墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第四章 勇者の村

3 大混乱

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 《やあ、勇者の村の諸君。こうして挨拶をするのは久しいな。どうやら懐かしい顔も見えるようだが、みな息災にしておったか》
「おかげ様で、みな息災じゃとも。それよりも聞きたいことがあるのじゃがの、魔王」
 《なんなりと申せ》
「その──」
「リョウマあああっ! このクソボケリーダーっ。あんたそこでいったい何をやってんのよおおおおっ!」
 《どひぇえっ?》

 大人同士の静かでしたたかなやりとりに、我慢しきれず割って入ったのはもちろんサクヤだ。そして画面の中のリョウマが盛大にびっくりして、魔王の膝からずり落ちそうになった。
 魔王の大きな手がすかさず彼の腰をがしっと捉えて座り直させる。リョウマは恐らく無意識に魔王にすがりついてしまいながらも、へどもどした顔で目を泳がせている。と思ったら、今度は猛然と魔王に食ってかかりはじめた。

 《なっ、ちょっ……ウソだろ? てめえっ、こっちのことはあっちに見えねえって言ったじゃねえかよクソ魔王っ! ちくしょうまた騙しやがったなっ。下ろせクソボケ、エロ大魔王っ》
 《あっははははは!》
「なっ……?」

 こんな風に楽しそうにバカ笑いする魔王なんて初めて見た。大笑いしながらも、その両手は大事そうにぎゅうっとリョウマの体を抱きしめたままで、リョウマがどんなに暴れようが絶対に放す気はなさそうだ。

(ど……どういうこと? これはいったい──)

 サクヤはあまりの驚きに二の句が継げなくなった。ほかの古老たちやレンジャーも同様である。

「あっ……ああ、あんたっ。リョウマ! 一体そこでなにやってんのよっ。あたしたちがどんなに必死であんたのこと探し回ったと思って──」

 そして、みんながどんなに心配していたと思っているのか、このバカリーダーは!

 《あ。う、うんっ。ごめんな、サクヤ。それにみんな……心配かけたよな。本当にごめん》

 リョウマが急に申し訳なさそうな顔になってしょげかえった。こういう時のレッドはズルい。わざとではないのだろうが、本気で反省してしょげてしまう。それが、可愛いワンコに見えてしまって、最終的にはだれもがついつい、彼を許してしまうのだ。

 《まあまあ。そう責めてやるな、黄色い小娘よ》
「だっ……だれが『黄色い小娘』よっっ」
 《あの戦闘のおり、われらは二人で『魔の森』へ落ちてしまった。その後、リョウマが人事不省の状況に陥ってしまったゆえ、こちらで預かって介抱させていただいていたまで》
 《かいほう……》

 一瞬あんぐりと口を開けてアホ面になったリョウマが、また猛然と魔王にかみついた。

 《てめえっ。あれのどこが『介抱』だばっきゃろーが! このクソエロ大魔王っ、誘拐犯っっ。いいから放せ、俺を下ろせえっ》

 しばらくじたばたともがき、それが叶わないと見るや、今度は拳を振り上げて魔王の胸元をぽかぽか殴りつけている。が、魔王は一向に痛そうな顔さえしなかった。リョウマのことは意に介さず、こちらへの返事を続行している。

 《だがひとつ、問題が生じてしまってな》
「問題? というのは?」答えたのは古老である。
 《私個人の問題なのだが。こちらで預かっているうちにどうあっても、このリョウマを手放したくなくなってしまったのだ》

 言いながらその大きな手でリョウマの頭を優しく撫で、セリフの最後でついにちゅっと、彼の頭頂部にキスを落としたのを見て、こちらは全員、完全に真っ白になって固まった。

(……は?)

 恐らく同じように真っ白になっていたらしいリョウマも、今度は急に真っ赤になって爆発した。

 《てっ……ててててんめえ! 人前でなにをしやがるうっ》
 《おや。人前でなければよいということかな? それは喜ばしいことよ》
 《ちげえっ。そういうことを言ってんじゃねーっっ! バカ、アホ、いいから放せ下ろせちくしょうが~~っっ》

 リョウマがじたばたもがいた拍子に結構なパンチやキックを浴びていながらも、魔王はずっと暴れる子犬でも抱いているかのように嬉しそうな笑みを浮かべてずっとリョウマを抱いたままだ。
 と、呆然としていたこちらサイドにもついに声を上げる者がいた。

「リョ……リョウマ。まさかそんな……そんなことがっ」

 全身をぷるぷる震わせて立ち尽くしている長身の男。《ブルー》すなわちケントだった。

「お前っ……。俺という者がありながらっ」
「……はあ?」

 今度はそっちをぎょっと振り返るサクヤだった。
 今度は何を言い出すんだこっちのブルーが。と思ったら、画面の向こうのリョウマも動きを止めて完全な「キョトン顔」になっている。

 《……ん? え? どした? ケント》
「どうしたもこうしたもあるかっ。俺とお前は、将来を誓いあった仲じゃなかったのかっ!」
「え、えええ~~~っ?」
 奇声をあげたのは《ピンク》ことハルトだった。
「いったい、何がどうなっているのでござるかっ?」
 そう言ったのは《ブラック》ことコジロウ。この男、終始異常に古風な話し方をする奴なのである。

 と、画面の向こうの魔王の表情がいきなりがらりと変わっていることにサクヤは気づいた。すっと細められた瞳が爛々と燃え盛り、じっとケントを睨み据えている。

 《なにか、聞き捨てならぬセリフが聞こえたが。説明してもらおうか、そこの青二才》
 《え? いやちょっと待てよ魔王。俺はなにがなんだか──》
 《そなたは少し黙っていよ。私はそこの青いのに用があるのだ》
 《え、えええ~~~???》

 ひたすら焦った様子のリョウマを魔王は、さらにきっちりと抱きかかえてこちらを睨んでいるだけだ。

(え? なに? ちょっと、どうなってんのよ……?)

 まったくわけがわからない。
 魔族と人間の村とのまじめな話し合いが持たれるとばかり思っていたのに、一体これはどういうことなのか。
 どうにかしろ、この男ども!
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