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第四章 勇者の村
5 対案
しおりを挟む「で? 話を戻すわよ。魔王っ、あんたはなんでリョウマをとっつかまえたままなのよっ。返しなさいよ! そんなんでも一応、あたしたちのリーダーなんだからさあ」
《一応って……ひでえ》
今度はリョウマが心底傷ついた顔になった。
が、それを見逃さないのが魔王であった。
《なんだ、リョウマ。故郷では思った以上に大切にされていないのだな? そう傷つかなくてもよいのだぞ。だったら心置きなくこちらで楽しく過ごせばいいではないか。このままこちらで私の『配殿下』として暮らすがよい。これ以上ないほどに大切にし、幸せにしてやろうほどに》
《うるっせえよ! てめえはちょっと黙っとけっ》
「はいでんか……? って何よ」
首をかしげたのはサクヤだけではない。玉を持ってきた使者の少年以外の全員が、多かれ少なかれ腑に落ちない顔になっている。
リョウマが「はああ」と頭を抱えて溜め息をついた。非常に情けない表情だ。
《要するに、コイツのヨメみたいなもん、だってよ……くっそう》
「嫁だと!? それは一体どういうことだっ」
今までそこで涙目でうずくまっていた《ブルー》ことケントが、ぱっと身を起こして叫んだ。なんだか急に元気になったようだ。対する魔王は、なぜか上機嫌になっている。
《嫁というか、まあ妻だな。女性であれば王妃のポジションということだ。リョウマは男子なので、配下のみなには『配殿下』と呼ばせている》
「その説明を求めてるんじゃないと思うわよー」
サクヤはすかさず半眼で言った。完全に棒読み調で。
「冗談じゃないっ。俺のリョウマだぞ。昔の約束は忘れてしまっていても、俺と結婚するはずだったのに!」
《いや待て。だからそんな約束──》
《リョウマ本人は覚えがないと言っておろうが》
リョウマが口を挟んだのにかぶせるようにして、魔王が言い放った。
「それはそうでもっ。だからって、貴様のヨメになる意味がわからないじゃないか! リョウマは俺たち《BLレンジャー》の《レッド》で、リーダーなんだぞ。ごたくはいいからさっさと返せ。千年以上も生きてるジジイが年甲斐もなく、若い男を自分のものにしようとするなっ、横暴だぞ!」
「いや《ブルー》。年齢のことを言うのはちょっとこの場合、可哀想なんじゃ……」
腰に手をあててビシッと魔王を指さし、決めつけているケントの後ろで《ピンク》ことハルトがこそっと言った。優しいハルトはなんだかんだ言っても物事を冷静に見ているところがある。ふわふわした茶色の髪に、ひょろっとした体形の小柄な青年だが、頭の中身は意外としっかりしているのだ。彼がいまの《レンジャー》のブレーンと言っても過言ではない。
「恋愛に年齢がどうのこうのは、基本関係ないでしょ? そもそも魔族と人間では寿命そのものだって違うんだし。それに、好きになっちゃったもんは好きになっちゃったんだから。しょうがないでしょ」
《おお。そちらの桃色の御仁はなかなか話がわかるじゃないか》
「あ、いや。別にそういうことでもないんだけど……」
満足げな魔王の言葉に、ハルトはちょっと頭を掻いた。
「結局、リョウマがどうしたいかってことでしょう? 大事なのは」
「それはまあ、そうでござるな。我らはリーダーがいなくなると困るわけだが、リョウマがどうしてもと言うならば、否やは言えぬ」
うんうん、とコジロウもうなずいている。
「いやいや、ちょっと! みんなして何言ってるんだよ。相手はあの魔王だぞ? リョウマはこれからずーっと、魔族の国で暮らすことになっていいってのか? あいつのヨメになって暮らせって?」
「い、いやそれは……」
ハルトが困った顔になってコジロウと目を見合わせた。
黙り込んでいる古老たちをちらっと見渡してから、サクヤは溜息をついた。
「……とにかく。リョウマがどうしたいかってことよね。でしょ?」
「ううん……」
納得のいってない顔で、ケントが目を泳がせる。
「リョウマ! あんたどーなのよ。そのままそっちにいて、これからも魔王の『ハイデンカ』とかをやるつもりなの? 《レンジャー》の《レッド》はどーすんのよ?」
《いや、だっから! 俺はひとっことも、『配殿下になりてえ』なんて言ってねえっつの! 《レッド》を辞めるなんてのも、ひとっことも言ってねえかんなっ》
リョウマが真っ赤になって叫んだ。だが、相変わらず魔王の膝の上に「ちんまり」と座って──リョウマだって立派な成人男子なのだが、とにかく体格差がありすぎてそう見えてしまうのだ──ときどき魔王に頭をなでなでされるという状態で。
うん、恰好がつかない。ものすごく。
《そんなことを申すな、リョウマ。『幸せにする』と言ったのは本気だぞ。なんなら私はそちらの村人にも、今後こちらの保護区へ移ってもらってもよいと考えているのだが》
《え? マジ?》
「ん? どういうことよ」
唐突に出てきた話題に、またもやこちらの一同はきょとんとなった。
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