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第七章 共闘
16 ミッションT
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「ちょっと待てよ。それ……エル、死ぬかもしれねえってこと……?」
「その可能性は大きい」
「そんなっ……!」
目の前が一瞬暗くなり、イヤな汗が背中を伝いおちた。
「リョウマ様」
ダンパが、よろけそうになったリョウマの腕をとって軽く支えてくれる。激しく痛む頭をおさえて、リョウマは唸った。
「そんなん……ぜってー許さねえ」
「その通りだ。われらもまったく同じ思いよ」
トリーフォンが机の上で手を組み合わせ、今まで見たことのないような瞳の色をして深くうなずき返してきた。
「我らが陛下を失うなど、決してあってはならぬこと。それはもはや、魔王国だとか《勇者の村》だとかで争っているレベルの問題ではない。地球全体の問題であり、地球人類と生物全部の問題なのだ。……あの方を失うわけにはいかぬ。地球の未来のための大いなる損失だ。それだけは絶対にならぬのだ」
「あったりまえよ!」
「だからこそ、そなたの力に期待する」
「……え」
「いや、『そなたの』と言うよりも『《レンジャー》たちの』と申すべきかもしれぬ。……お仲間の四名は、あとどのぐらいでこちらに着く予定か」
「あ。えっと……最低でも、あと十日はかかると思う。村人を全員連れてくるのに手間取ってるみたいだったし」
「そうか」
トリーフォンがやや難しい顔になった。
「事情は理解する。が、なるべく急がせてほしい。民間船については四天王将軍サムエルがすべて管轄してくれておるゆえ、任せておけば大丈夫だ」
「そうか……」
民間船のみんなについては、数日の宇宙ピクニックを経て、すでに建設されている火星の人口居留地へ移動することになっている。
火星は銀河系の中でもっとも地球と環境が似ている惑星なのだそうだ。そこを地球の環境になるべく近づける作戦を《ミッションT》と呼称している。こうした活動を「テラフォーミング」と呼ぶらしく、その頭文字をとったのだそうだ。
すでに数十年をかけて建設されたそこは、数百万人の人々を数か月間生活させるだけのポテンシャルを持っているという。
「わかった。ありがとう」
「うむ。《レンジャー》到着の具体的な日時がわかれば速やかにこちらへ報告してくれ。あらためて細かく作戦を立てる。こちらも、陛下のこと、彗星のことで新たな情報があればそちらに逐次報告させるゆえ」
「うん。よろしく頼むぜ」
胃の腑にずっしりと重たいものを覚えつつ、リョウマはダンパとともにトリーフォンの執務室をあとにした。
(エル……)
とにかく、無事でいてほしい。
いま、リョウマがひたすらに願うのはそのことだった。
(怪我なんかすんなよ。もうちょっと待ってろ。お前だけ、ひとりで勝手に彗星につっこんでいったりしたら承知しねえ)
せめて自分がその場所に行き、お前の顔を拝めるときまでは。
唇をかみしめ、ぎゅっとなにかをこらえて張り詰めたリョウマの背中を、ダンパは背後から静かにじっと見つめていた。
◇
待ちわびた《レンジャー》たちからの連絡が入ったのは、それから三日後のことだった。
最も出発が遅れていたケントとハルトもようやくのことで《勇者の村》の最後のひとりをなんとか宇宙船に乗せ、途中で戦艦に乗り換えてこちらへ向かっているとのことだ。サクヤとコジロウはもう少し早く、すでに昨日連絡が入ったところだった。
「とにかく急いでくれ。エル……魔王の野郎が勝手にひとりで暴走してんだ」
必死にいつもどおりの声をだそうとしたのに、語尾がつい震えてしまった。耳敏いサクヤはすぐにそれに気づいたようだったが、敢えて何も言わず、淡々と今後の予定について報告してきただけだった。
《待たせて悪いわね、リーダー。五人あつまったらすぐ、例のヤツをやってみるんでしょ? 準備はちゃんと整ってんの?》
「ったりめーだ。そっちも練習を怠んなよ」
《はんっ。だぁれに言ってんのよ!》
《サ、サクヤどの……》
サクヤの高笑いに、困ったようなコジロウの声がかぶさる。
やっぱり仲間の声を聞くとほっとする。サクヤが敢えて空気を明るくしてくれようとしているのはわかっていた。リョウマは遠慮なく、それに乗せてもらうことにした。
「ったく。自信過剰はロクなことになんねえぜー。みんな一発勝負みてえなもんだからな。十分用心して、準備もしとくんだぜ。わかったな」
《わかってるわよ! あんたも恋人が心配なのはわかるけど、メソメソしてないでしっかりしてよ? リーダー!》
「めっ、メソメソなんてしてねーわ! むしろ、めっちゃ怒ってんだかんな、俺は!」
《はいはい。とにかく、もうちょっとだけ待っててね~》
そこで指輪の通信は切れ、自室は静まり返った。
(頼む、みんな……)
はやく、一刻もはやく。
いまやだれより大事な人になってしまった、俺の魔王を助けにいくために。
「その可能性は大きい」
「そんなっ……!」
目の前が一瞬暗くなり、イヤな汗が背中を伝いおちた。
「リョウマ様」
ダンパが、よろけそうになったリョウマの腕をとって軽く支えてくれる。激しく痛む頭をおさえて、リョウマは唸った。
「そんなん……ぜってー許さねえ」
「その通りだ。われらもまったく同じ思いよ」
トリーフォンが机の上で手を組み合わせ、今まで見たことのないような瞳の色をして深くうなずき返してきた。
「我らが陛下を失うなど、決してあってはならぬこと。それはもはや、魔王国だとか《勇者の村》だとかで争っているレベルの問題ではない。地球全体の問題であり、地球人類と生物全部の問題なのだ。……あの方を失うわけにはいかぬ。地球の未来のための大いなる損失だ。それだけは絶対にならぬのだ」
「あったりまえよ!」
「だからこそ、そなたの力に期待する」
「……え」
「いや、『そなたの』と言うよりも『《レンジャー》たちの』と申すべきかもしれぬ。……お仲間の四名は、あとどのぐらいでこちらに着く予定か」
「あ。えっと……最低でも、あと十日はかかると思う。村人を全員連れてくるのに手間取ってるみたいだったし」
「そうか」
トリーフォンがやや難しい顔になった。
「事情は理解する。が、なるべく急がせてほしい。民間船については四天王将軍サムエルがすべて管轄してくれておるゆえ、任せておけば大丈夫だ」
「そうか……」
民間船のみんなについては、数日の宇宙ピクニックを経て、すでに建設されている火星の人口居留地へ移動することになっている。
火星は銀河系の中でもっとも地球と環境が似ている惑星なのだそうだ。そこを地球の環境になるべく近づける作戦を《ミッションT》と呼称している。こうした活動を「テラフォーミング」と呼ぶらしく、その頭文字をとったのだそうだ。
すでに数十年をかけて建設されたそこは、数百万人の人々を数か月間生活させるだけのポテンシャルを持っているという。
「わかった。ありがとう」
「うむ。《レンジャー》到着の具体的な日時がわかれば速やかにこちらへ報告してくれ。あらためて細かく作戦を立てる。こちらも、陛下のこと、彗星のことで新たな情報があればそちらに逐次報告させるゆえ」
「うん。よろしく頼むぜ」
胃の腑にずっしりと重たいものを覚えつつ、リョウマはダンパとともにトリーフォンの執務室をあとにした。
(エル……)
とにかく、無事でいてほしい。
いま、リョウマがひたすらに願うのはそのことだった。
(怪我なんかすんなよ。もうちょっと待ってろ。お前だけ、ひとりで勝手に彗星につっこんでいったりしたら承知しねえ)
せめて自分がその場所に行き、お前の顔を拝めるときまでは。
唇をかみしめ、ぎゅっとなにかをこらえて張り詰めたリョウマの背中を、ダンパは背後から静かにじっと見つめていた。
◇
待ちわびた《レンジャー》たちからの連絡が入ったのは、それから三日後のことだった。
最も出発が遅れていたケントとハルトもようやくのことで《勇者の村》の最後のひとりをなんとか宇宙船に乗せ、途中で戦艦に乗り換えてこちらへ向かっているとのことだ。サクヤとコジロウはもう少し早く、すでに昨日連絡が入ったところだった。
「とにかく急いでくれ。エル……魔王の野郎が勝手にひとりで暴走してんだ」
必死にいつもどおりの声をだそうとしたのに、語尾がつい震えてしまった。耳敏いサクヤはすぐにそれに気づいたようだったが、敢えて何も言わず、淡々と今後の予定について報告してきただけだった。
《待たせて悪いわね、リーダー。五人あつまったらすぐ、例のヤツをやってみるんでしょ? 準備はちゃんと整ってんの?》
「ったりめーだ。そっちも練習を怠んなよ」
《はんっ。だぁれに言ってんのよ!》
《サ、サクヤどの……》
サクヤの高笑いに、困ったようなコジロウの声がかぶさる。
やっぱり仲間の声を聞くとほっとする。サクヤが敢えて空気を明るくしてくれようとしているのはわかっていた。リョウマは遠慮なく、それに乗せてもらうことにした。
「ったく。自信過剰はロクなことになんねえぜー。みんな一発勝負みてえなもんだからな。十分用心して、準備もしとくんだぜ。わかったな」
《わかってるわよ! あんたも恋人が心配なのはわかるけど、メソメソしてないでしっかりしてよ? リーダー!》
「めっ、メソメソなんてしてねーわ! むしろ、めっちゃ怒ってんだかんな、俺は!」
《はいはい。とにかく、もうちょっとだけ待っててね~》
そこで指輪の通信は切れ、自室は静まり返った。
(頼む、みんな……)
はやく、一刻もはやく。
いまやだれより大事な人になってしまった、俺の魔王を助けにいくために。
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