91 / 214
第六章 迫りくるもの
2 視察行
しおりを挟む「あのさあ……大丈夫なの? おまえ」
「大丈夫とは?」
「いや、だからさ……」
《保護区》への出発に先立って魔王の臣下たちに準備させているほんのわずかな間に、リョウマは魔王の袖をひいて物陰へつれて行った。
押し隠してはいるようだが、やっぱり魔王の様子は変だ。どこか疲れているようにも見えるし、先日感じたあのどことなく寂しそうな様子も相変わらずである。ほかの者たちの目はごまかせているようだが、リョウマの目は騙されなかった。
が、どうせまっすぐ訊いても答えるはずもない。しかたなく、リョウマはこう言った。
「あんた魔王だろうが。忙しいのに、俺らの視察にまでついてくるヒマ、ねえんじゃねえかと思ってよ」
「なんの。そのために普段から優秀な臣下をそろえているのだ」
「んっ?」
答えながらぐい、と腰を抱き寄せられてびくっと体を竦ませた。そのまま顎を持ち上げられ、唇をふさがれてしまう。
「んんっ……ぷはっ! ちょ、おまっ……いきなりなにやってんだよっっ!」
「そなたと離れたくない。そばにいたいのだ。……よいであろう? リョウマ」
「う……うう~~~」
こう言われてしまったら、厳しく拒否するなんてもう無理だった。なによりリョウマだって、本心ではこの男といたいのだ。無理に邪険にするなんて、到底できない。
「あんま、人前でこーゆーことしねえんなら、まあ……」
「もちろんだ。人前でなければよいのだな? 感謝する。なるべく二人きりになれる時間を作るゆえ」
「そっ、そーゆーことを言ったんじゃねえええっ!」
といった一連のいつも通りのわちゃわちゃをしばらくやったところで、担当官が視察団移動の準備が整った旨を伝えに来て、リョウマも魔王とともにみんなのところに戻った。
前回は魔王自身が《飛翔》の魔法を使ってリョウマをつれていったが、今回は担当の魔法使い数名が案内役となっている。視察団の人数を考えると、そのぐらいの人員が必要らしい。
特殊な魔方陣の上に乗ったまま、みんなは宙に飛び上がり、そのまま空を飛び始めた。魔方陣の輝く円盤の上に立っているだけで、どんどん景色が変わっていく。周囲は魔力による壁で包まれているらしく、風を感じることはなかった。
リョウマの隣には常に魔王が立っている。現《レンジャー》であるハルトとコジロウ、それに先輩《レンジャー》であるムサシは空を飛んだ経験があるためそれ自体には驚いていなかったが、眼下に広がる魔都の豊かさにはかなり驚いた様子だった。
「ひいいっ」
「た、高い……っ」
ゲンゴと助手の青年たちについては、空を飛ぶことそのものが驚きらしい。青年たちはゲンゴの周りに集まり、すっかり青ざめて互いにしがみつきあっている。
飛行ルートはこちらに気を遣ったのか、魔都の上をしばらく旋回したあと、もともとある《保護区》の上空を通過するものにされていた。
魔都の上空では、視察団のみんなはリョウマが持ち帰った情報の一部を追認する形になった。みんな、魔都に住む人々の科学力の高度さ、生活の豊かさの一部をまざまざと見せつけられて、しばらくは声もなかった。特にゲンゴとムサシは、厳しい瞳で豊かそのものな魔都を見下ろしている様子だった。
それを目の端に捉えつつ、リョウマは「とにかく、なんとかうまくいくように」と、そっと胸の中で祈るのみだった。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる