上 下
124 / 170
第七章 共闘

17 再会

しおりを挟む

 さらに五日後。サクヤたちは昼夜兼行ちゅうやけんこうで《星間ジャンプ》を繰り返し、ほぼ最速でこちら宙域に到着した。最速でも十日と言われていたのだから、それを二日縮めたのはもはや偉業といっていい。その代わり、かれらを運んできた戦艦の人員の疲弊度はとんでもないことになっているらしかった。
 そうしてそれは《レンジャー》たち自身も例外ではなかった。

 護衛艦に乗って旗艦《トリーフォン》にやってきた仲間たちの久しぶりの顔を見て、リョウマは驚いた。みんな一様に青白く、必死に吐き気をこらえるような顔ばかりだ。ハルトなど足元がおぼつかなくて、犬顔をした士官に肩を貸してもらっているほど。
 リョウマはつい、おずおずと声をかけた。

「みんな、ひさしぶり。よく来てくれたな……大丈夫か?」
「だ、大丈夫……とは、言えないわね。悔しいけど」

 幽霊のように蒼白な顔色のサクヤだけがなんとか返事をしてくれたが、それはほとんど気力だけによるものに見えた。あとのみんなは軽くこちらに片手を上げたり、薄く微笑んだりするのが精いっぱいに見える。いますぐにでもベッドに倒れ込みたいところだろう。
 リョウマは胸に突きあげてくる熱いものをこらえるのに苦労した。

(みんな……)

 全員、「地球のため」「みんなのため」そして「リョウマのため」と思ってここまでして来てくれたのだ。それはわざわざ説明されるまでもないことだった。

「みんな……本当にありがとな。大変だったろ。お疲れ様。まずはしっかり休んでくれ。ほかの兵士のみんなも、作戦の前にまずしっかり休養を取ってくれ。これはトリーフォンのダンナからの命令でもあるからな」
「了解いたしました。お気遣いありがとう存じます、リョウマ殿。しばしお言葉に甘えさせていただきます」

 犬顔の士官が、ピッときれいな敬礼を返してから去っていく。彼の代わりにハルトに肩を貸して、リョウマはみんなを事前に準備された《レンジャー》のための居室に連れていった。

 まずはそれぞれ、ベッドやソファに楽な姿勢で落ち着いてもらい、今後の動きについてリョウマから説明して、その日は個々の部屋へ解散となった。ともかく今回の件では、《レンジャー》たちが万全の体調で作戦に赴くことが最重要だ。
 そのためには、休むことも非常に重要。あの鷲顔の将軍トリーフォンは兵士の休養の重要性をよく理解していて、「最悪、気絶させてもよいから眠らせろ」とまで言ったのだ。

 翌日になってようやく、全員がトリーフォンの執務室に集合することになった。一日ゆっくりと休養をとったことで、明らかに仲間のみんなの顔色はよくなっている。それを見てほっとするとともに、リョウマは気を引き締めた。

「まずは《レンジャー》の皆々には、久しぶりと申しておこう」

 場にいるのはリョウマを含む《レンジャー》五名とダンパ、トリーフォンとその側近らしき上級将校たちが三名だ。いずれもこれまで見たことのある顔だった。
 トリーフォンは自分の執務机の前に座り、《レンジャー》たちは来客用のソファセットに座っている。将校とダンパは立ったままだ。
 まず簡単な挨拶のあと、トリーフォンが口火を切った。

「一応、先に確認させていただこう。過去にはお互い色々とあった身ではあるが、今は非常時。過去の遺恨についてはお互い不問ということで構わぬな?」
「もちろんだ」リョウマが言った。「今はそんなこと言ってる場合じゃねえ。だな、みんな?」
「うん」
「ああ」
「そりゃそうよ」
「地球のためでござる。当然にござるよ」

 《レンジャー》たちがそれぞれにうなずく。
 トリーフォンは重々しくうなずくと、側近の一人に目配せをした。側近が一礼して壁の一部を操作すると、目の前に緑色に光る画像が映し出された。リョウマにとってはすでに見慣れた光景だが、ほかの四名はまだ驚いた表情を隠せぬ様子だ。

「こちらが、我が艦隊の現在地点。そしてこちらが問題の彗星。魔王陛下の旗艦と護衛艦等々がこちらだ」

 トリーフォンが語るのに合わせて、画像の上の光る点がそれぞれ赤く明滅していく。それぞれの距離がよくわからないが、将校が追加で説明をしてくれた。いずれも《星間ジャンプ》一回で到達できるほどの距離なのだという。

「彗星は恐るべき速さで宇宙空間を飛んでおり、刻一刻と地球に向かっている。速度はほぼ一定ゆえ、軌道の計算は難しくない。ただ問題は、陛下が一刻も早く彗星を止めるべく動いておられるということだ」
「エルが? 今はどうなってんだよ」

 リョウマのぞんざいな話し方に、側近士官の一人がじろりとこちらを睨んだが、そんなものを意に介している暇はない。トリーフォン自身も、とうにこの件については慣れてしまったらしく、今にも文句を言いそうになった士官を即座に片手でとどめただけだった。

「陛下の戦艦《エルケニヒ》の乗員からの情報によれば、陛下はすぐにも彗星殲滅のために出発しようとなさっているとのこと」
「なんだって……! じゃあ、俺らもすぐにそっちに行かなきゃ」
「その通りだ。今、あちらの戦艦と《星間ジャンプ》の最適ポイントについて話し合っている。折り合いがつき次第、こちらの《ジャンプ》を開始する。そなたらは、そこからすぐにも陛下のサポートに回ってほしい。できるか?」
「できるか、できねえかじゃねえだろ。やるっきゃねえよ」
「《ジャンプ》酔いについては大丈夫か。そちらはあれには不慣れであろう」
「一回ぐらいならなんとかなるわよ。昨日のあれは、昼も夜もなく十回以上もくりかえされたからだし。ね、そうよね、みんな?」とサクヤ。
「ああ」
「左様にござる」
「い、一回なら、なんとか……」

 最後の気弱な発言はもちろんハルト。彼はまだ少し顔色がよくなかった。
 不安要素はあるが、やはり時間は惜しい。ハルトには申し訳なかったが、最終的に《ジャンプ》は翌日の朝いちばんに、ということに決まった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

処理中です...