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第八章 邂逅

1 水晶

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 作戦宙域の到着した艦隊は、すぐさま魔王の旗艦《エルケニヒ》と連絡をとりあった。
 予想していたことだったが、魔王はすでに単身、宇宙空間へと飛び出したあとだった。

(くそっ、エルのやつ……!)

 リョウマは歯噛はがみしながらスペース・スーツの上にかぶるヘルメットを着用している。
 ここは重巡洋艦内の後方にある、比較的小さなエアロック・スペースだ。ほかの《レンジャー》たちもそれぞれスペース・スーツ姿に着替えて準備万端整えている。
 実はここに、あの近衛隊隊長、ダンパもいた。彼はどんなにリョウマが「さすがに危ないから、もう俺から離れてくれ」とお願いしても、「自分はリョウマ様の護衛にございますゆえ」と言うばかりで、決してうんと言ってくれなかったのだ。仕方なく、「スペース・スーツを着てちゃんと距離を取っておくこと」という条件つきで許すしかなかった。
 宇宙空間では空気が存在しないため声での伝達は難しくなるというので、まずは手首の端末を操作してヘルメット内の通信装置をオンにした。

「みんな、聞こえるか?」
「ああ、問題ない」
「スペース・スーツのセキュリティシステムもオンになってるな?」
「大丈夫よ」
「ぼくも大丈夫」
「問題なしにござるよ、リョウマ殿」
「例の水晶、みんな忘れずに持ってるな?」
「ああ」

 答えたのは《ブルー》のケントだけだったが、みな腰のポケットから水晶を出してこちらに見せてきた。リョウマはうなずく。

「《鎧装》も、大丈夫だな?」
「ええ。任せて」答えたのはサクヤ。

 この小さな水晶は、トリーフォンが特別に準備してくれたものだった。
 魔王国の人々は、魔力をこの装置に籠めることによって持ち運びができるようにしているそうだ。実はリョウマはあの時、この装置を《勇者の村》近辺にしか存在しない《勇者パワー》でも同じようにできないかと、彼に相談したのである。
 トリーフォンは魔王国にいるありとあらゆる科学者、技術者の知恵を総動員して、最短でこちらの装置を作り上げてくれたのだ。まあ彼は「言い訳をするわけではないが、なにしろ時間がなく、いわゆる『やっつけ仕事』なのでな。安全性や信頼性においては決して自慢できたものではない。そこは許してもらいたい」とは言っていたが。

 通常の《武神鎧装》とは違い、この水晶を使っての変身には時間制限がかかる。どんなにもっても六十分が限度だ。だから自分たちはなんとかその間に、彗星の軌道を変えるなり粉砕するなりし、魔王をしっかりと救出しなくてはならない。

 みんな、一度は故郷で練習をしてきてくれているはずだったが、そうだとしてもほとんど「ぶっつけ本番」に近い状態だ。とはいえ、もはや失敗は許されない。みんながそれぞれにうなずき返してきたのを確認してから、リョウマはにっと笑ってみんなに向かって親指を立てた。

「さすがは《レンジャー》だ。そんじゃ、よろしく頼むぜ」
「了解だ」

 うなずき合ってものの五分も経たないうちに、内部スピーカーに重巡洋艦の艦長の声が届いた。

 《では、エアロックを開きます。《レンジャー》の皆様、用意はよろしいか》
「おう。いつでもいいぜ」

 リョウマの返事を受けてから三十秒ほど待って、みんなの体が宙に浮き始めた。エアロック内の重力装置がオフになったのだ。それから、ようやく大きな円形の分厚いエアロックが開きはじめた。

 《それではみなさま、御武運を》
「うん。ありがとう」

 ダンパがひそかに呪文を唱え、自分の周囲に魔力の《バリア》を張り巡らせる。かれらは単純に宇宙服でいるだけでなく、こうやってわが身を守るらしい。
 《レンジャー》五名とダンパは、エアロック内の壁面を慎重に押しながら、真空かつ無重力の世界へと自分の体を押し出した。

 漆黒の絨毯がしきつめられた上に、不自然に思えるほどの星の光がばらまかれている。地球上で見る星との違いはなにより、星々がまたたかないことだろう。
 リョウマたちはスペース・スーツに備え付けられている推進装置を使い、彗星と魔王がいるはずのポイントを慎重に見定めてから、そちらに飛び出した。

「うおっ……」

 パネルを操作すると、両腰のあたりから突き出してきた棒のようなものの先から小さな光が現れて体を前に押し出してくれる。一度それを行うだけで、すうっと体が前へ進んだ。
 眼前にはすでにおどろおどろしいほどの彗星の頭が見えている。
 そちらへ次第に近づいていくと、やがて巨大なその光の中心部に、ぽつんと小さな影が見えた。
 リョウマは目を見開いた。

(エル……!)

 それは久しぶりに見た、魔王エルケニヒの姿だった。
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