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第三章 魔族たちの街
6 いざ魔都デート
しおりを挟む「ってちょっと待て。ちょっと待てやゴルア!」
「なんだリョウマ。そなたはまこと、ずっと騒がしいなあ」
「うるっせえ! だったら騒がしくさせんなや。なんだっつのこの《擬態》はよー!」
大きな姿見の前に立って、いまリョウマは憤慨の真っただ中である。
その頭からは、髪と同じ黒い毛皮の生えた大きなやわらかい耳が生え、ひょこんと垂れている。さらに、器用に衣服に穴や切れ込みが入れられた尻のあたりからは、ふさふさした黒い尻尾が突き出ていた。
あとはすべて人間の仕様のままだが──完全に犬。これは犬だ。黒いむく犬!
たった今、魔王が「では《擬態》の魔法を使うゆえ、ちょっとそこに立ってくれ」と言ったかと思ったら、急に頭と尻のあたりがもぞもぞして、次の瞬間にはこの姿に変えられてしまっていたのだ。
「犬は好みに合わないか? キャンキャン吠えるのが好きなそなたにはぴったりだと思ったのだが」
「てめえっ。いつもいつも、ひと言多いんだっつの。てかそうじゃなく! こんなカワイイのじゃなくて、もっとこう、なんかカッコイイのがあんだろ? ドラゴンとか、タイガーとかさあ……」
「なにを言う。『可愛い』は正義。そして『正義』はそなたの合言葉ではないか」
「なんか都合のいいようにヘリクツ展開してんじゃねえ。そんなんで騙されねえかんなっ」
「いや、待ってくれ。そうだな……なるほど違うかもしれん。確かにネコも捨てがたい。黒猫になったそなた……宝石のような愛くるしいネコの瞳……うむ、そちらが正解かも──」
「だーっっっ! うるせえ黙れクソ魔王──!!」
いらん妄想を勝手に展開するな。本当に脳みそ溶けてやがるんじゃねえかと、本気で疑う。
ぶんむくれているワンコ状態のリョウマを引きずるようにして、上機嫌の魔王はまた人間の村を飛び出ると、まっすぐに魔都の中心部に向かった。
◇
(ほへえ。これがデヴァーデンスか──)
魔都デヴァーデンスの中央部には、大きめの噴水が設置されている。周囲が円形の大きな広場になっていて、様々な容姿の人々がゆっくりと散策している。周囲には美しく整えられた花の咲いた植え込みや木々もある。ちょうど公園のようなものらしい。
小さな子どもをつれた、親らしい者はワニのような顔をしている。数名でちょこまかと歩き回っているのはクラゲのような姿だ。水がなければ生きられない生き物の場合は、なにか透明なカプセルのようなものを頭にかぶって生活しているらしい。
なによりリョウマが驚いたのは、彼らが利用している交通機関だった。なにしろすべて、宙に浮いている。個人で使っている車らしいものもそうだ。
流線形の洗練されたデザインで、白っぽいものが多い。透明の大きな窓がついていて、乗り降りするときには天井ごとがばっと開く。乗り降りするとき以外は、人々にぶつからないような高度を保ってほとんど音もなくすいすいと宙を飛んでいるのだ。
「これは何回目だろうな。珍しいのはわかるが、あまりきょろきょろするでない。ついでながら、あまりぽかんと口をあけっぱなしにするのもやめよ」
「わ、わかってるけどお~……」
無理を言うな。こんな初めて見るものばかりで、きょろきょろしないでいるほうが拷問ではないか。
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