも、魔王はとんでもないスピードで宇宙を駆ける彗星に追いすがりながらあちらこちらへと飛び動き、凄まじい魔撃を発して軌道を変えようと努力していた。
近づくにつれ、彗星全体が発する圧力がさらに増し、耳の奥にごうごうと嵐のような音が巻き起こってきた。
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