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第六章 迫りくるもの

18 魔法樹

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「うっ、あっ……も、無理、あ、ああっ……!」

 そういう予感はあったけれど、やっぱり先に白旗をげたのはリョウマだった。そこに至るまで、いったい何度自分がイッたのかもよくわからなくなっていたが。魔王は何度かリョウマの中で達し、腹が煮えそうなほど熱いものをぶちまけてくれた。
 そのたびに、リョウマは全身を震わせて感じた。とんでもない悦楽だった。
 体の細胞が全部、発光しながら一度霧散して、なかなか戻ってこないような気がした。

 腹いっぱいに注がれた魔王のそれは、まずは腰のあたりで充満し、次いでリョウマの全身に広がっていった。やっぱりすさまじい熱量で。

「はあ、はあ……あ、ふうう……」

 ベッドに体を投げ出して荒い息をつくことしかできなくなっているリョウマの体を、魔王は大事な宝物でも扱うようにして丁寧に拭き、汚れを取りさってくれた。ここでもまた、魔法がお役立ちであることがよくわかった。

「ふわあ……あんがと。てか、もうダメ……俺」
「すまない。初めてなのに、少々無理をさせすぎたな」
「いやあ……つうか、面目ねえ。これでも体力あるほうだと思ってたのによー。くっそー、ちょっと悔しい」
「ははは。今は《鎧装》できないのだから無理はない。《レッド》のそなたが相手なら、一体何ラウンドいけるのだろうな。それはそれで楽しみだ」
「どアホ。そんな想像すんなって~の」

 リョウマが少し落ち着いてきたところで、魔王は改めてリョウマを抱き上げ、湯殿に向かった。湯殿は魔王の寝室から直接行けるように、特別な通路が設けられている。その通路のどこにも使用人の姿はなかった。みんな、「魔王の下僕」として自分のをわきまえているらしい。
 湯殿の床にそっとおろされてはじめて、リョウマは自分の下半身の状態に驚いた。

「うっわ、マジか……立てねえ」
「うん。無理するな」

 なんだかすぐに生まれたての小鹿のように足を震わせてよろめいてしまい、非常に恥ずかしくなる。が、魔王は当然といった顔ですぐにまたリョウマを抱き上げ、湯舟に入った。そのまま「スポンジ」とかいうものを使い、丁寧にリョウマの体をきれいにしてくれる。
 心地よい疲労と眠気が襲ってきて、リョウマはもうほぼなすがまま、ぼんやりと体を魔王の手に預けていた。

「ああ……そろそろ浮かんできたな」
「んあ?」
「見えるようにして進ぜよう。しばし待て」

 魔王は満足げに微笑むと、リョウマを抱き上げ、自分とリョウマの体を拭きあげてから、巨大な姿見の前に立った。まだちゃんと立てないリョウマの腰をしっかりと支えて、自分の体が見えるようにしてくれる。

「うお。これが……?」
「そうだ」

 見れば自分の性器のあたりから、ぼんやりと桃色の木の枝のような模様が浮き上がっていた。いわゆる自然な木の枝のようではなく、くるくると繊細な曲線を描いた不思議な紋様だった。

「今は小さいし、まだ薄桃色だが。行為を重ねるごとに成長し、やがて濃紅色に変わってゆく。私の魔力による色は赤なのだ」
「へー。これが赤に……。ま、ちょうどいいやな。俺も《レッド》だし」
「なるほど。そうだな」

 魔王は言って、リョウマのおでこのあたりに上からちゅっとキスを落とした。

「後ろにも出ているぞ」
「えっ。後ろにもかよ!」

 くるりと体を反転させられて見れば、言われた通りだった。尻の穴があるあたりから、やっぱりぼんやりとした可憐な桃色の木──たしか《魔法樹》と呼ばれていた──の紋様が浮き出ている。

「うーん。両側ともって、なんかカッコ悪くね?」
「そうか? 男子の場合はこれが普通だがな」
「そーなん?」
「ああ」

 魔王はそのまま、前からリョウマを抱きしめて、頭頂部にまたキスをした。

「嬉しいぞ。これでそなたは名実ともに《魔王のもの》ということになった」
「ふ、ふーん……」

 なんだかちょっとくすぐったい。そんなに喜んでもらえるのはまあ、嬉しいが。というわけでまた例によってこっずかしさ隠しのための憎まれ口をききたくなった。

「てか、俺はなにがどうしようが『俺のもん』だっつーの。そんなにだれかのモンとか気になるんなら、てめえが俺のもんになれっつーのよ」
「もちろんだ。私は当然、そなたのものだよ、リョウマ」
「……あ、あうう。そ、そっか……」

 いきなり綺麗なカウンターパンチを食らって、絶句そして赤面するしかないリョウマだった。
 これはダメだ。絶対に勝てない。ほかでもないあの魔王から、悪意のかけらもない善意と好意でぶちかまされてしまうって、いったいどういう状況なんだ。なんとかしてくれ。

「愛してるぞ……リョウマ」
「うわ、うわわわわ。もう! いいからそれ、やめろってえええ!」
「あっははは!」

 必死で両耳をおさえたリョウマを、魔王は楽しげに高笑いしてガウンで包み、再びひょいと抱き上げた。そうしてそのまま、寝室への通路を穏やかな足取りで戻っていった。
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