120 / 208
第七章 共闘
13 惚気
しおりを挟む「ぐっは……参った。結構キツかったな」
「固定ベルトを外してよい」という艦内放送がかかってほっとしたのと同時に、リョウマはぐたりとベッドに倒れこんだ。ひどい吐き気と眩暈が襲ってきていた。
「大事ありませぬか、リョウマ様」
ごく平気そうなダンパは、さすがは軍人というべきか。こういうことも、とっくに訓練済みなのだろう。
一応、事前に彼から説明は受けていたのだが、発進時にかかるGは想像以上に重かった。民間船で一般民を運ぶ場合はもっとゆるやかに段階を踏んで宇宙空間へ出るらしいが、これは戦艦だ。まして非常時。とにかく時間をムダにできないということで、地表から一気に宇宙空間へ出たため、かなりのGを感じることになったのである。
「ごめん。ゆうべ、あんま寝てないのもよくなかったんだろな」
顔を手のひらでゴシゴシこすり、吐き気をこらえながら言うと、ダンパは心配そうに「そうでしたか」とうなずき、また壁を操作して、冷たいタオルを取り出すとリョウマの額にあてがってくれた。すっとして、少しだけ気分がよくなる。
「しばらくご休憩ください。自分はしばし、所要のため外へ出ます。鍵はロックしていきますので、自分以外の誰が来ても出ないようになさってください」
「わかった」
答えてダンパを見送り、しばらくベッドでうつらうつらとしたときだった。
紅石の指輪から仲間の声が聞こえてきた。
《リョウマ。聞こえるか? リョウマ》
「え……。あっ。ケ、ケントか?」
《大丈夫か? 声が……》
自分を長年「許嫁だ」と思ってきてくれただけのことはあるのか、ケントは即座にリョウマの声に元気がないことを聞き分けたらしい。素直に凄いが、ちょっと怖い気もする。
「ん……ちょっとGに負けた。カッコ悪い……」
《そんなことはない。民間機に乗っている俺たちより、そっちはキツいと聞いてるし。すまないな、そんなときに連絡して》
「いや。話ぐらいならできるわ、横になってるし。ちょうどダンパさんもいねーし、続けてくれよ」
《……わ、わかった》
ケントによると、あれからまず希望する村民をつれて、《勇者の村》避難船の第一陣が出発したのだそうだ。ゲンゴとケントはそれに乗り、残った村民たちはムサシとハルトが担当することになったらしい。最終的には茶などに睡眠薬を混ぜてでも、お年寄りたちをつれて逃げることになったそうだ。
「そっか……。うまくいくといいな」
《ああ。それから、ムサシ翁からお前にも託けを預かっている。今から言うから、よく覚えておくんだぞ》
「ああ、わかった」
それからリョウマは、ダンパが戻ってくるまでムサシからの伝言を熱心に聞き、しっかりと記憶に刻んだ。
それはこれから恐らく非常に重要になる知識、《BLレッド》としての知識だった。話を聞いているうちに、リョウマの体調も次第に回復してきた。
《ムサシ殿からの託けはここまでだ。……えっと、それでな。リョウマ》
「……うん?」
返事をしたのに、ケントはしばらく逡巡した様子だった。
《……その。聞いておきたいことがあったんだ。お前に》
「なんだよ」
それでもまた沈黙が続く。リョウマは溜息をついた。
「なんだってんだよ。さっさと言わねーと、いい加減ダンパさんが戻ってきちまうんだけど」
《あ……うん。えっとな。魔王のこと……なんだが》
「エルのこと?」
《ああ。その……リョウマ、お前な》
「うん」
《本当に……本気なんだよな?》
「え? どーゆーこったよ」
《だからっ》
急にケントの声が悲壮なものになって、リョウマは驚いた。
《あいつに、俺らや村のみんなのことで、脅されて……それで王配なんかにならされてるとかじゃないんだよな?》
「は? なわけねーじゃん」
なるほど、そういうことか。
ケントはケントなりに、リョウマのことを心配してくれていたらしい。
「残念だけど、そういうのは一切ねえよ。魔王の野郎、よくわかんねーけど俺にベタ惚れなんだよちょっと引くぐらいによー」
こんな風に言うとなんだか惚気ているような気がして、言っているうちに勝手に耳が熱くなってきた。ケントは「そうなのか?」と少し疑るような声で返事をしてきた。
「そうだよー。もし俺が『てめえなんて大嫌えだ、あっちいけ。一生顔も見たくねえ』とか言ったら泣くんじゃね? 下手すりゃブチ切れて全世界を滅ぼしちゃったりしてな~」
いや本当にやりそうで、ちょっと怖いが。ケントが向こうで呆気にとられたのがわかる。
《……マジかよ》
「マジマジ。ほんと、なんか俺のことになると急に判断力がアホみてえに下がるんだよ、ガキみてえにな。笑っちまうわ」
ケントがまたもやしばし沈黙した。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる