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第六章 迫りくるもの
2 視察行
しおりを挟む「あのさあ……大丈夫なの? おまえ」
「大丈夫とは?」
「いや、だからさ……」
《保護区》への出発に先立って魔王の臣下たちに準備させているほんのわずかな間に、リョウマは魔王の袖をひいて物陰へつれて行った。
押し隠してはいるようだが、やっぱり魔王の様子は変だ。どこか疲れているようにも見えるし、先日感じたあのどことなく寂しそうな様子も相変わらずである。ほかの者たちの目はごまかせているようだが、リョウマの目は騙されなかった。
が、どうせまっすぐ訊いても答えるはずもない。しかたなく、リョウマはこう言った。
「あんた魔王だろうが。忙しいのに、俺らの視察にまでついてくるヒマ、ねえんじゃねえかと思ってよ」
「なんの。そのために普段から優秀な臣下をそろえているのだ」
「んっ?」
答えながらぐい、と腰を抱き寄せられてびくっと体を竦ませた。そのまま顎を持ち上げられ、唇をふさがれてしまう。
「んんっ……ぷはっ! ちょ、おまっ……いきなりなにやってんだよっっ!」
「そなたと離れたくない。そばにいたいのだ。……よいであろう? リョウマ」
「う……うう~~~」
こう言われてしまったら、厳しく拒否するなんてもう無理だった。なによりリョウマだって、本心ではこの男といたいのだ。無理に邪険にするなんて、到底できない。
「あんま、人前でこーゆーことしねえんなら、まあ……」
「もちろんだ。人前でなければよいのだな? 感謝する。なるべく二人きりになれる時間を作るゆえ」
「そっ、そーゆーことを言ったんじゃねえええっ!」
といった一連のいつも通りのわちゃわちゃをしばらくやったところで、担当官が視察団移動の準備が整った旨を伝えに来て、リョウマも魔王とともにみんなのところに戻った。
前回は魔王自身が《飛翔》の魔法を使ってリョウマをつれていったが、今回は担当の魔法使い数名が案内役となっている。視察団の人数を考えると、そのぐらいの人員が必要らしい。
特殊な魔方陣の上に乗ったまま、みんなは宙に飛び上がり、そのまま空を飛び始めた。魔方陣の輝く円盤の上に立っているだけで、どんどん景色が変わっていく。周囲は魔力による壁で包まれているらしく、風を感じることはなかった。
リョウマの隣には常に魔王が立っている。現《レンジャー》であるハルトとコジロウ、それに先輩《レンジャー》であるムサシは空を飛んだ経験があるためそれ自体には驚いていなかったが、眼下に広がる魔都の豊かさにはかなり驚いた様子だった。
「ひいいっ」
「た、高い……っ」
ゲンゴと助手の青年たちについては、空を飛ぶことそのものが驚きらしい。青年たちはゲンゴの周りに集まり、すっかり青ざめて互いにしがみつきあっている。
飛行ルートはこちらに気を遣ったのか、魔都の上をしばらく旋回したあと、もともとある《保護区》の上空を通過するものにされていた。
魔都の上空では、視察団のみんなはリョウマが持ち帰った情報の一部を追認する形になった。みんな、魔都に住む人々の科学力の高度さ、生活の豊かさの一部をまざまざと見せつけられて、しばらくは声もなかった。特にゲンゴとムサシは、厳しい瞳で豊かそのものな魔都を見下ろしている様子だった。
それを目の端に捉えつつ、リョウマは「とにかく、なんとかうまくいくように」と、そっと胸の中で祈るのみだった。
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