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第七章 共闘
12 旗艦《トリーフォン》
しおりを挟む結局、一睡もできないままに朝を迎えた。
早朝からダンパとトリーフォンがやってきて、最終的に細かな打ち合わせを行い、かねて準備してあった変装をして魔王城を出た。
方法は簡単。
トリーフォンが従えてきた部下の兵士がリョウマの身代わりとなり、「体調が悪い」ということにして寝台にもぐりこんでもらう。リョウマ自身はその兵士と衣服を取り換え、トリーフォン、ダンパとともにその場を離れる。
ダンパも目立つ見た目をしている上、こちらは部屋にこもっているわけにも行かず、「事情により一時的にほかの近衛兵と護衛を交代した」という形をとった。
(しっかし、この変装よお……)
実は事前の相談中から不満だったが、やっぱり気に入らない。
リョウマと入れ替わってくれた兵士は、とても可愛い鳥の顔をしていた。確か「シマエナガ」とか言っていたかと思う。夏毛と冬毛では姿が変わる鳥らしいのだが、今はぽわぽわした白い冬毛で、くるんとした愛くるしい瞳がとても可愛らしい鳥だ。
というわけで人間としての顔を隠すため、リョウマはそのシマエナガのマスクをかぶって魔王軍の軍服を着込んだ状態なのである。気温は高くないが、それでも顔が蒸れてかなり暑かった。
魔王城でのトリーフォンとダンパへの信頼はとんでもなく篤く、警備兵たちはみな一様に敬礼を送ってくるだけで、一行はなんの問題もなく魔王城を出ることができた。そこからは小型の飛行艇を使い、まっすぐに宇宙港へ向かう。
自分はトリーフォンの護衛という立場なので、その間もずっと将軍の斜め後ろを歩いてついていった。すぐ脇には常にダンパがついてくれている。
トリーフォンが乗る船は、民たちを誘導した遊覧船のような丸いものとは違い、いわゆる「宇宙戦艦」だった。基本的に彼が乗る船であるため、艦名はそのまま《トリーフォン》と呼称されているという。今回は《トリーフォン》を旗艦とし、ほかに十隻の巡洋艦と駆逐艦つづくことになっている。
周囲にも乗降口にも、多くの魔王国軍兵士らが警備についており、みなトリーフォンの顔を見るなりビシッと姿勢を正して敬礼してくる。
トリーフォンは乗降タラップをのぼり、将校クラスの士官には敬礼を返しつつ、大股に艦内に入っていった。
その後、そのまままっすぐに兵士たちの私室エリアからは少し離れた区画の小さな部屋に案内された。兵士たちの部屋はもっと狭いものらしいが、こちらは比較的大きい部屋だという。大股で歩いても一辺が十歩はある四角い部屋だった。ベッドの数を見る限り、二人用のようだ。
トリーフォンは全体の指揮を執るべく艦橋へ向かったため、ようやくダンパと二人きりになれて、リョウマはすぐにマスクを脱いだ。
「ふう……あっつ」
「お疲れ様でした、リョウマ様。さ、こちらを」
ダンパが壁にあるパネルを操作すると、壁の一部が小さく開いてパックに入った飲み物が出てきた。上部に短いストローが付いている、やわらかい袋状のパックだ。飲んでみると、入っていたのは冷たい水だった。ついつい、一気に飲み干してしまう。
それにしても、なかなか珍しいものが多い。宇宙戦艦に乗ったのなんてこれが初めてなのだから当たり前だが。
作り付けのテーブルや椅子、壁に穴をあけて作ったようにみえるベッド。トイレやシャワー室へ向かうドアもあり、ここにいるだけで生活には困らなさそうだ。それらをあれこれ観察してみて、リョウマはいちいち感嘆の声をあげた。
「やっぱ、すっげえなあ……お前らのとこの技術力って。今更だけど、マジでかなわねえや」
ダンパはそれには答えず、部屋の内部をあちこちチェックしつつ、リョウマに使い方を説明してくれた。
「お食事もこちらで出せます。兵らが使う食堂もございますが、リョウマ様のお顔を知る者もおりますゆえ、お使いにならないほうがよろしいでしょう。こちらでこのように、お好きなメニューを出せるようになっており──」
「へええ」
「船の発進時には体を固定させることが義務づけられております。私室にいる者はベッドに体を固定させます。このように、このボタンを押すと出てくるこちらのベルトを着用いたします」
「ほおお」
「リョウマ様の身の安全を確保するため、しばらくは自分と同室になりまするが……どうかご容赦を」
「え、そんなの当たり前だろ?」
見れば、ダンパが思っていた以上に申し訳なさそうにしていてびっくりした。
「いえ。本来なら許されぬこと。あなた様は魔王陛下の配殿下でいらっしゃるのですから」
「……あ、なるほど。そーゆーことね」
確かに、この状況を魔王が知ったらどんな顔をするかはちょっと気になる。あいつのことだ、どうせバカみたいに嫉妬してしまうのに違いない。
(どーせまた必死になって『本当になにもなかったのだな?』とか言ってきやがるんだぜあのバカは)
そう考えたら、なんだか笑えてきた。
と同時に、きゅんと胸が苦しくなった。
(あの顔を思い出すだけで苦しいって……どういうこったよ。アホか俺)
会えなくなってさほど経ったわけでもないのに、どうしてこんなにも、狂おしいほど会いたいと思ってしまうのだろう。
自分はもう、どうかしてしまっているのだ。もうすっかり。
なんで自分は、いつのまにかこんな気持ちになるようになってしまったのか。
リョウマはふっと苦笑して、ダンパに向きなおった。
「そんなアホなこと言ってる場合じゃねーだろ。いいんだよ、今は非常時なんだから。あいつが後でなんか言って来たら、俺が一発カマしてやっから心配しないでよ」
「……恐れ入ります」
そうして数時間後。
ついに艦内放送がかかり、旗艦《トリーフォン》は宇宙へ向けて発進した。
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