墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第四章 勇者の村

24 お姫様だっこ

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 そこからの話もまた、ダイダロスに行ったのと似たようなものだった。先にダイダロスを呼んで個別に説得したのは、事前に魔王の味方を作って話をややこしくしないためだったのだろう。

(要するに「根回し」ってヤツか……)

 やっぱり魔王は侮れない。簡単に気を許してはいけない気がする。そう思うのに、リョウマの心の周りにあったはずの壁はどんどん薄く、柔らかくなってきている気がして、なんだか不安になる。

(いや、今はそんなことはいいんだ。集中しなきゃ)

 そんなことを考え、気を取り直すうちにも、話は進んでいる。

「ではその者を使って《勇者の村》をこちらへ取り込もうとおっしゃるのですな」
 いま質問したのはイノシシ顔の将軍、サムイルだ。
「『取り込む』とは申しておらぬ。飽くまでも、和平を模索しておる。この長く不毛な戦いを終わらせることが主眼だ。しかもなるべく平和裏に、な。かれらが望むのなら、こちらの《保護区》でかれらをみな保護しようというのも提案はするが、どう返事をするかはあちらの自由である」
「こちらの《保護区》の意見はいかに」と重々しい声で言ったのは大鷲将軍。確か名を、トリーフォン。「鳥の顔だからトリーフォン……」などとアホなことを考えてしまってから、リョウマは「おいっ。集中!」と自分にツッコミを入れる。

「そちらについては、先日リョウマ自身が確かめに行ってくれた。結論から言えば『否』だ。理由は過去のしがらみ。勇者たちのせいで、歴史的にこちらの人間は多くの差別や迫害を余儀なくされてきたゆえな」
「ふむ。無理からぬことにございますな」
 トリーフォンのいらえに、魔王はうなずいた。
「かれらを今すぐ同じ地域で保護することは難しいだろう。先々どうなるかはわからぬがな。ともかく、大きないさかいに発展せぬよう注意が必要だ。そちらについては余に考えがあるゆえ、案ずることはない」

 ふむ、と将軍たちが目を見合わせる。
 リョウマもちょっと不思議に思って隣の魔王の顔をこっそりうかがってしまった。

(いったい、何を考えてんだ……?)

 たとえこの交渉がうまくいっても、あの《保護区》に入れなければ自分たちはきっと行き場をなくしてしまうのに。
 と、魔王の視線がふいとこちらへ流れてきて、にこりと微笑まれた。まるで「案ずるな」と言われたかのようだ。リョウマの心臓が、また勝手にどきんと跳ねた。

「陛下にお考えがあるとおっしゃるならば、いなやはありませぬ」

 重々しいがひどく冷ややかにも聞こえる声で言ったのは、恐竜将軍プローフォルだった。男がしゃべると、耳のあたりまで裂けた大きな口の中に尖った大きな歯がぞろりと並んでいるのがよく見えた。ついつい、あの牙で体のどこかを食いちぎられる想像をしてしまい、リョウマはぞくりと寒気を覚えた。

「使節はいつごろ派遣されるおつもりで」
「人員を決定次第、いつでもだ。お互いの戦死者がなるべく少ないうちに手を打つ。とりわけ、今の世代の《レンジャー》が誰かを手に掛けぬうちにな」
「了解しました」

 悠然と答えたのはダイダロスだった。事前に話が通っているからなのは大きいが、だからといって魔王をひたすら擁護するという風でもない。他の将軍を刺激しないためだろう。だが、この男がこの場で強硬に反対を述べないだけでも、魔王は大いに助かるのだろうと思われた。
 つまりそれだけ、ダイダロスには発言権と人望があるのだ。見ているだけでもわかる。ダイダロスはほかの将軍たちからさえ、一目置かれているらしいのが。

「では、決まりだな」

 ということで、この四天王との会談は終了となった。

「……リョウマ。どうしたのだ」
「え? なにが」
「それだ」
「あっ?」
 
 リョウマは慌てて、魔王のマントから手を放した。どうやら彼とともに後宮側へ戻る間、自分は無意識のうちにずっと魔王のマントの端をつかんでいたらしい。

「あっ、い、いや、これはその──」
「疲れたか? 『お姫様だっこ』とやらをして進ぜようか」
「うひゃあああっ」

 言い終わるか終わらないかで、もうひょいっと横抱きに抱き上げられて、リョウマはまたもや奇声をあげるはめになった。
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