墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
32 / 214
第三章 魔族たちの街

8 痛み

しおりを挟む

「うう。ちょっと食べすぎた……かも」
「ははは。まあそなたのことだ、すぐに消化するのだろう。問題ない」
「いや、あんたなあ……」

 人を残飯処理機みたいに言うのはやめろ。
 むっとして見上げるリョウマの手を取って、次に魔王が向かったのは噴水広場からちょっと東側へ入った場所だった。大通りに面した、大きくて洗練された形の建物がいくつか集まっている地区だ。そのうちの特に大きな建物が魔都の中央図書館と博物館だと、魔王は説明してくれた。

「へ~。こんなでかい建物が? 図書館と、博物館……?」
「デジタル資料も多いとはいえ、やはりこういう建物は大きくなるものだろう」
「そうなん?」

 自分が生まれたあの村には、当然こんな建物はない。ないゆえ、リョウマには「それが普通」だとか「常識」だとかいう感覚がいっさいわからないのだ。それがちょっと悔しい。
 魔王であるエルケニヒは本来であれば「顔パス」なのだろうけれども、リョウマに合わせて今は《擬態》をしているため、そのための身分証を持っているらしい。それを使って、まずは図書館に入った。ちなみに身分証兼通行証は手首にはめる細いバンド状のもので、それを入口でセンサーにかざすだけでOKということになっている。

「さあ。ここにその手首のものをかざすのだ。このように」
「え、えーと。こう……? うわっ!」

 図書館の入口のところで、リョウマもおっかなびっくり、自分の手首を壁の四角く光っている窓にかざした。それが「センサー」というものなのだという。すると、手首のバンドがちかっと光って、表面に小さな星印が現れた。その印がある人だけが「入館許可を得た人」ということになるらしい。

(なんか……すげえな)

 いちいち、進んだシステムにびっくりしてしまう。一体これはどういう作りになっているのだろう。じっと見つめても撫でても嗅いでみても、一向にしくみがわからない。
 図書館の資料は、本物の本の量もものすごかったが、なによりパネルを操作して検索することができるデジタル資料の量がすさまじかった。この地球に関連する様々な情報が、ちょっとしたキーワードをいくつか入力するだけですぐに出てくる。それも、パネルで入力してもいいし、パネルに向かって話しかけて《AI》とかいうのに答えてもらってもいいという。
 魔王が先ほどリョウマに言ったことは、それを見ただけでも嘘でないことがすぐに明らかになった。地球の歴史に含まれる山ほどの情報が、長年の人類の研究成果とともにここに詰め込まれているのだ。リョウマにとっては信じられない体験だった。

 驚きの体験は隣の博物館でもまったく同様だった。太古の昔の生き物たちの巨大な骨格標本。人間がホモサピエンスになる以前の、毛がいっぱい生えたような姿をした「類人猿」の姿を再現した人形。もう驚きの連続だ。
 周囲にいる異形の姿をした市民たちは、それを当然のように享受していて、ごく当たり前に機器を操作したり、本を開いたりしてそれぞれにくつろいでいる様子だった。なかには学校からやってきているらしい、子供たちの集団もいる。

(なんてこった……)

 もう頭を抱えたくなった。
 この街は、見れば見るほど自分の村とは大違いだ。こんな凝ったシステムなんて、あの村にはない。こんなに大きな建造物も、空とぶ車も、豊かな食糧も、なにもないのだ。
 ここには食べることや着るものや住む場所に困っている人なんかいなさそうだし、見たところ道で寝ている貧しい民なんかもいない。住んでいる人たちが基本的にみんな幸せそうに見える。

(こんな……こんな、ことって)

 最初のうちは驚きばかりがまさっていたけれど、次第にリョウマの胸に広がり出したのはひどく虚しく、どうしようもない痛みを伴う気持ちだった。

 こんなことってない。こんなのは不公平だ。
 どうして俺たちばかり、あんな生活をしなくちゃならない……?
 俺たちがいったい、なんの悪いことをしたって言うんだ。
 故郷の村は、とても貧しい。迫りくる《瘴気》から逃れ、ごくわずかに残された清浄な地域に身を寄せ合うようにして暮らしているのだから、当然そうなってしまうのだ。人間にとって安全な空気も、水も、食料も、ほんとうに限られている。その少ない資源を分け合いながら、なんとかかんとか毎日を暮らしていくのが精いっぱいなのだ。
 時にはその少ない資源を奪い合って、喧嘩や争いだって起こる。
 こんな豊かさを、故郷の村人たちはだれも知らない。

「……どうしたのだ? リョウマ」

 急に静かになり、壁に向かってじっと立ち尽くしてしまったリョウマに、背後から魔王が心配そうな声を掛けてきた。

「……うっ。うううっ……」

 うるせえよ、と言いたかったのに、声がみっともなく歪んでしまいそうになってリョウマは唇をぎゅっと噛みしめた。
 フードをぐっと下げてうつむく。そのとたん、ぱたぱたっと足元に涙の雫が散らばった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...