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第五章 和平会談
1 指輪
しおりを挟む《勇者の村》との和平交渉のために組織された使節団は、合計五名と決まった。
団長になったのは四天王の一人である大鷲の顔をもつトリーフォン将軍。以下、騎士団長ダンパと大臣級の男が一名、文官の女性が一名、そしてリョウマだ。
魔王自身は自分が出向くことを望んだのだったが、それは臣下一同によって言下に拒否されたらしい。当然だ。
「いきなり『ラスボス』が村に登場したら、長老一同がひっくり返るわ! じじいのだれかが死ぬわ! やめろ、ぜってーやめろ!」というリョウマの鶴の一声が──おもに魔王にだけ通じるやつだが──なんとか通って、本当によかった。
実は魔王、《BLブルー》であるケントのことが気がかりだったらしい。彼が「俺は幼少時からリョウマの許嫁だ」と主張していることを非常に気にしているようなのだ。
(あんなもん、俺だって完全に「寝耳に水」だったっつーのによー)
本当に、心の底から不本意なだけなのに。「あんなので、大の魔王が簡単に嫉妬するなや」と、つい不満がたまってしまう。まったくもって腹立たしい。……いや、ほんのすこーしだけ、嬉しい気持ちがないと言ったら嘘になってしまうけれど。
会談場所は、《勇者の村》からさほど離れていないとある丘と決まった。あまり近いところに四天王トリーフォンを招くのは危なくないか、とリョウマは心配したのだったが、《魔素》への耐性をもたない長老も参加するためには仕方がないのだろう。
そんなわけで、魔王も「使節の人員を最小限にしてほしい」というあちらの要求を飲むことにしたらしい。
ともあれ、その日の朝、使節団は魔王城の前庭に集まった。
トリーフォンはじめ使節団のみなはそれぞれ外交用の礼装になっている。
(ほええ……きれいだなあ)
リョウマが驚いたことに、移動はいわゆる《魔法》のひとつ、《瞬間移動》によって行われるということだった。おもに魔王城所属の高位魔法使いたちによる仕事である。
前庭は閲兵式なども行われるという、かなり広いスペースだったが、その中央にグリーンに輝く丸く巨大な魔方陣が描かれている。複雑な文様はとてもきれいで、思わずリョウマは見惚れてしまった。魔方陣の周囲には、「いかにも魔法職です」と言わんばかりのフードつきの白いマントを着た人々が十二名いて、魔方陣を見守っている。きっと精神集中をしているのだろう。
魔王とその背後に居並んだ将軍たちや大臣たち、兵らとの儀礼的な挨拶が終わり、いよいよ出立の時間がやってきたところで、魔王がすいとこちらへ近づいてきた。
「リョウマ。手を」
「ん? なんだよ」
ひょいと左手を取られ、気が付けばひし形の魔石がはめ込まれた指輪をはめられていた。派手すぎはしないが、美しいデザインの指輪だ。魔石はとろりとした奥行きのある赤い石で、見ているとなんだか吸い込まれそうな気分になった。
そしてそれは、なぜか薬指にはめられている。当然のように。
リョウマの眉間にしわが寄った。
「……えーっと。これはなんだ」
「お守りだ。困ったことがあれば、これに向かって私の名を呼べ」
言ってそのまま、手の甲にキスをされた。
「ふぎゃっ! な、なにすんだてめえっ。人前でこーゆーのはヤメロ!」
「……うん。人前でなければもっともっと致したいところだが」
「わーわーわー! 聞こえねえ、なーんも聞こえねえっ。もう行くぞっ、みんな!」
「ああ。どうか気を付けてな。リョウマ」
魔王の瞳がちょっと寂しそうなのに、めちゃくちゃ優しそうにも見えて、鼓動がまたつい早まってしまう。
首から上が一気に熱くなったのを感じて、リョウマは慌てて後ろを向いた。マントのフードでばふっと顔を隠し、すでに魔方陣の中央に集まっている使節のみんなに大股に近づく。
「それでは、行って参ります」
トリーフォンがそう言って片手を上げたとたん、急に周囲の景色がぐらりと歪んだ。
「あ。まお──」
思わず魔王を見てそう言いかけたが、それは最後まで言えなかった。
少し寂しげに見える魔王の顔が、緑の光に包まれてふわりと空気に溶け、やがてふっと見えなくなった。
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