墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第六章 迫りくるもの

3 和平の道

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 やがて景色は山間やまあいの緑多いものに変わってきた。その中に、明らかに魔法のドームで覆われて周囲から守られた区域が見えはじめた。

「あっ、見ろよハルト、コジロウ。あそこに見えるのが、俺が前に行った《保護区》だぜ」
「へ~! ずいぶんきれいなところだねえ」
「まことにござるなあ」

 ハルトとコジロウだけでなく、視察団の他の面々も首をのばし、興味深そうに《保護区》を見下ろす様子だ。

「思ってた以上に広いし、みんな、豊かに暮らしているように見えるね。あそこで暮らしてる人たちには、なにも問題はないの?」ハルトが言った。
「いや、そこまで詳しくはねーけど。でも、前にも言ったように小さいうちから魔都での教育も受けられるし、能力があればそっちで仕事もできて、けっこうな金も稼げるって言ってたぜ」
「ふ~ん……」
「ん。でも……もちろん、魔族からの差別が全然ねえとか、そういうわけじゃねえみてえだ。俺らなんて、こっちの人らとは違ってずっと《レンジャー》として魔族に抵抗してきたわけだしな。ここの人たちよりは、ずっと立場は難しいと思ってる」
「うん。それは、そうだよね……」

 ハルトがしばし考え込んだのと同様に、視察団の一同が、それぞれに難しい表情になった。リョウマは慌てて、敢えて明るい顔をしてみせた。

「でもま、考え方次第とも言えるだろーよ。これから少しずつ、お互いの誤解を解いたり、協力したり……努力は必要なんだと思う。どっちにもな。けど、今から後ろ向きに考えるのもどーかと思う。幸せになりてえんだったら、前向きに考えるにこしたこたぁねえと思ってるぜ、俺は」
「リョウマ」
「ほへっ?」
 急に隣から、そっと肩を抱き寄せられてびっくりした。もちろん魔王だ。そしてなんだかうれしそうだ。
「そなたの言う通りだ。努力は必要。どちらかが一方的に虐げられたり、努力しなければならぬ関係は不自然だ。結局そのような関係は長続きしない。それどころか、やがて争いの火種にもなるだろう。丁寧で継続的な努力が双方に求められる。そしてかなりの時間が必要だ。和平を成すというのは、そういうものだと私も思う」
「エル……」

 にっこり微笑まれて、なんだかほっとした。
 少なくとも、この男、魔王がそう考えてくれるというなら希望が持てるというものだ。もちろん、難しい問題は山積みだろうし、魔王が言うように不断の努力が求められるのだろうけれど。
 視察団の面々は、そんなふたりをじっと見つめ、何事かを考える様子だった。


 ◇


 リョウマたちの目指す新たな《保護区》までは、まだもう少し飛ぶ必要があった。旧《保護区》の住民たちとの間にムダな軋轢あつれきが生まれないようにという魔王側の配慮であるらしい。

「そろそろ見えてきたようだ。あれが、今回用意した場所だ」

 魔王がそう言って指さしたところに、先ほど見たのとよく似たような魔力の巨大なドームが見えていた。
 魔都からもそれだけ遠く、より自然豊かな地域の中にあるようだ。

「ほお」
「あれが……」

 ムサシとゲンゴが思わず声をあげた。浮き立つ気持ちを抑えているようだったが、それでもどうしても「希望」の二文字が声ににじんでいるように聞こえた。

「旧《保護区》と比べるとわずかに狭くなっているが、これはそちらの人口、年齢などを考慮して、このサイズにしてみた。要望があればまた広げることは可能なので交渉するがいい」

 魔王がそう言っているうちに、《飛翔》の魔方陣が滑るように降下していき、やがてドームの壁を抜けて地面に到達した。
 そこは広大な平地となっており、足元には豊かな草地が広がっている。みんなはそれぞれ、おそるおそる魔方陣から降りた。

「おお……」

 足裏に、ふわっとした草の感触がした。風の中に、土や植物が発する生々しい匂いが混ざりこんでいる。空はどこまでも高くて青く、美しい白い雲が輝いている。

「なんと……美しい」

 溜め息とともにムサシが言った。
 みんなの気持ちは、その言葉にすっかり集約されていた。
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