墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
63 / 189
第四章 勇者の村

21 覚悟

しおりを挟む

「先に申しておこう。先ほどリョウマが言ったように、この話を進めるにあたってあちらが私の首を所望しょもうすると言うならば、私に否やはない」
「えっ」
「なっ、なんと……!」

 リョウマがあまりのことに絶句し、呆然とする。その一方で、ダイダロスはたてがみを逆立てて大声をあげていた。

「左様なことっ……とんでもなきことにございますっ! どうか撤回を。その者の前で仰せになってはならぬことにございますればっ」
「少なくともこの件で、リョウマになにかを隠すつもりはない」
「まお──」
「なりませぬッ! 陛下は我が国のかなめにございまする。われら四天王の中には、虎視眈々とその権力を狙っている者もおりますれば。陛下ご不在ということになれば、国は荒れることになりましょう。国家の屋台骨に、修復不能のヒビが入ることになるやも──」
「大げさな」

 魔王はふはっと笑い飛ばした。

「私はそなたらの判断力と統率力を買っておる。特にそなた、ダイダロスには大いに期待しているというのに」
「自分に陛下ほどの力など到底ございませぬ。今は臣下である者らが互いの権力を奪い合おうと噛みあい、殺し合いになる危険性すらありまする」
「そこまでか?」
「はい」
「……そうか。それは困ったな」
「ってか、オイ! 話を聞けっつーの、お前ら!」

 ふむ、とまた魔王が顎をさすったところで、リョウマはやっと口を挟めた。

「ん?」
「大体、話が飛びすぎだっつーのよ。誰がおめーの首が欲しいっつった?」
「それは今、そなた自身が」
「俺が言ってんじゃねえっ。村のじーちゃんばーちゃんなら言いそうだっつっただけだ。俺はんなもん、欲しくねえわ!」
「そうなのか?」

 ひょこっと首をかしげている。本気でわからないらしい。リョウマはかあっと頭に血が上ってきたのを自覚した。

「たりめーだろ! 大体、お前の首なんかとっちまったら、《保護区》の村の人らにどちゃくそ恨まれるに決まってんじゃねーか。んなアホなこと、誰が望むっつーのよ」

 そうなのだ。あの時、魔王を囲んで「まおうさま、まおうさま」と言っていた子どもたちの顔が脳裏に浮かぶ。大人の村人たちだって、この魔王に心から感謝し、尊敬している様子だったのは記憶に新しいところだ。かれらに受け入れてもらうことが重要なのに、自分たちからかれらの反感を買うような真似をしてなんの得があるだろうか。

 それに、ダイダロスの言も一理ある。この魔王の国を素晴らしい統率力と人望でもって長年運営してきたのはこの魔王だ。四天王も相当な力と求心力を持っているはずだが、そのかれらを抑えてまとめてきたというのは並大抵の手腕ではない。しかも、それを内乱もなしに何百年も続けてきている。これは無視できないファクターだ。
 この男の首を所望などしたら、のちの和平に大きな傷が残る。リョウマもこの点では、ダイダロスの意見に賛成だった。
 リョウマがなんとかかんとかそう説明するのを聞いて、魔王は微笑み、ダイダロスは全身から放散しかかっていた殺気をふたたびおさめた。

「そうか。そなたがそう判断するのであれば、なによりだ」
「左様にございますな」
「ではリョウマ。あらためてそなたに頼みがあるのだが」
「ん? なんだよ」

 と、魔王はリョウマの体から手を放し、ソファから立ち上がった。そうして、リョウマの目の前に片膝をついた。ダイダロスが慌てた様子になる。

「へっ、陛下!」
「そなたはこれから、魔王国とそなたら人間の村との橋渡し役になってくれぬか」
「えっ?」

 突然言われたことに、リョウマは目を白黒させた。ダイダロスも呆然と、人間の青年の前にひざまずいている自分の主君を見つめている。

「そなたがこちらの国へ来て、そなたの目で見て、感じ理解したことをもって、そなたの村人に事実を話し、かれらが今後のことについて思案するのを助けてやってほしい。そうして、我が国とそなたの村との和平に向けて大いに働いてほしいのだ」
「え? え? いや、ちょっと待てよ──」

 そんな大役、自分に務まるわけがない。目でそう訴えたが、魔王は微笑んで首を横に振るのみだった。

「そなたならできる。若いとは申せ、そちらの村でのそなたの人気は大したものであるようだ。そなたは表裏もなく、嘘もつけぬ。そなたの村の皆は、そうしたそなたの性格を熟知しているようだしな。『魔王の手先になった』などとは、まず疑われることはあるまい」
「い、いや。それはそうなんだけど」

 確かに、村人たちや《レンジャー》の仲間から「バカ」だの「単純」だのと言われたことは数知れない。

「今、すでに《保護区》の少年トキがそちらの村に入り、ある程度の情報を村人に与えているであろう。そなたが見聞きしてきたことによってその情報は補強され、さらに信用に足るものと見做みなされることなろう。その情報をもって、長老たちが今後のことをよくよく考え、合議してくれればよい。……結論として、やはり私の首を所望することになるとしても、私は拒否することはない。それもついでに伝えてくれればよいのだ」
「だからっ、それは!」

 思わずがばっと立ち上がってしまった。だが魔王は、静かな目線ひとつでリョウマの次の言葉を遮った。

「リョウマ。『上に立つ者』の存在意義とは、そういうことだ。いざとなれば自分の命を使ってすべての恨みつらみをおさめる。逆に言えば、そういう覚悟もなしに大勢の民の上に立とうなどと思ってはならぬ。……と、そういう風にも言えるわけだがな」

 魔王の視線は絶句したリョウマの上から動かない。だがこの言葉は背後のダイダロスにも向けられたものだろう。つまりこれは、リョウマとともにダイダロスにも聞かせているということなのだ。
 ダイダロスは厳しくなった相貌のまま、じっと魔王の背中を見つめている。

(……いやだ)

 なぜかはわからない。
 わからないが、今、リョウマの頭のなかで駆け巡っている言葉は、ただこれだけだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...