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第四章 勇者の村
23 魔王軍四天王
しおりを挟む魔王とリョウマがその部屋に入ったとき、四名の将軍はすでに着座していた。
謁見の間にもいくつか種類があるようだったが、そこは少人数での会談に使われる部屋のようで、比較的小ぢんまりとした空間だった。使用人などはだれもおらず、いるのは会談に参加する六名だけだ。
中央に大きめの円卓が置かれ、それを囲むように将軍たちが座っている。魔王は悠然とその背後を通り抜けると、もっとも上座に当たる場所に席を占めた。そのすぐ隣に、なぜかリョウマが座らされる。
もちろん最初、リョウマは断った。だが魔王はリョウマの言葉など完全に無視した。本来椅子のなかった場所に、侍従にいいつけてわざわざ椅子を持ってこさせたのだ。
どの将軍もダイダロスに負けず劣らずの巨躯の持ち主であり、いずれも堂々たる佇まいである。三名は、それぞれ大鷲の顔を持つ者、イノシシの顔を持つ者、そしていかにも恐ろしげな肉食恐竜の顔を持つ者だった。
魔王がリョウマの紹介をすると、大鷲顔はみずからトリーフォン、イノシシ顔がサムイル、そして恐竜顔がプロ―フォルとそれぞれ自分の名を名乗った。
予想通りというか、三名はやっぱり奇妙な目をして魔王の隣に座る黒髪の人間を見つめてきた。やがてそれを「わが王配にしようと思う」と魔王が紹介したところで、「なんと!」と表情を変える者もいた。特に顕著なのはイノシシ顔のサムイルだった。
「そのような人間ごときを尊き王配殿下になどと……まさか、本気ではございませんでしょうな、陛下!」
「いや、本気だが?」
魔王はにこにこ顔のままそう応じた。
「ついでに言うと、これはあの《勇者の村》の者だ。そなたらもよく存じておろう。あの《ビーストランド・レンジャー》とやらいう者のうち、赤い武装をした者で、みずからを《BLレッド》などとも呼んでおるな」
「なっ……なんですとっ? あのレッドですと? その者がっ!」
イノシシ顔の将軍が剣に手をかけて立ち上がり、やがて口をぱくぱくさせて押し黙るまで、魔王はダイダロスとやったようなやりとりをもう一度繰り返した。しまいには完全にあきれ果てた体で、イノシシ将軍はどかりと席に腰を落とした。
あとの二人はその様子を見ているだけで比較的静かだった。
大鷲顔のトリーフォンは落ち着いた人のようで、終始難しく厳しい顔はしていたが声を荒げたりはしなかった、ただ猛禽類に特有の厳しい眼光で、終始じいっとリョウマを睨み据えていた。リョウマはその眼光だけで皮膚がぴりぴりしてきた。それだけで、すでに顔にいくつも穴が開いたような気分になった。
恐竜顔の──あとで魔王から聞いたところによれば、それは古代文明の中で「T・レックス」などと呼ばれた恐竜によく似ているのだそうだ──プローフォルの目はうすら寒く思うほど酷薄で、人間味をまったく感じなかった。なんとなく、その男の周囲だけ空気の温度が低くなっているように思われるほどだ。
時おり短く「ふむ」とか「なるほど」とか「なんと」とか言うぐらいでほとんどそれらしい発言はせず、基本的に水を打ったように静かだ。だがその裏に何か底知れないものを感じて、リョウマは背筋が冷たくなるのを覚えた。
ともあれ、最終的には三名とも、しぶしぶながら「陛下の決定に逆らうなどということはございませぬ」というところで決着した。
「さて。落ち着いたところで早速本題に入ろうではないか」
魔王が両手を叩いてこう言ったときには、すでに一時間ほどが過ぎていた。
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