83 / 138
第五章 和平会談
13 秘密の通信
しおりを挟む
《……リョウマ》
「へ? ひえええっ」
いきなり、墨書きのメモだらけの自分の手から魔王の声がして、リョウマは飛び上がった。
声が聞こえてきたのはもちろん、魔王にもらったあの赤い石のついた指輪からだった。
「なっ、なななな……エルケニヒっ? なんで、どーしてっ……」
《落ち着け。外にいるダンパに聞こえぬようにしろ》
「えっ。あ……うん」
慌てて声を潜めるが、とっくに聞かれてしまっているような気もした。が、つぎの言葉で安心する。
《案ずるな。この件はダンパにはすでに伝えてあるゆえ》
「あ。そーなんか……」
《早速だが、別条はないか。ひさびさの里帰りで少しは休めたか》
「あ、うん。今は自分ちに戻ってきて、今から寝るとこ。あっ、それより、そっちのケントはどーなんだよ? なんか、ひでえことしてねえだろうな?」
《『酷いこと』が具体的にどのようなことかはわからぬが。とりあえず、衣食住に困らせるようなことはしておらぬ。下にも置かぬ扱いよ。身の回りの世話をする者も数名つけておるし、問題なかろう。城内を自由に歩き回らせることはしておらぬが》
「って、おい」
リョウマにはわかった。ケントの話題を出したとたんに、魔王の声がいくぶん不機嫌になったことが。
「なんかあったんだろ、ケントと。なんだよ。言えよっ」
《特にはなにも。あやつは基本的に私を嫌っているゆえな。それは私も同じだが》
「いじめたりとか、してねーだろうな」
《わざわざそんな下衆な真似はせぬわ。あやつがなにかと構って欲しげにキャンキャン吠えつくのを、右に左に往なしてはいるが》
(うああ……)
案の定だ。思ったとおりだ。
どうせまたケントのやつが「リョウマは俺の許嫁だ」と主張し、魔王が憮然として場の空気が凍り付いたにちがいない。側近のみなさんが困り果てた顔になるのが目に見えるようだ。まったくもって、こいつもこの件に関してだけは大人げない。千年以上も生きているくせに!
「とにかくっ。ケントには指一本ふれるなよ。ケガなんかさせずにちゃんと返せよっ」
《……当然だ》
(お。また一段、ご機嫌のレベルが下がった)
声音だけでそれがわかってしまう自分もどうなんだと思ってしまうが。
《そんなにあやつが大事か? いくら幼なじみだとは言っても、限度があろうが》
「べつにそんなんじゃねえ。あいつは《レンジャー》なんだし、こっちの村では大事な人間なんだからさ」
《まことか》
「そりゃ幼なじみだから、ほかの奴よりは大事かもしんねーけど……とにかくっ。あんたが思ってるようなことじゃねえっ。許嫁とかなんとか、俺だって完全に寝耳に水だったんだからよっ」
《……そうか》
やや安堵したような声が返ってきて、少しほっとする。
魔王がこの件で安堵してくれることで、なんで自分がほっとしなくちゃならないのかと思うと微妙な気分になるが、まあ要らぬ騒乱は招かないが吉だ、と思い直す。
「それより。なんだよ? 急に連絡してきてよ」
《そなたに逢いたい》
「ふええっ?」
いきなり爆弾を投下するな。
「なっ、なな、なに言い出す──」
《今からそちらに行ってもよいか》
「はあああ!?」
いやちょっと待て。こいつは今、なにを言った?
《声だけでもと思ったのだが、やはり物足りぬ》
「いやちょっと待て。なに言ってんだ。こっちは勇者の」
村なんだぞ、と言いかけた瞬間、指輪からぱあっと赤い光が放たれた。と思ったらもう、目の前に魔王が胡坐をかいた姿で座っていた。
「どひえええええええっ!」
「こら。静かにいたせ」
しっ、と唇の前に指を立てられて絶句する。
いったいこいつ、何を考えているんだ!
「へ? ひえええっ」
いきなり、墨書きのメモだらけの自分の手から魔王の声がして、リョウマは飛び上がった。
声が聞こえてきたのはもちろん、魔王にもらったあの赤い石のついた指輪からだった。
「なっ、なななな……エルケニヒっ? なんで、どーしてっ……」
《落ち着け。外にいるダンパに聞こえぬようにしろ》
「えっ。あ……うん」
慌てて声を潜めるが、とっくに聞かれてしまっているような気もした。が、つぎの言葉で安心する。
《案ずるな。この件はダンパにはすでに伝えてあるゆえ》
「あ。そーなんか……」
《早速だが、別条はないか。ひさびさの里帰りで少しは休めたか》
「あ、うん。今は自分ちに戻ってきて、今から寝るとこ。あっ、それより、そっちのケントはどーなんだよ? なんか、ひでえことしてねえだろうな?」
《『酷いこと』が具体的にどのようなことかはわからぬが。とりあえず、衣食住に困らせるようなことはしておらぬ。下にも置かぬ扱いよ。身の回りの世話をする者も数名つけておるし、問題なかろう。城内を自由に歩き回らせることはしておらぬが》
「って、おい」
リョウマにはわかった。ケントの話題を出したとたんに、魔王の声がいくぶん不機嫌になったことが。
「なんかあったんだろ、ケントと。なんだよ。言えよっ」
《特にはなにも。あやつは基本的に私を嫌っているゆえな。それは私も同じだが》
「いじめたりとか、してねーだろうな」
《わざわざそんな下衆な真似はせぬわ。あやつがなにかと構って欲しげにキャンキャン吠えつくのを、右に左に往なしてはいるが》
(うああ……)
案の定だ。思ったとおりだ。
どうせまたケントのやつが「リョウマは俺の許嫁だ」と主張し、魔王が憮然として場の空気が凍り付いたにちがいない。側近のみなさんが困り果てた顔になるのが目に見えるようだ。まったくもって、こいつもこの件に関してだけは大人げない。千年以上も生きているくせに!
「とにかくっ。ケントには指一本ふれるなよ。ケガなんかさせずにちゃんと返せよっ」
《……当然だ》
(お。また一段、ご機嫌のレベルが下がった)
声音だけでそれがわかってしまう自分もどうなんだと思ってしまうが。
《そんなにあやつが大事か? いくら幼なじみだとは言っても、限度があろうが》
「べつにそんなんじゃねえ。あいつは《レンジャー》なんだし、こっちの村では大事な人間なんだからさ」
《まことか》
「そりゃ幼なじみだから、ほかの奴よりは大事かもしんねーけど……とにかくっ。あんたが思ってるようなことじゃねえっ。許嫁とかなんとか、俺だって完全に寝耳に水だったんだからよっ」
《……そうか》
やや安堵したような声が返ってきて、少しほっとする。
魔王がこの件で安堵してくれることで、なんで自分がほっとしなくちゃならないのかと思うと微妙な気分になるが、まあ要らぬ騒乱は招かないが吉だ、と思い直す。
「それより。なんだよ? 急に連絡してきてよ」
《そなたに逢いたい》
「ふええっ?」
いきなり爆弾を投下するな。
「なっ、なな、なに言い出す──」
《今からそちらに行ってもよいか》
「はあああ!?」
いやちょっと待て。こいつは今、なにを言った?
《声だけでもと思ったのだが、やはり物足りぬ》
「いやちょっと待て。なに言ってんだ。こっちは勇者の」
村なんだぞ、と言いかけた瞬間、指輪からぱあっと赤い光が放たれた。と思ったらもう、目の前に魔王が胡坐をかいた姿で座っていた。
「どひえええええええっ!」
「こら。静かにいたせ」
しっ、と唇の前に指を立てられて絶句する。
いったいこいつ、何を考えているんだ!
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる